第10話 無表情アルビノロリとご飯食べるやつ
友人に少女の存在がバレて一週間。俺と少女の同棲生活に変化はない。
「おかえりなさい。夕飯はできてます。今日はおでんですよ」
おでん。寒くなってきたし、一人暮らしを始めてからしばらく食べていなかったし。これはうれしいメニューだ。
「すぐに着替えてくる」
「待ってます」
微笑んで返事をする彼女は、来たばかりのときに比べると、いくらか表情豊かになっている……ような気がする。まじまじと眺めていると変に思われるので、目を合わすのもわずかにしてさっさと部屋着に着替えてくる。
それにしても、プレゼントしたエプロンがよく似合ってた。白い髪、白い肌に合わせて、白いエプロン。白尽くしだけども、秋の月のようなひんやりとした輝きを持放っているようで、彼女自身の雰囲気にぴったりだ。
ということで着替えて夕食の時間。おでんの具は牛スジ串、てんぷら、こんにゃく、ニンジン、餅きんちゃく、大根。具を皿に移して、二人で向き合って食べる。まずは大根から。じっくり煮込まれているおかげで、箸を入れればスッと切れるほど柔らかい。口に入れたら……
「あっふ、あふ!」
めっちゃ熱いです。でもしっかり味が染みてて美味しい。
「どうですか?」
「美味しい。短期間でよくここまで上達したね」
「ありがとうございます」
この上達速度には驚かされる。最初のころの失敗が嘘のよう。
「数をこなしたおかげで、道具の扱いにも慣れてきました。もううっかり手を切ることもないでしょう」
言われてから手元を見てみれば、手指に小さな傷跡がいくつか。綺麗な手なのに、もったいないという気分になる。しかし彼女が何もせずに過ごしていれば、違う方向で役に立とうとし始めるから止めるわけにもいかない。それは俺の理性が危ない。
「絆創膏使ってもいいんだぞ」
「指先に貼っても、どうせすぐに剥がれますから。このくらいの傷ならすぐに治ります」
「剥がれない貼り方があるんだ。ちょっと待ってろ」
絆創膏を取ってきて、両方のテープ部分の真ん中に切れ込みを入れる。
「指出して」
「もうかさぶたができてますが」
「指はよく使うから、すぐに剥がれる。それに何か当たると痛いだろう」
「わかりました」
傷口の保護は大事。出された指は、左手の薬指。変なところを切るもんだ、と思いながら、絆創膏を貼る。切った部分を交差させて貼ると剥がれにくい。
「こんなやり方があったんですね」
巻かれた絆創膏をじっと眺める彼女。こういう幼いしぐさを見ると、相応の歳に見えて安心する。
「でも一人だとやりにくそうですね。また怪我をしたときにはお願いします」
「おう。ただ、できるだけ怪我しないように。指を軽く切るくらいならいいけど、骨折ったり。転んで頭を打ったりはしないでくれよ」
そんなときはもちろん病院に連れて行くが、説明が面倒だ。不法滞在とかで警察に連れていかれたらどうしよう。そもそも国籍がないからめちゃくちゃ面倒なことになりそう……よし、このことは考えないでおこう。
「それにしても、ほんとによくできてる」
練り物から味が出てるから、塩を足せばちょうどいい味になる。いわゆる塩おでん。にんじんも大根と同じで、柔らかいし味もしみてて。それににんじんの甘さが加わって、大根とはまた違った味。野菜嫌いの子供でも食べられるだろう。
どの具材も美味しくて、箸が止まらない。
「材料を切って煮るだけでしたけど、こう張り切って食べてもらえると嬉しいですね」
「自分で作ると時間がかかるし材料も多いしで面倒だからな。作ってもらえるとこっちも嬉しい。それに、簡単なように見えても美味しく作るのは難しいぞ」
シンプルなだけに、料理人の腕が試される。大抵まずくはならないのだが、ごくまれに恐ろしくまずいものを作る人が世の中には居るのだ。カレーをまずく作るとか一種の才能だよね。
「これからも精進します」
「料理以外でも家事をしてくれるから助かってるんだから、無理はしなくていいぞ」
掃除とか洗濯とか。一人暮らししていると、仕事終わってからじゃなかなかやる気にならずに溜まってるってことも多かったが。今はそういうこともなく。お家は清潔、美少女効果でストレスもなく、幸せな生活を送れています。
「無理ではありません。純粋に、学ぶことが楽しいからやってるんです」
「勉強が楽しいか……うん、いいことだ」
しかし残念なことに、学校へは連れて行ってあげられない。国籍がないから。アウトローな方々に伝手があれば別なのだが、当方はあいにく善良かつ模範的な一般市民だ。そんな方々に接点などどこにもないし、これからも持つつもりはない。
正式な手段で取得してはどうだろう。とするとこれまた条件が面倒なんだよなぁ。いかんいかん、めんどくさいことは考えない。
「……なにか、悩み事でも?」
こういうときは現実逃避、とばかりに彼女の顔をぼーっと眺めていると、反応があった。
「見惚れてただけだ」
実際彼女は可愛らしい。拾ったばかりのころよりも、ずっときれいになっている。元々美形だったが、拾ったときには野良猫みたいに痩せてて、肌ツヤも悪かった。今ではそれらが改善されたおかげでパーフェクト美少女になっている。違いをわかりやすく言うとただのサイヤ人と超サイヤ人だ。
もう少し具体的に言おう。髪は手入れが行き届いているおかげで絹糸のようにサラサラしている。かさかさと荒れていた肌は潤い、張りが出て、元から雪のように白い肌は淡く輝いて見える。体もすこしだけ肉がついて、触ればさぞ心地よいだろう。
今誘惑されたら間違いなく落ちるな。やばい。
「珍しいですね。あなたが冗談を言うなんて」
「そういう日もある」
幸い、冗談で流してくれたようだ。冗談を冗談と捉えられる余裕も出てきたというのは、いい兆候だ。マジで捉えられたら迷いなく襲ってくるだろうから、我ながら迂闊なことを言ったと思う。
更新が遅くなってすみません。
体調不良と仕事の疲れにより、しばらくダウンしておりました。