フォレストヒル
――レイフィルさん、どうしたんだろう・・。
ミアは少しだけ不安に思いながら、そっと車窓から外を窺った。
窓の外には雑草の生い茂った、かなり広い地面が広がっている。広場のようにも見えたが、しかし人気はない。だからそこに佇んでいるレイフィルの姿は、かなり目立っていた。彼はいかにも手持ち無沙汰な感じで何かを待っているような様子を見せている。レイフィルはここで誰かと待ち合わせをしているらしい。相手がまだ来ないのだろう。
――ミアちゃんは私が指示するまで車の外には出ないでくれ。
レイフィルは車を出る時に、続いて外に出ようとしたミアをそう命じて制してきた。さらにユリスティアやフィリエルにも車内での待機を命じた。いつでもすぐに車を出せる状態にしたまま待っていてくれと頼んで、一人で外に出て行ったのだ。それでミアはこうして車の窓越しに外を眺めている。ユリスティアはミアの隣でぴたりと身体を寄せてきており、フィリエルは運転席で前を見据えたままだったが、どちらも外の様子を窺っているのは同じのようだった。
レイフィルがここで誰を待っているのかはミアには分からない。訊いても教えてはもらえなかった。どうしてこんな辺鄙なところを待ち合わせの場所にしているのかも分からない。すぐ近くに大きな建物が建っているものの、相当に古びておりミアにも一見して誰かが住んでいる建物ではないと分かる。どうしてわざわざこんな人気のないところを待ち合わせの場所に選んだのだろうか。ヴァルダでないレイフィルなら、これほど寂しい場所に来なくても人と会うことぐらいできそうなのに。
待ち合わせの誰かはなかなか姿を現さなかった。動きの少ない景色をじっと眺め続けていると、だんだん退屈してくる。ミアは窓辺にもたれながらあくびをしてしまった。思えば昨夜はあまり眠れなかった。今頃になって眠気がもよおされてくる。
だがしかし、こんなところで眠り込んでしまうわけにはいかないと、ミアが必死で目を開けていると、その頃になってようやく一台の自動車が走り込んでくるのが見えてきた。自動車はレイフィルの近くに停まると、なかから二人の人間が出てくる。その人影が視界に入ると、ミアの意識は一気に覚醒した。そちらを凝視する。そして目を見開いた。
咄嗟に屈み込んでミアは外から自分が見えないように車内に身体を隠す。その状態で、恐る恐る窓の外に視線を投げてみた。二つの人影は、どうやらどちらもミアには気づかなかったらしい。二人とも視線はまっすぐレイフィルのほうに向いている。こちらに目線を向けてはいなかった。
そのことに思わず安堵の息を吐くと、ユリスティアにこちらを覗きこむようにされた。彼女は訝るような声を発してくる。
「――ミアちゃん、急にどうしたの?」
突然のミアの様子の変化に驚いたようにも聞こえるユリスティアの声に、ミアは床に蹲ったまま、緊張して応じた。あの人、と短く答える。
「あの人です。あの人が部屋に来たんです。顔を、ちゃんと覚えられなかったですけど、こうして、また見たら、すぐに思い出せました。ドアを開けたら、あの男の人がいたんです」
そしてミアは、窓越しに一人の男を指さした。




