一人ぼっち
ミアは怯えていた。
怖くて怖くてたまらない思いを抱えていた。何をされているというわけではない。縄で縛られたり、殴られたりしているわけでもないが、かえってそのことが怖くてたまらなかったのだ。ミアは一人で蹲るようにしてベッドの上に座っていた。座って恐怖と戦いながら、じっと机に向かって書き物をしている一人の男を眺めていた。少し前まではこのベッドに寝かされていたようなのだが、今はもう眠気など襲ってこない。目が覚めてからはずっと、目の前にいるこの男だけを見つめていた。
――このひと、あの時の。
ミアにとって、目の前の男は見知らぬ人物ではなかった。名前は知らなくても、顔はよく知っていた。ミアにとって、一生忘れることのできない顔だったからだ。それゆえにいっそう怖かった。あの男に、これから何をされるか分からないから怖い。特に殴られたり、脅されたり、縛られたりしていなくても怖かった。何もされないことが怖い。こんなことは初めてだった。
もちろん、この恐怖から逃れるために何度も逃げることは試みてみた。しかし目の前の男は、書き物をしていてもミアへの注意を怠ったりはしていなかった。ミアが僅かでも身動きすると、男はすぐに手を止めて視線をこちらに向けてくる。そのたびにミアの全身は硬直したように動けなくなってしまったのだ。
――これから、どうなるんだろう。
恐怖に震える心に、ふとその不安だけは湧き出してきた。ここがどこかも分からない部屋で、あの男と二人きりで過ごしていると、怖いだけでなく不安でたまらなくなる。
――ユリスティアさんに会いたい。
不思議だった。少し前まで彼女たちの許から逃げることしか考えていなかったのに、いざ離れてみると傍にいないことが心細くて苦しかった。彼女に会いたかった。レイフィルにももう一度でいいから会いたかった。会ってまた、名を呼んでもらいたかった。手も握ってもらいたかった。無性にその温もりが、懐かしかった。恋しくて仕方なかった。
その心細さを誤魔化すために、ミアは今は誰も触れていない自分の手を自分で握りしめた。すると、まるでその動きを咎めたかのように、机に向かっていた男がこちらを振り返ってきた。
ミアの心はその動きに跳ね上がった。鼓動が、緊張に忙しなくなる。咄嗟に手を離して身を強張らせたが、男は今度は視線を元に戻さなかった。男は座っていた椅子から立ち上がった。こちらに近づいてくる。
――やだ、こないで。
ミアは必死で祈った。身体じゅうを恐怖が駆け巡った。
――どうするの。自分をいったい、どうするつもりなの。
ミアは恐怖で全身を震わせた。これから自分はいったい、どうなってしまうのだろう。




