はじまり
生き続けるのはどんな心地なのか
私に説いてみせて
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夢とわかる夢というものがある。明晰夢というのだったか。
今私はそれを見ている。
なぜわかるのかって?
だってこれは…以前現実で起こったことだから。
それをどこともつかない、ただ上の方から眺めている。
登場人物は私と手術衣を着たお医者様。
お医者様の手には膿盆。膿盆の中にあるのはそう、――心臓だった。
多分。
それは私の母の心臓なのだとお医者様はおっしゃった。
――心臓とは通常ネジが刺さっているものなのだろうか?
そんなことを考えていたような気がする。
それは心臓に酷似した形の機械。
お医者様もわけがわからない、そんな顔をしていたわ。
これが始まり。そう、この災害の――――
流行病という形で現れたこの災害の始まりは私の母の死であった。
突然、何の病気だったわけでもない母が死んだ。
原因なんて全く見当もつかなかった。
お医者様に言われるままに解剖をしてもらった。
特に何の感動もなく、ただ子供としての義務で解剖の終わりを待っていた私に待ち受けていたのが先の衝撃の物体なのである。
それからはただただ周りに流されていたことしか記憶にない。
とても大変だったような気がする。
しかし気がつくとその状況にあるのは私だけではなかった。
友人がいなくなり、先生がいなくなり、―――学校が閉鎖した。
冬休みを迎えるのを節目に、無期限に休校することが決まったそうだ。
のちにニュースで知ったのだけど、この病気は臓器や筋肉が機能を保ったまま段々と機械化していく……というものらしい。
それがなぜ急死に繋がるのかは未だにわかっていないという。
その病気は『機械化病』と呼ばれることになった。
そのままでつまらない、と思ったが病気の名前なんて皆総じてそんなものだろう。
そんなことを考えながら夕飯の買い出しをすべく家を出た、ところまでは覚えている。
そのあとに何が起こったのか、私は思いだすことができない。