だから私は魔法使いになりたい
とてつもなくつたない作品です。原稿用紙換算で10枚に足りないくらいだと思います。
私は魔法使いになりたかった。
現実味がない夢だということはわかっている。なれるはずがないこともわかっている。それでも、私はそう願わずにはいられない。
それしか、誰かを救う方法はないのだから。
いつも、いつだってそう。誰も、助けなんて来ない。
家族が事故で死んだとき。親類のみんなは私を引き取りたくない、といっていた。
私自身が事故にあったとき。通りかかる人はみんな私を見るけど、誰も助けてくれなかった。
ここは、そういう世界なのだから。
誰も人を助けることなんてできない。そんな余裕なんてない。
だから魔法使いに私はなりたい。こんな私を救うために。
友達が目の前で不良たちに殴られていたとき。私には助ける勇気なんてなくて。助けるための力もなくて。私は、一目散に逃げてしまった。
だから、魔法使いになりたい。誰かを助けるために。
でも、誰かを救うために私を助けてと、そんな祈りをしてみても、結局のところ私を助けてくれる魔法使いなんて現れない。
現れないから、私も誰かを救うことができない。
結局は、そんな世の中。
私に向かって、不良がほえている。ここは裏路地。誰も助けになんて来ない。裏路地じゃなくても、きっと誰だって助けてはくれない。
だから、私はあきらめた。助けて、ともやめて、ともいわない。
景色がゆれた。吹っ飛ばされた私は、地べたに這い蹲ることになる。そして、そんな私を不良たちは鋭い濁った目でにらんでくる。
救いはこない。そんなことはわかっている。だから、魔法使いになりたい。救いがなくても、自分の力で道を作り出せるように。
倒れている私を、不良のひとりが踏みつけた。もういい。殺すなら殺して。こんな世の中にはうんざり。
それなのに――
不良たちの向こうがわに、まるで私を助けようとするみたいに、一人の少年が立っていた。
一人の少年が、不良たちをにらんでいた。見るからに気弱そうで、そして弱そうな少年だった。すらっとした体。背も小さい。服はきれいだから、たぶんまともな家庭で育ったのだろう。
きっと、私を助ける力なんてない。だから。私は少年に言おうと思った。力もないのに、そんなことはしなくていい、と。
それなのに――
やめろよ、と。少年は力強く叫んだ。力がなければ誰も助けられない時代で、おそらく力もないだろうその少年は、それでも。
私を助ける、そのためだけに。
少年は私のために、慣れていないであろうケンカを不良たちに吹っかけた。なぜそんなことをするのか、私にはわからない。勝てるわけがない。不良たちは一人の少年をたこ殴りにする。
そう、力なんてないのだから仕方がない。
やがて、不良たちは少年を殴ることで満足したのか、どこかへ去っていった。
私はよろよろと立ち上がり、倒れている少年を見下ろす。
あざ笑ってやろうかと思った。何でそんな馬鹿なことをしたんだ、と。
知らないうちに私はつぶやいていたのだろう。少年がそっと顔を上げて、小さく答えた。
そうするしか、助ける方法がないからだよ……、と。自分を犠牲にしないと君を助けられないから、と。
力がないのに、そんなことをしようとするのが馬鹿なの。私は、助けてもらった相手にそうつぶやく。
そんな風に言う私に向かって、少年は弱弱しく、しかし心をこめて言ってくれた。
それでも、君は助かっただろ? だったら、力なんてなくてもいいじゃないか――少年のその言葉はまるできれいごとで、力があったほうがいいにきまっているのに、けれど力がないからとあきらめたりせずに、自分のできるだけのことをして私を救おうとした――なんだか、とても嬉しい言葉だった。
たとえ馬鹿でも、無謀でも、自分のために戦ってくれた。なんだか、それがとても嬉しい。
この世界では、力がなければ何もできなくて、助けたいと願っても力なんてなくて。救いのこないまま、絶望へと突き落としておいて。それなのに、
声に出せなかった『助けて』という言葉を聴きつけて、力もないのにこの少年は私を助けようとして。
魔法使いでもなければ、できないと思っていたけれど、
この少年は、たとえ力なんてなくても、私にとっては救いの魔法使いで。それならば、力なんてなくても、魔法なんて使えなくても、
誰かの魔法使いには、なれるかもしれない。
なりたい、じゃない。だから、でもない。
私は、誰かのための魔法使いになろうと思う。この少年のように。
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