表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

だから私は魔法使いになりたい

作者: 神城 瞬夜

とてつもなくつたない作品です。原稿用紙換算で10枚に足りないくらいだと思います。


私は魔法使いになりたかった。

 現実味がない夢だということはわかっている。なれるはずがないこともわかっている。それでも、私はそう願わずにはいられない。

 それしか、誰かを救う方法はないのだから。

 いつも、いつだってそう。誰も、助けなんて来ない。

 家族が事故で死んだとき。親類のみんなは私を引き取りたくない、といっていた。

 私自身が事故にあったとき。通りかかる人はみんな私を見るけど、誰も助けてくれなかった。


 ここは、そういう世界なのだから。

 誰も人を助けることなんてできない。そんな余裕なんてない。

 だから魔法使いに私はなりたい。こんな私を救うために。

 友達が目の前で不良たちに殴られていたとき。私には助ける勇気なんてなくて。助けるための力もなくて。私は、一目散に逃げてしまった。

 だから、魔法使いになりたい。誰かを助けるために。


 でも、誰かを救うために私を助けてと、そんな祈りをしてみても、結局のところ私を助けてくれる魔法使いなんて現れない。

 現れないから、私も誰かを救うことができない。


 結局は、そんな世の中。




 私に向かって、不良がほえている。ここは裏路地。誰も助けになんて来ない。裏路地じゃなくても、きっと誰だって助けてはくれない。

 だから、私はあきらめた。助けて、ともやめて、ともいわない。

 景色がゆれた。吹っ飛ばされた私は、地べたに這い蹲ることになる。そして、そんな私を不良たちは鋭い濁った目でにらんでくる。


 救いはこない。そんなことはわかっている。だから、魔法使いになりたい。救いがなくても、自分の力で道を作り出せるように。


 倒れている私を、不良のひとりが踏みつけた。もういい。殺すなら殺して。こんな世の中にはうんざり。


 それなのに――



 不良たちの向こうがわに、まるで私を助けようとするみたいに、一人の少年が立っていた。

 一人の少年が、不良たちをにらんでいた。見るからに気弱そうで、そして弱そうな少年だった。すらっとした体。背も小さい。服はきれいだから、たぶんまともな家庭で育ったのだろう。

 きっと、私を助ける力なんてない。だから。私は少年に言おうと思った。力もないのに、そんなことはしなくていい、と。


 それなのに――


 やめろよ、と。少年は力強く叫んだ。力がなければ誰も助けられない時代で、おそらく力もないだろうその少年は、それでも。

 私を助ける、そのためだけに。


 少年は私のために、慣れていないであろうケンカを不良たちに吹っかけた。なぜそんなことをするのか、私にはわからない。勝てるわけがない。不良たちは一人の少年をたこ殴りにする。


 そう、力なんてないのだから仕方がない。


 やがて、不良たちは少年を殴ることで満足したのか、どこかへ去っていった。

 私はよろよろと立ち上がり、倒れている少年を見下ろす。

 あざ笑ってやろうかと思った。何でそんな馬鹿なことをしたんだ、と。


 知らないうちに私はつぶやいていたのだろう。少年がそっと顔を上げて、小さく答えた。

 そうするしか、助ける方法がないからだよ……、と。自分を犠牲にしないと君を助けられないから、と。

 力がないのに、そんなことをしようとするのが馬鹿なの。私は、助けてもらった相手にそうつぶやく。


 そんな風に言う私に向かって、少年は弱弱しく、しかし心をこめて言ってくれた。


 それでも、君は助かっただろ? だったら、力なんてなくてもいいじゃないか――少年のその言葉はまるできれいごとで、力があったほうがいいにきまっているのに、けれど力がないからとあきらめたりせずに、自分のできるだけのことをして私を救おうとした――なんだか、とても嬉しい言葉だった。


 たとえ馬鹿でも、無謀でも、自分のために戦ってくれた。なんだか、それがとても嬉しい。


 この世界では、力がなければ何もできなくて、助けたいと願っても力なんてなくて。救いのこないまま、絶望へと突き落としておいて。それなのに、

 声に出せなかった『助けて』という言葉を聴きつけて、力もないのにこの少年は私を助けようとして。


 魔法使いでもなければ、できないと思っていたけれど、

 この少年は、たとえ力なんてなくても、私にとっては救いの魔法使いで。それならば、力なんてなくても、魔法なんて使えなくても、


 誰かの魔法使いには、なれるかもしれない。

 なりたい、じゃない。だから、でもない。

 私は、誰かのための魔法使いになろうと思う。この少年のように。


よろしければ、読んだ感想をお聞かせください。

http://indexharuhi.blog20.fc2.com/←HPです。応援よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本当の「力」って何なのか、ちょっと考えさせられました。 魔法使いというものに、私たちは現実逃避しているのかも、ですね。 「誰かの魔法使い」というフレーズに参りました。 これからも期待して…
[一言] 本当の「力」って何なのか、ほんのり考えさせられました。 魔法使いってすばらしいですけど、現実逃避なのかもしれませんね… これからも期待しております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ