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ぬしさま

「ぬしさまー」


蚊取り線香を持たされて、あきらちゃんは不動病院の裏庭に行った。小さな池があるから蚊がぶんぶんなのだ。

小ぶりではあるが、実に洒落ている。程ほどに手入れされて、適度に放置されている。



「ぬしさまやーい」



蝉の鳴き声ばかりで水音すらしない。

持っていた蚊取り線香とクーラーボックスから水筒やカキ氷を池の縁にお供えするようにして置いた。

「楽々の水出し煎茶と和菓子とかき氷持ってきたよー」

「呼んだか」


ぴちょん。


水音より早くアマガエルが一匹現れて、カキ氷に乗っかっていた。全身で食べている。

正直うらやましい。私もしてみたい、かき氷ダイブ。あきらちゃんは羨んだ。


「呼んだよー」

主様は美味しいお茶とお菓子と、美しい器が好きだった。洒落者…洒落アマガエルなんである。

「うむ。苺味だな」

しゃくしゃくと目を細めて主様は食べていく。


「苺だけどさあ。ねえねえ、教えて欲しいの。人についている、黒くてどろっとして、ぬめぬめしているのって何だと思う?」

「具体性が全くないが、過去の君の報告内容から推察するに悪霊とか生霊、人の伝統、絆、等と呼ばれる数値化できないものが多いな」

存在が数値化できないアマガエルの主様がしれっとそんな事を言う。

池の縁に腰を下ろして、腰が痛くならない程度に屈めて視線を合わせる。


「伝統ってなに」

生霊とかはわかるような気がするが、伝統があんなに黒くで気持ち悪いとは違う気がする。

「伝統は積み重ね。重ね方を間違えればぬめぬめもするさ。カキ氷は美味しいが、まとわりつくとべとつく様に」

身体中をシロップだらけにした主様。ああ、確かに美味しいけれど間違えると触るのが嫌になる。



「どうしたらいいだろ」

ちゃぽん。

裏池に 蛙 飛び込む 水の音。

盗作そのままに主様が緩やかな線を描いて池に飛び込んだ。


直ぐに戻ってきて、お茶の催促をする。

「まあ、削除か清掃かな」

「削除なんてできないよー」

「じゃあ清掃」

「縁切るのは清掃になる?」

「ならない。またくるだけだな」

「うえええ」

「対処法は人がやれ」

「カウンセラーじゃないんだから、揉め事解決なんてできないよー」

「しらん」

和菓子を丁寧に切り分けてぱっくんする主様。

幸せそうである。


「進路で親ともめてるみたいだし、その辺かなあ」

うなるあきらちゃん。

「ま、がんばれ。わかることなら答える。抱えすぎないように」

「はーい」

相談事はこれで御仕舞い。あとはまあ、なんとかなるだろう。あとでみっちゃんに聞き込みだ。

水筒から出した煎茶を飲みながら、主様としばらくお茶を楽しんだ。

・あきらちゃん

・主様

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