黒いモノは
光之少年が太郎さんちへの滞在を許された。
ひと心地ついてあきらちゃんは考え出す。
はて。
「あの黒いのなんだったんだろう」
ことの起こりはみっちゃんについていた黒いなんていうか、もやもやしたものだった。
巫女ねーさまが穢れと呼んでいた。
とても判りやすく良くないもの。
「黒いのがなんだって」
法一君があきらちゃんを覗き込む。
キリくんと一緒に触った。触れた。ぞわぞわとした気持ちわるいもの。
「黒いの」
こくこく頷く。
「何か付いていたって言ってましたねぇ。僕に何が付いていたんですか?」
「こう、ぬめーってしたもの」
上手く形態を表せなくて手を宙にかざしてわきわきさせると、何故か光之少年も掌をわきわきさせる。
「うへえ」
キリくんと一緒にいてもとっても気持ち悪かった。
背筋から湧き上がる嫌悪感。
手を洗いたくなるような気持ち悪さ。
感情、なのかな。それにしては生き物のように離れていった。
生き物ならば良くない子が付いていたんだろうか。
ざわと鳥肌がたって身をすくめる。
「あきら?」
「ん。大丈夫」
夏の日差しは暑いのに心の奥が寒くなってきたようだった。
ああ怪談が好まれるわけだよと納得。
席を立った法一君がブランケットを取って帰ってきた。
「くるまっとけ」
お店のブランケット、ホヌ…亀模様のトロピカルなブランケットを肩にかける。
「ありがとう」
法一君は偶に親切で、大抵つんつんしている。
どっちが本当なのかな。
「なめくじか?おい、離れろ」
寒いの可哀想と背中をさすっていた光之少年の手をペシペシと法一君が叩く。
「なんなんですか、さっきからずっと邪魔して」
「何の邪魔だよ」
「あきらさんと僕のコミュニケーションです」
「ただのスケベ心だろうが。ガキの癖に」
「だって可愛いです、手を出したい!!」
「おお!言い切った!すげーな!さすが太郎の甥!」
すかさず離れたテーブル席からもど先生がつっこむ。聞き耳立ててたのか。
「女の子はすべからく可愛いですからね。義務です」
しれっと太郎さんが。
それ、私のこと暗にブスって言ってない?とジト目で見るとにっこり笑う。
「あきらちゃんはとても、素敵ですよ。可愛い」
あーやだやだ、浮いた言葉ばっかりでそれが様になる大人の男って。
「……あきらさんとこの人は付き合ってるんですか?」
「はぁ!?」
「……へ?」
「うおお!まじか!いつの間に!あきらすげーな!」
もど先生が再度突っ込む。大きな声なのでちょっと恥ずかしい。
「恋人ならわかるんですけど、そうじゃないなら独占欲はみっともないですよ」
「ふざけんな、こんな。ああもう、ふざけんな」
「はー告白もしてないのに手を出すなって言うほうがふざけんなですよ」
「お前もう黙れ」
「おもしれー!」
大喜びもど先生。
「樹、うるさい」
太郎さんの突っ込みは男性には冷たい。
うーん、面倒くさいからほおっておこう。
あきらちゃんは光之少年と法一君の言い争いを無視して考え始めた。
話を戻そう。
みっちゃんについていた黒いモノはなんだったんだろう。
実際のところよく分からない。わからないものは怖い。
みっちゃんから切り離せたからといって安全とは限らない。今後にょろにょろ出られても困るから原因を探ろう。
んー。誰に聞けばいいのかな。
ぎゃんぎゃん言い合っている二人を無視してふりむくと古時計のおじぃちゃんがコーヒーを片手に立っていた。
「おじぃちゃん」
「主様に聞いてみたらどうだい」
「かえるの?」
「ああ。困った時はしほーさんか主様に、だ。人間の事ならしほーさん。あやかしのことなら主様に聞いてみるといい」
しほーさんとは近所に住む妻子ある頼れるお兄さんの事だ。普通のおじさん、いやお兄さんなのだが人望があり、近所の人は何かあると事あるごとにしほーさんに相談をしている。
自然に生まれた神輿坂の世話人のようなものだった。
そして主様は不動病院の裏庭、池にすんでいるかえるさんだ。
物知りで、いつも目を細めている。
「わかった。ご飯食べたら、言ってみるね。おじぃちゃん、ありがと」
「いいって事よ」
ほぷぽふと頭を撫でる。嬉しい。
「それより、あれ放置でいいのかい?」
法一君と光之少年はまだ言い争っていた。
「うん、いいよ。何か楽しそうだし」
「いいのか」
「私をダシにして親交を深めてるだけだもん」
まったくもう、といいながら、ちょうど運ばれてきたアサイーを口に含んだ。
・あきらちゃん
・法一くん
・光之少年
・太郎さん
・もど先生
・古時計のおじぃちゃん