表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

神告げし悲哀

バレンタインの小さな奇跡

作者: 末吉

連載はありませんでしたが、短編を作りました。

 うちの藤塙先輩はとても不思議な先輩だ。

 普段はとても静かで誰ともかかわってる雰囲気はないというのに、この学校のベストカップルの先輩たちと親しげに話をしてる。

 そんな私はただの図書委員。だから特に何かあるわけでは……ない。


 噂ではカップル成立の陰には藤塙先輩がいるっていうらしいけど、普段図書室の一角を占領して勉強するわけでも、読書するわけでもなく、ただ座って窓を退屈そうに見ているだけ。

 そんな姿と噂がかみ合わなくてついつい夏頃から見ていたら、なんというか、どこか不思議な雰囲気を纏っているのが分かった。


 人を引っ張る力を無理やりにでも抑えつけて溶け込んだとでも言いたそうな雰囲気を。


 夏頃から見ていた私は、先輩に「あいつは別にいいよ。注意しなくて」と言われたけど、ただただそんな雰囲気が不思議で見ていた。

 話し掛けることはない。ただ図書室という空間に一緒に居るだけ。

 先輩は寝てたり相談を受けたりするだけ。私はただ仕事をするだけ。


 そんな中で――秋ぐらいから――先輩を見ていると、なぜか私の胸が高鳴った。

 理由は……きっと、些細なことだと思う。

 私が一人で仕事をしている途中にトイレに行き、戻ってきたらその仕事が終わっていた。

 その時にいたのは先輩以外に居なかったので、きっと先輩がやってくれたんだと確信した。

 お礼を言いたかったけど、先輩に話しかけるタイミングがなかった。だからかもしれないとその時から思っていたけど、休みの日に先輩を見かけたとき私は私が慌てていることに気付いた。


 声をかけようと思えど声が出ないまま見送ってしまった。頑張って追いかけたけど、後ろを振り返られると咄嗟に隠れてしまう。

 そんなことが度々起こってしまい、私は悩んだ。そして、恋をしていると知ってしまった。


 ……。そんな訳で今私はチョコレートを溶かしてチョコレートを作っている。

 今日は二月十三日。明日は聖バレンタインデー。そのために、私はなんとなく作っている。


「なんとなく、じゃないけどね……」


 本当は分かってる。私は、藤塙先輩に渡して気持ちを伝えたいんだということを。

 きっと断られるだろうと弱気になる私がいるのが分かる。それでも、私はつくる。


 初めて本気で好きになった人への、感謝をこめて。







 一年の頃に「恋のキュービットやれ」と言われ、イベントあるなし関係なくカップルを作りまくった俺――藤塙。

 契という恋の神様や八百万の神様達の力、人脈やらをフルに使った一年だったが、それは俺の恋が本当に終わったことを意味した。


 そのまま二年にあがり、相も変わらずカップルの相談を受ける日々をぽっかり空いた心でやり続け――今日という日が来てしまった。


「二月十四日……バレンタインデーか…」


 カレンダーを見て嘆息。去年も色々あったせいでいい思い出などない。


「さぁ外に出ようぞ実」

「なんでだよ。緊急にくっつけるべき奴いないだろ。それに、今日はバレンタインデーだ。俺が出張る必要性なんてない」

「まだ引きずっておるのか女々しい奴め」

「うっさい。というか、俺はいつまでこれを続ければいいんだ?」

「実が本当の気持ちを知るまでじゃよ」

「知ってる、なんて言葉じゃ説得力なんてないだろ。が、俺はみんなの気持ちの真摯さに心動かされたよ」

「ふん。それでもお主が気付かなければならぬ気持ちはあるんじゃぞ」

「?」


 契の言葉に首を傾げる。すると契が「なんでもいいから外でるぞ!」と喚くので、仕方なく行くことにした。



 外に出る。季節は冬なのでまだ肌寒い。

 口元をマフラーで隠し、コートのポケットに手を突っ込んで歩いている俺はさながら浮浪者みたいだろう。


「では駅前へ行くぞ!」

「なんでそんな元気なんだよ……面倒だな」

「さぁ行くぞ!」

「へいへい」


 抵抗するのも面倒なので、俺は素直に駅前へ行くことにした。


「今年で高校最後の年か……ひょっとして俺は大学生でもこんな事をしなければならないのか?」

「それはどうじゃろう。神のみぞ知るじゃな」

「さて、大学どうすっかな」

「もうそんなことを考えとるのか」

「あのな」


 そこから続けようとしたところ人が通り過ぎたのでそのまま歩き、誰もいなくなったことを察してから続ける。


「俺とお前じゃ寿命が違うんだ。先の事を考えなければいけないんだよ。時間は有限だからな」

「でもどうするんじゃ? それならば過去にこだわり過ぎるのはダメじゃろ」

「……さらっと痛いところついてきたな。悪いな。俺は引きずる方なんだ」

「まぁそのせいで寿命がやばくなったからの」

「うっせ」


 契や神様達は俺以外に見える人がいない。だから独り言のように聞こえる。が、気にしたことはない。


 そのまま寒さに耐えながら歩いていると、前方から腕を組むカップルが。

 見知った連中だったので堪らず声をかけた。


「よぉバカップル一号」

「寒そうだな実。テメェでくっつけといてよく言うぜ」

「そうよ。自分でやっておいてよくいえるわね」


 今日はこういう奴ら見てくるのかなと内心でため息をついていると、彼女の方が「そうそう」と言って鞄から箱を取り出して渡してきた。


「これ。去年もあげたけど、今年もノリで作ったからあげるわ」

「ああ、ありがとな」


 そう言って受け取る。袋なんて持ってきてないので手持ちになる。


「これからどっかいくのか?」

「駅前。参考書でも買おうかと思って」

「そういやもうすぐ受験だよな俺達……」

「そうね。離れて浮気したら容赦しないわよ」

「するわけないだろ」


 そう言って二人だけの世界を作ったので、俺は頭を掻いてから「じゃぁな」と言って別れた。






 そして駅前に着いた。もらった個数は十ぐらい。面白いように関わった奴らと出会い貰うので、なんか介入してるんじゃないだろうかと思い始めていた。


「やはり賑やかじゃの」

「ああ」


 途中紙袋をもらってそこに全部入れた。何をって? チョコレートに決まってる。

 これ持ちながらくるってバカなんじゃなかろうかと思いながらとりあえず本屋へ向かった。


「あ」

「?」


 本屋に入ったら声が聞こえたので咄嗟に周囲を見渡すが誰も見当たらない。

 よく響いた声だなと思い直し参考書のコーナーへ直行。


「しかし特に進路を決めてないから買いたいのないな…」

「じゃったらなぜ来たし」

「お前が駅前へ行くぞと言ったからだ」

「まぁそうじゃの」


 目ぼしいものなんて決めなければ無いなと今更思った俺は、普通に出ることにした。


「あ」

「ん?」


 一緒に出た女の子が俺を見て声を上げ、それに反応してそちらを見る。

 見られた少女はあわあわと慌てだす。その少女の顔を見つめていると、不意に該当する人を思い出し正体を当てた。


「図書委員の人か」

「え、えっと……お、覚えて……?」

「ああ。そりゃな」


 そう言うと顔を背ける彼女。


「(お、覚えててくれた……!)」


 どうしたんだろうと思ったが契が「この子と一緒に居たらどうじゃ?」と言ってきたのでため息をついた。


 このまま帰ろうと思い歩を進めたところ、「あの! 少しお時間いいですか……?」と振り絞った声で呼び止められたので振り返り、「まぁ」と返す。


「で、でしたら、その……少しお散歩しませんか?」













「…………はぁ」


 結局告白は断られてしまった。


 そういう事は予想できていた。だって先輩は見てくれなかったから。


 先輩は、私と一緒に居ても別な何かを見ていた。どこか遠くの何かを。


「でも、あれは勘違いするよ……」


 告白を断られた時に言われた言葉を今でも思い出す。


『ありがとうな。でもまだダメなんだ俺は……引きずってるからな』


「でも、チョコレートはちゃんと受取ってもらえたし、いいかな」


 こうして私の初恋は終わりを告げた。


 告げて……欲しいな…………。

よろしければ感想等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ