アンハッピーバースデイ
あともう少しで、私の誕生日は終わります。
今日の0時にわっと届いたお祝いのメールに型通りの返事をして寝た私は、学校を休んだ。仮病に気づかず心配してくるお母さんに今日は何もしないでいい、と言った。授業中に打ったであろう友達の軽口のメールも休んで落ち込んでいるように返事をした。もう、最悪だよ~って。うそばっかり。
だって、私は何にも成長していない。
毎日毎日変わらぬ日々を過ごして、同じように笑って。自分の周りや外側だけ勝手に前に進んでいく、私を置いていく。だからささやかな抵抗をしたかっただけ――だけど私は知っている。こんなことをしたって追いつけやしないんだ。
仮病だったはずなのに本当にお腹が痛みだした。キリキリとした痛みはまるで馬鹿な私を責めているよう。早く明日になれ。明日になったらこんな罪悪感や虚無感にも苛まれることはなくなるんだ。ゆっくりと動く時計が恨めしくて、睨んでみた。ああ、だめだ。眉間に力を入れたせいか、頭痛まで始まった頭にいきなり機械で作られた妙に明るい曲が響く。電源を切っていなかったかと溜め息をついてケータイを取り出した。
「お誕生日おめでとーございまーす」
棒読みの幼なじみの声。いつもの覇気のない顔が浮かぶようだ。
「もう終わったよ」
「あと一分ある」
携帯電話を耳から離して画面を見ると、確かにまだ11時59分だった。
「普通この時間に電話する?」
いまから24時間前なら普通だけれど。
「いや……これには深い理由があるんだよ」
「何よ」
「嫌がらせ」
「おやすみ」
問答無用で切ろうとしたら、「仮病使ったのバラすぞ」と言われ携帯電話を落としそうになった。
「誕生日の話題になった時、無理して笑ってただろ」
幼なじみの口調は断定的で、図星だというのになんだか反抗したい気分になる。
「誕生日が嫌いなんてひねくれた奴だな」
「あんたに言われたくないです!」
「そ。あ……誕生日只今終了」
「……呆気ないもんだね」
やる気なさそうな目で時計を見上げる幼なじみ。容易に想像できて、ごちゃごちゃ考えすぎていた自分に急に笑えてきた。ああ、ああ、くだらない。
「夜中にひとりで笑う女……気持ちワリー」
「泣くよりましだよ」
「なんだ、思ってたより元気そうだな。嫌がらせの意味ない。誕生日に休むし彼氏もいない惨めな女を馬鹿にする気満々だったってのに」
「うざっ! まあ来年は嫌がらせなんか止めてよね。彼氏もできるし、私実は誕生日大好きなの」
もしかしたらの例え話。一年経ったら、なにが私を元気にしたか知りもしないで憎まれ口を叩く幼なじみが彼氏になっていたりして。メールにも喜んで返事をして、学校でプレゼントを沢山もらってお返しに困って、家族でケーキを食べて太ってしまうのかもしれない。そして、皆に追いついて追い越しているのかもしれない。
今年と変わらなかったとしても、やっぱり嫌がらせの電話くらいは受けてやってもいいか。なんて考えてる私がいた。
ラノベ作法研究所 に投稿した小説です。