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第7回 館の戦いだった!!

 時は少々遡る。

 静まり返った洋館に廊下が軋む音が僅かに響く。

 その音にいち早く反応を示したのは、白虎だった。いや、その気配を察知出来るのは白虎しかいなかった。

 一馬と同じように夕菜と周鈴の二人もリザによって深い眠りの中に誘われ、洋館へと侵入する凶悪な気配に目を覚ます事はない。

 この状況下、身動きをとれない白虎は思案する。考える事が白虎に唯一出来る事だった。

 数秒、数十秒と時は流れ、白虎は決断する。



「こうも簡単に侵入できるとはな」


 洋館内へと侵入を果たした褐色白髪の鬼人は、口元に薄笑いを浮かべる。

 メデューサであるリザを、ジャックがひきつけ、その隙に洋館内へと侵入。

 ジャックの読み通り、洋館内は静まり返り、褐色白髪の鬼人が殺気を広げても誰一人反応を示す者はいない。

 ここでの一戦を見て、ジャックは気付いた。リザが他の者を巻き込まないようにしている事に。

 その事が顕著に現れたのは、リザがジャックと褐色白髪の鬼人にトドメを刺す瞬間だ。

 それは、明らかに周鈴が近くに来ているのに気づいてからだった。故に、ジャックはリザが他の者を戦いから遠ざけていると判断したのだ。


「しかし、よくまぁ、観察しているもんだ……」


 呆れ顔で呟く褐色白髪の鬼人は、ゆっくりと廊下を歩く。

 足音を殺す必要もなく、殺気を隠す必要もない。その為、褐色白髪の鬼人は悠然と歩みを進め、広間へと出る。


「さて……まずは――」


 褐色白髪の鬼人が広間を見回す。現在、明確な目的を持たない褐色白髪の鬼人は、右手で頭を掻く。

 彼の目的はリザを焦らせる事。

 幾らジャックと言え、まともにリザとやり合い勝てるわけもない。その為、リザの冷静さを乱す必要性があったのだ。

 その為、褐色白髪の鬼人には目的はなく、ただここにいるだけでよかった。

 しかし、全てが上手く回る事など稀なもの。当然――


「こんな所で相見えるとは……なぁ」


 部屋の扉が乱暴に開かれ、姿を見せる小柄な少女――周鈴。その身に纏うのは真っ白な拳法着。その背には虎のように黒縞が描かれていた。

 動きやすいように広く開けられた袖口から伸びる手には、木製のトンファーが握られ、怒りを宿す眼は褐色白髪の鬼人を睨む。

 そんな周鈴の頭の中に、白虎の声が響く。


(落ち着きなさい! あなたを起こしたのは――)

「コイツをぶっ殺す為だろ!」


 白虎の声にそう答え、周鈴は駆けた。

 白虎が考えた後、行ったのは、周鈴を起こす事。あの状況で、一馬を起こした所で状況を打破する事は出来ないと判断し、自分の化身である白蓮の適合者である周鈴を起こす事にしたのだ。

 リザの力は強力で、そう簡単に眠りから覚ます事は出来ないが、白虎は周鈴に自分をまとわせ、強引に目覚めさせたのだ。

 故に、周鈴は些か機嫌が悪く、しかも、最悪な事に相手が褐色白髪の鬼人と言う事もあり、白虎の言葉に耳を貸すことはなかった。


「こいつは、何ていう幸運だ!」


 周鈴の攻撃をいなし、間合いを取る褐色白髪の鬼人は、不敵に笑む。

 彼にとっても周鈴は恨むべき相手。故に、白髪を逆立て、全身に殺意を纏い、赤い瞳を周鈴へと向ける。

 広間と言っても洋館だ。そこは、多くの家具が配置されており、二人の間には四脚の椅子が収められた横長のテーブルが配置され、壁際には本棚、食器棚と戦うには手狭な環境となっていた。

 身を低くする周鈴に対し、胸を張り仁王立ちする褐色白髪の鬼人。


(周鈴! おち――)

「僕は落ち着いている!」


 声を荒らげ、周鈴は床を蹴りテーブルへと右足を掛ける。


「さっきから、独り言が激しいな!」


 一方、そう叫んだ褐色白髪の鬼人は、テーブルの縁を左手で掴み強引にそれを裏返す。

 当然、そうなれば、テーブルは大きく空へと舞う。そして、テーブルへと足を掛けていた周鈴も、その小柄な体を宙へと浮かせる。


「ッ!」


 険しい表情を浮かべ、空中に投げ出されたテーブルに張り付くように身を低くする周鈴は、その最中でも褐色白髪の鬼人から目を離さない。

 いや、今や周鈴の眼には、褐色白髪の鬼人の姿しか入っていない。周囲の状況も、自らの置かれている状況も、全く見えていなかった。

 これは、白虎にとっての大きな誤算だった。

 まさか、周鈴がここまで暴走する程の因縁が、この男とあると思っていなかった。

 しかし、それでも、白虎は周鈴に頼らざる得なかった。故に、ただ必死に周鈴に語り掛ける。


(周鈴! 冷静に周りを見ろ!)


 厳しい言葉を吐く白虎だが、冷静さを失った周鈴には届かない。

 ギリッと奥歯を噛む周鈴は折りたたんだ足へと力を込めると、ひっくり返り宙へと舞うテーブルを蹴る。

 テーブルは真っ二つに割れ、細かな破片が舞う。一方、テーブルを蹴った周鈴は、素早く反転し床へと着地すると、低い姿勢のまま褐色白髪の鬼人へと突っ込む。

 二人の間を割っていたテーブルがなくなり、障害となるものは四脚の椅子程度。とても、障害物と呼べる程の物ではなかった。

 初速からトップスピードに乗る程、白虎を纏った周鈴の動きは速い。それでも、褐色白髪の鬼人はその動きに対応するように、手前にあった椅子を右足で前へと押すように蹴り出す。

 それにより、周鈴の行く手を阻むように椅子は床を滑る。


「チッ!」


 小さく舌打ちをした周鈴は、右足の裏で椅子の縁を押さえ、駆け上るように左足を背もたれへと掛ける。

 そして、跳躍し、褐色白髪の鬼人へと右手に持ったトンファーを振り抜く。

 鈍い風音を広げるトンファーを褐色白髪の鬼人は身を屈めかわした。

 受け止める事も出来た。だが、あえてそれをしなかった。理由は簡単だ。お前の攻撃など当たらない。どれだけ、動きが機敏になろうとも。と、言う挑発だ。

 一撃をかわした褐色白髪の鬼人は、すぐさま間合いを取る。やろうと思えば、反撃も出来るだろうが、それをしない。

 あくまでも、周鈴を挑発し続けるつもりだった。


「くっ!」


 トンファーを振り抜いた周鈴は右足で着地すると、間合いを取る褐色白髪の鬼人の方へとすぐに体を向ける。

 キュキュッと靴底が床と擦れ嫌な音を響かせ、お互いの動きが一旦止まった。

 静寂が二人の間に流れる。

 呼吸を大きく乱す周鈴の両肩は大きく上下し、一方で息一つ乱していない褐色白髪の鬼人は、何処か余裕の表情を浮かべていた。

 ここに来て、周鈴に白虎を纏った事による身体能力向上の弊害が表れ始める。

 脚が悲鳴を上げていた。度重なる自らの身体能力の限界を超えた力を使用した事により、膝が軋み、筋肉もケイレンを起こし始める。

 本来ならば、一馬の介して武装召喚と言う形で力を制御しなければ行けないが、今回はそれがない為、全ての負担が周鈴にのしかかっていた。

 ここまで、三分。そんな僅かな時間、白虎を武装しただけで、周鈴の疲労感は相当なモノだった。


「どうした? バテるには早過ぎるぞ」


 挑発するように薄ら笑いを浮かべる褐色白髪の鬼人に、周鈴は下唇を噛む。


「誰が、バテてるだ!」


 声を荒げ、キュッと床を軋ませ周鈴は駆ける。その瞬間、褐色白髪の鬼人が何かを宙へと放った。

 大きめの紙袋。開かれた口から白い粉が舞う。


(アレは――)


 周鈴の眼を介してそれを確認した白虎は、妙な違和感を覚える。

 ここで、それを放る意図が分からなかった。目眩ましか、とも考えたが、彼がそれを行う理由がない。なら、何故――。

 考えを巡らせていると、その紙袋が破裂し、中の白い粉が部屋へと散る。


「なっ!」


 驚き足を止める周鈴。

 粉は空中を漂い、部屋へと広がる。紙袋の大きさから見ても、大した量ではないはずだが、周鈴と褐色白髪の鬼人の周囲を包むほどに広範囲に粉は舞っていた。


「何の真似だ!」


 声を荒らげる周鈴は、目を凝らし真っ直ぐに褐色白髪の鬼人を見据える。


「目眩ましには丁度いいだろ?」


 肩を竦め、不敵に笑む。

 相変わらず挑発的な褐色白髪の鬼人に、周鈴は再び床を蹴る。


「武装召喚! 石象!」


 周鈴が叫び、手に持つトンファーの色が灰色へと変わり、その先端には鉄球が形成される。

 それを確認し、褐色白髪の鬼人は不敵に笑み、右手を顔の前で握り締めた。


「なぁ、知ってるか?」


 静かにそう切り出した褐色白髪の鬼人の皮膚は黒ずみ、やがて光沢よく輝く。

 それを目にした白虎は悪寒を感じる。


(周鈴! 待て! 様子がおかしい!)


 白虎の声が脳内に響くが、周鈴は無視し突っ込み、右手のトンファーを振り抜く。

 それと同時に褐色白髪の鬼人は白い歯を見せ笑むと、


「――粉塵爆発って」


と、呟く。

 その瞬間に、白虎は理解する。褐色白髪の鬼人が粉をばらまいたわけも、これから起こるだろう事も。

 だが、止める事は出来ない。

 すでに振り抜かれた周鈴の右腕がしなり、石象を武装したトンファーは光沢に覆われた褐色白髪の横っ面を殴打した。

 直後、澄んだ金属音が広がる前に、火花が散る。

 それが、火種だった。

 火花は宙を漂う粉へと引火。それは、空気中の酸素を取り込み次から次へと微粒子の粉へと引火していき、一瞬にして強烈な爆発へと姿を変えた。

 衝撃が一帯を大きく揺るがし、洋館の広間は業火に包まれた。

 リザの力で深い眠りについていた一馬と夕菜も、その揺れで目を覚ます。


「な、何? 地震?」


 二階の客間。広間からは離れた位置にあるその部屋で目を覚ました夕菜は、その目を擦りながらゆっくりとベッドから出た。

 二つ並んだベッドの片方に周鈴の姿がない事にすぐに気付き、夕菜の眠気は一気に吹き飛ぶ。


「周鈴ちゃん!」


 思わず声を上げ、夕菜は部屋を飛び出す。廊下に出てすぐに夕菜は異変を察知する。

 当然だ。廊下には煙が僅かにだが登ってきていたからだ。

 下で周鈴が戦っている。そうすぐに理解した後、夕菜は走り出す。一馬の所へと。

 周鈴の事も気になったが、今、優先すべきは動く事がままならない一馬を避難させる事。

 故に、夕菜は自分の部屋とは正反対の位置にある一馬の部屋へと急いだ。


「一馬君!」


 そう叫び、夕菜が部屋へと入る。

 すると、そこには壁にもたれながら移動する一馬の姿があった。


「夕菜! 無事だったんだね」


 安堵したように息を吐く一馬は、よろめきその場に倒れる。流石に、まだ一人で歩く程、体調は万全ではなかった。

 そんな一馬の体を支え、夕菜は小さく頷く。


「うん。私は大丈夫。それより、周鈴ちゃんが!」


 この言葉で、一馬は確信する。


「大丈夫だよ。周鈴には、白虎がついてる」


 強い眼でそう言う一馬の右手にはスマホ型通信機が握られていた。

 目を覚まし、一馬が一番最初に取った行動。それが、スマホ型通信機に呼びかける事だった。白虎がいるなら返答するだろうし、もし返答がなかったのならば、通信障害が起きているのか、もしくは白虎の化身である白蓮を現在所有している周鈴とともにいると考えていた。

 そして、それが後者であると判断した一馬は、先程の揺れが戦闘によるものだと判断し、ゆっくりと立ち上がる。


「こうしている場合じゃない! 急ごう!」

「い、急ごうって! ど、どうするつもり?」


 不安そうに夕菜が尋ねると、一馬は真剣な顔で答える。


「とにかく、俺は俺の出来る事を考える。だから、現状を確認しておかないと!」


 いつもと違う強い口調に、夕菜は一瞬ドキッとする。ときめきとかではない得体の知れない不安を夕菜は感じた。

 それでも、強い意志を宿した一馬の眼に見つめられ、断る事は出来ず、


「分かった。それじゃあ、肩を貸すから急いで一階に行こう」


と、不安を胸に秘めながら表情に出すことなく、そう答えた。



 強烈な爆発により広間の窓ガラスは割れ、外にガラス片と炎に包まれた木片が散乱していた。

 大きく抉れた床は黒焦げた土が露出し、黒煙を上げる。

 爆発自体は小規模なものだったが、それでも、広間を吹き飛ばすには十分すぎる破壊力があった。

 そして、爆発の衝撃に巻き込まれた周鈴は、庭の中央で横たわっていた。周鈴の体が地面を抉り、真っ直ぐな太い直線を描き、その体には土が大量に被さっていた。


「んっ……んんっ……」


 意識はあった。体中が熱く、激痛が巡る。


(無事か?)


 静かに白虎は周鈴に問う。


「そう……見えるのか?」


 吹き飛ばされた時に頭をぶつけたのだろう。灰色の髪の根本から真っ赤に染まり、顔にもその血が流れていた。

 白虎を纏っていた事もあり、多少なりにダメージは軽減されているのだろうが、それでも、周鈴の負ったダメージは大きかった。


(私の力は、より速く、より鋭く。故に、朱雀達と違い、お前の傷を癒やす事も、お前を守る事も出来ない)

「ああ……そうかよ……」


 弱々しくそう吐く周鈴は静かに笑う。

 意識がもうろうとし、今にも瞼は合わさりそうだった。

 だが、そんな周鈴の耳に届く。瓦礫の崩れる音とそれを踏みしめる足音。そして、ふてぶてしい褐色白髪の鬼人の声が――


「随分と派手な花火だったな。まだ、息はあるか?」


 光沢よく不気味に光を反射する褐色白髪の鬼人の肉体。その体にはあの爆発を受けても傷一つなかった。

 その姿を目にし、周鈴の閉じかけた瞼は開き、その瞳孔は明らかに動揺し揺らいだ。

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