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第3回 誰を呼ぶのか? だった!!

 当面の問題が解決しないまま、一馬達は歩み続ける。

 先頭を歩く一馬は、キャルの持ち込んだライトを右手に持ち足元を照らしていた。

 言葉数は少なく、三人は黙々と歩む。乱れた三人の吐息が疎らに聞こえ、足並みも次第に乱れ始める。

 後方から聞こえる足音に一馬はゆっくりと足を止めると振り返った。

 一馬の行動に後に続く紅、キャルキャルも足を止める。研究者であり、普段研究室に閉じこもりがちなキャルは随分と疲弊している様子だった。

 そして、紅の疲労感も否めなかった。炎帝を召喚した為、体力を大きく消費していた。

 しかも、飲まず食わずだ。流石に限界は近い。

 肩で息をするキャルは膝に手を着き、呼吸を乱す。紅も表情には出さないが、呼吸は乱れていた。


「ちょっと休もうか」

「そ、そうですね」


 一馬の言葉に、紅は困ったように笑みを浮かべ、キャルは小さく頷くだけ。返答するだけの体力もなさそうだった。

 その場で休憩をとる三人。焚き火をしようにも、辺りに燃やせるものもなく、それは断念した。

 沈黙が漂う。疲れと空腹、喉の渇きから、三人共言葉数が少ない。

 女の子座りの紅はホッと息を吐き、仰向けに寝転ぶキャルは膨よかな胸を上下に揺らしていた。

 胡座を掻く一馬は、瞼を閉じ、体を前後へと揺らす。これから、どうするかを一人考えていた。

 何をすべきかは、未だ分かっていないが、あの翼竜が一つの鍵を握っていると一馬は考えていた。この考えが間違っているにしろ、目指す目標があると言う事が大事だった。


(そう言えば……フェリアと雄一は戦っているって話だったけど……)


 不意にフェリアと雄一の事を一馬は思い出す。戦闘中だと言う事だったが、一体誰と交戦しているのか疑問に思う。

 もし、それが、鬼姫やその仲間だとするならば、何故、一馬達は未だに襲われていないのか、と疑念を抱く。

 詳しい話を聞きたい所だったが、スマホ型の通信機を取り出そうとする前に一馬の腹が鳴った。それに釣られる様に、紅とキャルのお腹も鳴った。

 静寂の中で顔を真っ赤にする三人。俯く一馬と紅は恥ずかしそうに口を閉ざし、一方のキャルは仰向けに倒れたままゆらゆらと右手を上げる。


「あ〜の〜……一つ提案なのですが〜……」


 力のない声を発するキャルに、一馬は顔を上げ訝しげに首を傾げる。

 数秒の沈黙――後に腹の虫。羞恥心は無いのか、ゆっくりと体を起こしたキャルは今にも死にそうな表情で一馬を見据える。


「私のお腹は限界です」

「まさか、土でも食べようって言うんじゃ……」

「一馬さんの世界では土を食べる文化があるんですか?」


 ジョークのつもりだったが、キャルは興味津々に目を輝かせる。自分の世界に無い文化に興味があるのだ。

 自分の失言に右手で頭を抱える一馬に、紅は苦笑する。一馬の世界をよくは知らない紅だが、なんとなくあの風景から土を食べるような文化が無い事は理解していた。

 故に、一馬のそれがジョークだとすぐに気付いた。

 困り顔の紅は、チラリと一馬を見据え、一馬も少々呆れたようにキャルを見据える。


「土を食べるような文化に見えた?」

「いえ」

「……」

「……」


 沈黙の後、ニコッとキャルは屈託のない笑みを浮かべた。この場の空気を和ませようとしたキャルなりの気遣いだった。

 だが、一馬も紅も、まさかキャルがジョークにジョークを返すとは思わなかったのだ。

 そんな空気を察したのか、キャルも恥ずかしそうに頬を赤く染め、


「す、すみません。な、なんだか、場違いでしたね」


と、俯き早口でそう口にすると、一馬は慌てて、


「い、いや。俺の方こそ、すぐに冗談だって気づいてやれなくてごめん」


と、フォローする。

 紅も苦笑しつつ、


「それより、提案と言うのは?」


と、話を戻す。これが、この場の空気を変えるには一番いいと紅は判断したのだ。

 それにより、軌道は修正され、キャルはコホンと咳払いを一つし、メガネを左手で上げる。


「えっと……他の方を呼び出すのはどうでしょうか?」

「……?」


 キャルの提案に、一馬は首を傾げた。そして、紅と目配せをし、眉間にシワを寄せる。


「他の方って……それは無理だって話をしてたじゃないか?」


 一馬が訝しげにそう告げると、キャルは困ったように眉を曲げた。


「確かに、他の世界に行っている方を呼ぶ事は出来ないとは言いましたけど……。それ以外の人なら別に問題はないと思いますよ?」

「それ以外って……俺が呼べる人って限られてるよ?」

「柚葉さんは呼べないでしょうか?」


 紅が控えめに右手を肩口まで上げ、そう提案する。だが、それを否定するようにスマホ型通信機のモニターが光り、


『それは無理だろう』


と、白虎の澄んだ声が響く。

 その声に続き、低音の声で玄武が言葉を発する。


『今の主の力では、同じ世界の者を複数人召喚するのは無理だろう』

『お前も知っているだろ。召喚術は膨大な精神力を消耗する事は』


 玄武の言葉に付け加えるように、青龍がそう言うと、紅は「そうですね」とシュンと肩を落とした。

 召喚士である紅もよく知っている。本来、召喚術は相当な負荷がかかる事を。召喚術の基礎すら知らない一馬がヒョイヒョイと二人も三人も別世界の者を呼び出しているが、そっちが異常なのだ。

 召喚士として才能がある、優れていると言う事もあるのだろうが、一番の理由は一馬が四獣である朱雀・青龍・玄武・白虎の四体と契約出来る程の強い精神力があるからだろう。

 その事を、紅は羨ましく思う反面、嫉妬してしまう所でもあった。


「柚葉が駄目だとすると……」


 腕を組む一馬は空腹と疲れから鈍くなった思考をゆっくりと働かせ、記憶を辿る。他に呼び出せる者がいるだろうか、と考えていると『はぁ……』と白虎が大きなため息を吐いた。

 それに遅れ、玄武も『フムッ』と呆れたように息を吐く。


「な、何だよ。そんな意味深に息を吐かれると気になるだろ?」


 不満そうな一馬だが、そんな一馬に紅とキャルも少々残念そうな眼差しを向けていた。

 二人の眼差しに挙動不審に陥る一馬は、


「な、何? 俺、何かおかしい?」


と、思わず訪ねた。すると、二人は顔を見合わせる。


「あの……一馬さん……」

「一馬さんが呼べる人って限られてるじゃないですか?」

「ま、まぁ、そうだけど……誰がいたかなぁ?」


 紅とキャルの言葉に、一馬は腕を組み考え込む。そんな一馬に、紅とキャルはもう一度顔を見合わせ、眉をひそめる。

 そして、深い溜め息を吐いた。


『主よ。それを本気で言っているなら、幾らなんでも彼女に失礼だぞ』


 静かな声でそう告げた玄武が深々と吐息を漏らせば、


『なるほどな。マスターは記憶力が著しく悪いのだな』


と、白虎まで呆れる始末。

 終いには、


『こんな奴に仕える事になるとは……』


と、青龍の厳しい言葉が飛んだ。

 呆れる一同に訝しげな表情を浮かべる一馬は、右手で頭を掻く。空腹と疲労で頭が働かない。それと、あまりにも考える事が多すぎて、色々と思考がついていっていないというのもあった。

 働かない思考を必死に動かし、考える一馬にキャルは静かに花から息を吐き出す。


「リューナさんですよ。一馬さん」

「リューナ…………あっ!」


 ここでようやく、一馬も思い出した。

 困ったように微笑する紅と、呆れたような眼差しを向けるキャル。そんな二人に申し訳なさそうに背を丸める一馬は、苦笑し頭を掻いた。


「いやー……すっかり忘れて――て、ちがーう!」


 思い出したように声を上げる一馬に、紅とキャルは両手で耳を塞ぐ。


「な、なんですか? 急に大声を出して」

「何が、違うんですか?」


 キャルと紅が怪訝そうな表情を向けると、一馬は鼻息を荒げまくし立てる。


「いや、俺だって真っ先にリューナの事は思いついたけど――無理でしょ! ここに紅とキャルがいるって事は、ここは土の山か水の都のどっちかで、リューナは水の都にいて、しかも、玄武の化身を扱える。雄一の事を考えても、玄武の力が発揮できる土の山は除外されるべきじゃないの?」


 早口で興奮気味に自分の考えを述べる一馬に、紅もキャルも納得したように小さく頷く。

 腕を組み、右手を口元に当てるキャルは、「その可能性も否定はできませんねー」と誰にも聞こえない声で呟いた。

 しかし、すぐに頭を振り、真っ直ぐに一馬の目を見据え答える。


「恐らく、その可能性は限りなく低いと思いますよ」

「その根拠は?」


 隙かさず一馬がそう問うと、キャルは小さく首を傾げ、


「私の勘――と、言うよりも、推測ですけど、雄一さんとリューナさんとではスペックが違いますし、それに、火を司る聖霊の朱雀様と土を司る聖霊の玄武様とでも能力が変わってきますから……」

「…………? て、言うと?」


 一馬がキョトンとした顔で尋ねる。すると、紅が口を挟む。


「火は攻撃的で、土は守備的だと私は教わりましたよ」

「はい。ちなみに風も攻撃的で、水はどちらかと言えば守備的だと私の研究では出ています!」


 たゆんと胸を弾ませ、ムフンと誇らしげなキャルに、一馬は苦笑し紅へと目を向けた。


「私は、火以外の属性との相性があまりよろしくなかったので、他の属性がどういう特徴なのかは、詳しくわかりませんが、大きく分類すると、そんな感じだった気がします」


 キャルとは対照的に紅は自信なさげにそう答えた。

 そんな中、ふと一馬は閃く。


「あっ! そうだよ。最初から玄武に聞けばいいんじゃないか!」

『主よ……。普通、それは一番初めにする事ではないのか?』


 呆れた様子の玄武の声に、一馬は苦笑する。が、そんな一馬に残念な知らせが入る。


『残念だが、自分にもそれは分からん』

「……えっ?」

『ハッキリ言うと、自分以外の強い波動の所為で、上手く感知出来ん』

「それじゃあ、ハッキリとここが土の山だって事は分からないって事か……」


 渋い表情を浮かべる一馬だが、キャルは意外に楽観的に、


「まぁ、可能性は半々ですし、私の勘はよく当たるので、大丈夫ですよ」


と、明るく告げ、えへへとはにかんだ。

 何処からその自信が出て来るのか分からず、渋る一馬に紅は進言する。


「でも、リューナさんが呼び出せれば、ここが土の山で確定ですし、雄一さんとフェリアさんのいる場所も風の谷で確定出来るじゃないですか」

「うーん……そうだなぁ……」


 紅の言葉に小さく頷く一馬に、キャルは少々不満そうな表情を浮かべると、頬を膨らせる。


「……むぅーっ。私、不服です!」

「……? ど、どうしたんだよ? 急に」


 突然のキャルの発言に、一馬は小首を傾げる。何故、キャルがそんな事を言い出したのかさっぱり分からなかった。

 一馬の態度に一層不満そうに頬を膨らせるキャルは唇を尖らせ、


「私と紅さんの扱いに差を感じます!」

「そうかな?」

「どうでしょうか?」


 眉をひそめる一馬は、困ったように眉を曲げる紅と顔を見合わせる。


「どうして、私の時は渋ってたのに、紅さんの時は納得してたじゃないですか」

「いや……勘だって言われたら誰だってそうなるし、紅の提案は意味がある事だし……」


 困ったようにそう言う一馬に、相変わらず不服そうにキャルは頬を膨らせていた。

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