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第2回 召喚に欠かせない要因だった!!

「どうやら、何らかのトラブルで、召喚機が正常に機能していなかったようですね」


 キャルはそう言い、一馬のスマホ型通信機を修理していた。元々、キャルが造ったモノなので、内部構造などの細部な所も分かっている為、原因究明はあっと言う間だった。

 工具などは常備しており、すぐにキャルは修理に取り掛かった。


「それにしても……紅とキャルもこの世界にいるとは思わなかったよ」


 安堵したように笑みを零す一馬は、落ち着いた面持ちで座り込んだ。心労で体には疲れが溜まっていた。

 そんな一馬に心配そうな表情を向ける紅は、困ったように眉を曲げ、


「私達はすぐに一馬さんがいる事が分かってたんですけど……」


と、苦笑した。その言葉に「えっ?」と思わず声を漏らした一馬は、その笑みを引きつらせる。

 すると、スマホ型の通信機を修理するキャルが、白衣のポケットから自らのスマホ型通信機を取り出し、一馬へとニパッと笑いかけた。


「実は、これにはGPS機能も付いているので、電源さえ入っていれば、場所は特定出来るんですよ」

「ちょ、ちょっと待て! そんな機能、教えてもらってないぞ!」


 思わず大きな声を上げた一馬はキャルへと詰め寄る。すると、キャルは眼鏡の両端に親指と薬指を当て、クイッと軽く持ち上げると、


「位置情報を知れば、異世界へ行く手掛かりになるんじゃないかと思いまして。つい……」


と、一馬から視線を逸らした。

 異世界への探究心。それは大いに結構だが、流石にGPSはやり過ぎのような気もした。しかし、今回はこれに助けられた所もある為、一馬も文句を言うわけにもいかず、小さくため息を吐き肩をうなだれた。

 そんな一馬を元気づけようと、胸の横で両手を握った紅は、


「え、えっと、そ、その――ぶ、無事で良かったです! 心配してたんですよ!」


と、言葉を選びながら口にした。

 紅の些細な気遣いに、一馬は「ありがとう」と微笑し、もう一度息を吐いた。


「とりあえず、他の皆とも合流しないとな」


 一馬のその言葉に、紅の表情が暗くなった。キャルは殆ど表情を変えず、修理を続行しているが、一瞬だが一馬の言葉で手が止まった。

 故に、一馬も訝しげな表情を浮かべる。


「どうかした?」

「いえ……実は――」

「他の皆さんはここはいないみたいです」


 言いよどんだ紅に代わり、キャルが平然とそう口にした。その言葉に目を丸くする一馬だったが、すぐに全てを理解し勢い良く立ち上がり声を上げる。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って! そ、それって――」

「この世界には他の皆さんはいないと言う事ですね。私や紅さんと同じ状況だったとするなら、他の世界に飛ばされていると言う可能性が高いと思います」


 淡々と答えるキャルは小さく息を吐き、右手の甲で額の汗を拭った。ようやく、スマホ型通信機の修理を終え、満足そうな笑みを浮かべる。

 しかし、一馬にはそんな事よりも重大な事があり、


「そんな呑気な! 別の世界に飛ばされたんだったら、今すぐここに呼び出そう!」


と、修理したてのスマホ型通信機を手に取った。

 おっ、と驚いたような声を上げたキャルは、目を丸くする。一方、紅は何か言いたそうに口を開いたが、それよりも先に一馬がスマホ型通信機の電源を入れ、モニターに指をスライドさせた。

 そして、瞼を閉じると静かに息を吐き出し、念じる。だが、スマホ型通信機の反応は無い。召喚の魔法陣がモニターに映し出される事もなく、ただただ時間が過ぎる。

 ――数秒。

 ――数十秒。

 ――数分。

 どれくらいの時が過ぎたのか分からない。それでも、一馬はスマホ型通信機を握り締め、念じ続ける。

 しかし、何も起きない。


「無駄だと思いますよ?」


 冷静な口調でキャルはそう言うと目を細めた。

 その言葉にギリッと奥歯を噛む一馬は、眉間にシワを寄せゆっくりとキャルの方へと目を向けた。


「どうしてそんな事分かるんだよ。やってみないと――」

「今、やってみて分かったじゃないですか」

「そ、それは……」

「一馬さん。とりあえず、落ち着いてください」


 下唇を噛み締める一馬に、紅はそう告げその方にそっと右手を添えた。頭では理解しているつもりだが、落ち着けるわけがない。

 この状況だと、間違いなく夕菜も別の場所に飛ばされている事になる。一番巻き込んでは行けない夕菜を巻き込んでしまった。

 紅とキャルが一緒にいる事から、周鈴と一緒だとは思うが、危険な状態なのは確かだ。

 それに、フェリア。一馬はフェリアが雄一と一緒だと知らない。だからこそ、一番心配していた。一人で異世界に飛ばされ、現状一人きりの状態だと。一馬自身、紅とキャルの二人と合流するまで一人だったから、その恐怖も分かっている。

 故に、落ち着けと言われて落ち着ける程、一馬に余裕は無い。

 それでも、何とか落ち着こうと、一馬は深呼吸を二度繰り返し、胸に右手を当てる。焦っていては行けないと分かっている。一馬に出来る事は考える事だけ。ここが何処で、自分が何をしなければいけないのかを。

 そんな時、一馬のスマホ型通信機の画面が光を放ち、澄んだ声が響く。


『マスター。聞こえるか?』

「白虎?」

「ようやく、聖霊との交信も戻ったようですね」


 不思議そうに首を傾げる一馬に、にぱっとキャルは笑った。ちゃんと修理出来た事に安堵した様子だった。


『どうやら、電波障害は無くなった様だな』

「電波障害?」


 一馬はさっとキャルの方へと目を向けた。それが事実なのかを確認する為だ。だが、キャルはそれに対し、小さく首を振った。キャル自身、一馬の通信機が何らかの原因で故障したものだと思っていた。その原因は分からなかったが――。

 訝しげな表情を浮かべる一馬は、もう一度小さく首を傾げる。


「えっと……電波障害があったの?」

『恐らく。そうだと思う。急にマスターとの接続が切れた。本来、私達聖霊と契約者であるマスターの接続が切れる事はそうそうない』

「そうそうと言う事は、稀にあると言う事なのでは?」


 キャルがそう口にすると、スマホ型通信機から続けて玄武の声が広がる。


『稀にあると言うよりも、必ず訪れるもの。主の死。そして、主による契約解除。この二つだ』

「それは……そうそうあるとは言わないのでは……」


 困ったように微笑する紅は、右手の人差し指で頬を掻いた。

 紅の言葉に『うむっ。そうだな』と玄武は答え、小さく息を吐いた。僅かにその場に静寂が流れる。

 だが、すぐにスマホ型通信機の画面が光を放つ。


『そんな事より、朱雀からの伝言だ』

「朱雀からの伝言?」


 雄々しい青龍の声に、一馬は怪訝そうにそう聞き返す。すると、青龍は咳払いを一つし、


『フェリア嬢は無事だ、との事だ』


と、一言。

 その言葉に目を白黒させる一馬は、


「ほ、本当か!」


と、思わず声を張り上げた。

 その声に聊か驚く紅とキャルだったが、二人を顔を見合わせると少々困ったように微笑した。


『ああ。彼女は現在、雄一と一緒だ。何処なのかは定かではないが、紅蓮の剣で戦闘中だと言う事も連絡を受けている』

「そ、そっか……雄一と……」


 安堵し脱力する一馬は、その場に座り込んだ。フェリアの無事が確認出来た事で、少なからず一馬の不安は軽減された。

 少なくとも、雄一が一緒なら、フェリアが怪我をする事もないだろう。と、一馬は安心した。


「とりあえず、フェリアさんの無事が確認できてよかったですね」

「そうだね……」


 紅の言葉に微笑し答えた一馬はふっと静かに息を吐いた。

 そんな中、キャルは眼鏡を右手で上げると、静かに一馬のスマホ型通信機に尋ねる。


「一つお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」


 丁寧なキャルの言葉に、


『何か?』


と、澄んだ白虎の声。


「その世界で、朱雀様は本来の力を発揮できているのでしょうか?」


 その言葉に、白虎は『ふむっ』と小さく息を吐くと、数秒の間を上げる。


『朱雀の声の様子からだと、到底本来の力を発揮できている……とは言い難いだろう』

「そうですか……」

『と、言っても、一馬がいないと朱雀も何も出来ねぇだろ。出来て、紅蓮の剣に意思と力を加えるくらいだ』


 少々呆れたように青龍はそう口にし、小さくため息を吐いた。

 怪訝そうな表情を浮かべる一馬は腕を組み考えるキャルへと目を向ける。キャルが何を考えているのか分からず、眉間にシワを寄せた一馬は紅と顔を見合わせた。

 肩を竦め首を左右に振る紅は、困ったように眉を曲げる。


「何か分かった?」


 一馬が恐る恐るキャルへと尋ねる。すると、キャルは静かに顔を上げ、一馬へと視線を向けた。

 真剣な眼が眼鏡越しに一馬の目を真っ直ぐに見据える。そして、小さく息を吐いた。


「わかったと言うよりも……今の話から思うのですが……」

「うん。何?」

「フェリアさんと雄一さんがいる場所なのですが、土の山か風の谷のどちらかの可能性が高いと思います」


 キャルがハキハキとそう告げると、一馬と紅はまた顔を見合わせる。何故、キャルがその答えに至ったのか分からず、首を傾げる一馬は、


「どうして、そう思うんだ? 火の国じゃないってだけだろ? 他にも知らない異世界かもしれないし……」


と、今までの情報とまだ見ぬ異世界と言う可能性を口にした。

 しかし、キャルは小さく首を振る。


「いえ。私の知る限り、世界は五つだと考えられます。一馬さんの世界と、火の国・水の都・土の山・風の谷」

「ま、待ってください。そ、それじゃあ、ここは火の国・水の都・土の山・風の谷の何処かと言う事なんですか?」


 慌てたように紅がそう言うと、キャルは紅へと目を向け、もう一度小さく首を振った。


「その四つではなく、選択肢は二つです」

「どうして?」


 一馬がそう尋ねると、手にしていたスマホ型通信機の画面が光り、玄武の声が響く。


『その理由は、紅殿とキャル殿がこの場にいる事だろう』

「紅とキャルがここにいる事? えっと……二人がいるのと、なんで選択肢が二つになるの?」


 一馬が怪訝そうにそう口にすると、キャルは真っ直ぐにその目を見据える。


「一馬さんは知ってますか? 召喚するにあたって欠かせない要因を」

「えっと……媒介が必要とか、じゃないの? 召喚札とか、イヤリングとか」

「はい。それと、もう一つ大事な事があります」


 右手の人差し指をたて、キャルはそう告げた。一瞬、不可解そうな表情を浮かべた一馬は、腕を組み首を傾ける。

 媒介の他に何か、必要なモノがあるだろうか、と考えていた。しかし、考えた所で一馬に分かるわけがない。そもそも、召喚士になったのも偶然で、そう言う知識はなかったからだ。

 一方、紅はそれが何か分かったのか、チラリと一馬に目を向け、控え目に右手を上げる。


「あの……私が答えても良いですか?」

「えっ? わ、分かるの?」


 一馬が驚いた様子でそう聞くと、紅は苦笑する。


「い、一応、私、召喚士なので……」

「そ、そっか……。そうだよね」


 紅の言葉に一馬は恥ずかしそうに右手の人差し指で頬を掻き、苦笑した。

 うっかり忘れていたが、紅は召喚士。当然、召喚について詳しく、知っていて当たり前だった。

 そんな紅へと右手を差し出すキャルは、「どうぞ」と促す。

 すると、紅は「コホン」と一つ咳払いをし、右手の人差指を立てる。


「まず、一つ目は一馬さんも仰った通り、媒介」


 真っ直ぐに一馬の目を見据えそう言う紅は、続いて右手の中指をたて、Vサインを作る。


「二つ目は、召喚する対象が、その場所にいるかどうかです」

「……?」


 紅の言葉に一馬は小首を傾げた。どう言う意味なのか、理解するのに暫し時間がかかったが、一馬は右手で頭を抱え、


「え、えっと……それって、対象者が……本来、いる場所に……いないと行けないって事であってるかな?」


 ぎこちなくそう告げると、紅は小さく頷く。


「はい。そうです。召喚の際に使う媒介はあくまで、世界と世界を繋ぐもの。契約された聖霊は、それを伝って召喚されると言うわけです」

「で、でも、ちょっと待ってよ。えっと、えっと……」

「いいですか? 一馬さん。聖霊との契約と召喚は全くの別物なのです。例え、召喚術が使えても契約がなければ、どんな異界へと道を繋げた所で聖霊は呼び出す事は出来ません」


 キャルは真剣な表情でそう言い、肩をガックリと落とす。


「現に私は何度か異界への扉を開いた事がありましたが、何の成果も得られませんでした!」


 悔しげにそう声を荒らげるキャルに、紅は苦笑する。


「と、とにかく、召喚するには、対象となる者がその世界にいなければ行けない。私の場合は火の国に、キャルさんの場合は風の谷。ですから、選択肢は四つでなくて、二つに絞られるわけです」

「火の国と風の谷……以外の二つにって事?」

「はい。恐らくそうなると思います」


 紅がそう答えると、一馬は数秒考えた後、この状況に追い込んだ元凶を思い出し声を上げる。


「ちょ、ちょっと、ちょっと待って! じゃ、じゃあ、俺達をここに飛ばした奴はどうなんだ? アレも召喚の類なんじゃないの?」


 一馬の言葉にキャルは胸を抱える様に腕を組む。暫し渋い表情を浮かべるキャルは、瞼を閉じ静かに首を振る。


「分かりません」

「わ、分かりませんって……」

「一応、召喚術の類だとは思いますが、一馬さんや紅さんのそれとは違う媒介も要らず、召喚の理すらも介さないものだと考えてください」


 きっぱりとそう言い切るキャルに、一馬は納得は出来なかったが、「わ、分かった」と口にした。

 鬼姫といた彼が一体何者で、何が目的なのか、一馬はそれを考えたが、すぐに考える事を諦めた。何者で何が目的なのかよりも、今、この状況をどうすればいいのかを考える方が優先事項だと思ったからだ。

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