表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/90

第3回 水の都前編だった!!

 火の国、火葬祭から二日後の事だった。

 同じ時刻、同じシチュエーション。一馬のポケットでスマホが震えた。

 一馬は嫌な予感がした。

 その為、ポケットで震えるスマホを一旦無視する。

 しかし、続けて、スマホは振動し続ける。

 これは、一馬の元から所有していたモノではなく、完全にキャルから貰った方のモノだと、一馬は分かっていた。

 それもあり、一馬は無視したまま帰り支度をする。

 帰り支度が済んだ一馬は、ふっと息を吐くと瞼を閉じた。

 その間もポケットではスマホが震え続ける。


(出たくないなぁ……)


 瞼を閉じたまま、一馬はそんな事を考えていた。

 しかし、そのまま放置しているわけにも行かず、一馬はポケットからスマホを取り出した。

 そのモニターにはフェリアと名前が映っており、一馬の予想通りの人物からの着信だった。

 右手でスマホを握り締める一馬は終始考える。

 取るべきか、取らぬべきか、と。

 左手の人差し指が、何度もスマホのモニターに触れそうになっては離れるを繰り返す。

 葛藤していた。

 だが、その時、一馬の脳裏に浮かぶ。

 フェリアの怒った顔が。

 その為、一馬は目を細め、肩を落とす。


「仕方ない……出るか……」


 深々とため息を吐き、一馬はモニターを左手の人差し指でスライドさせた。

 直後だった。


『どうして! すぐに出ませんの!』


 フェリアの怒鳴り声が響いた。

 予期していたのか、一馬は右腕を精一杯伸ばし、スマホを遠ざけていた。

 目を細める一馬は「はは……」と表情を引きつらせ、スマホを耳に当てる。


「いやー。悪い。ちょっと忙しくて――」

『嘘はやめてくださいませんの! この間は、この時間に出たと紅さんが仰っていましたわ!』


 フェリアのその言葉に、一馬は、


(事前に情報収集してるなんて……)


と、聊か感心した。

 それから、左手で頭を掻くと、


「えっと……まぁ、なんだ。ほら、色々とあるし――」


と、何とか誤魔化そうとするが、フェリアの鋭い声が飛ぶ。


『色々って何ですの? そんなに、ワタクシからの連絡は面倒なんですの!』

「いや……そんな事は……ないけどぉ」


 ゆっくりと右へ瞳を動かす。

 それから、鼻から静かに息を吐き、瞼を閉じる。

 嘘を言ってしまったと言う罪悪感と、フェリアに悪い事をしたと言う事に対する自己嫌悪に陥っていた。

 謝るべきか、と考える。

 その為、沈黙が場を支配し、不安に思ったのか、スマホの向こうからフェリアの声が聞こえた。


『あ、あの……。ワタクシ……迷惑ですの?』


 僅かだがその声が震えているのが分かった。

 一馬の胸を抉る様に、罪悪感が深々と突き刺さる。

 女の子の今にも泣き出しそうな声と言うのは、それ程の破壊力があった。

 机へと平伏す一馬。

 その際、額を机にぶつけ、ゴンッと物凄い音が響いた。

 その音に、スマホの向こうで、フェリアの慌てた声が響く。


『な、何ですの? 今の音!』

「あーぁ……な、何でもない……天罰が下ったんだ……」

『は、はい?』


 わけが分からないと、言うフェリアの言葉に、一馬はただ失笑した。


「それで、一体、何の用かな?」


 額を擦りながら、一馬は尋ねる。

 一馬のその問いかけに、不満げながら、フェリアは答えた。


『今夜、祭りを行う事になりましたの』

「へぇー」

『それで、一馬にも参加してもらえないかと思いまして、お願いできませんの?』

「えっとー……拒否権はあるのかな?」


 背もたれに背を預け天井を見上げる一馬がそう尋ねると、スマホの向こうでふふふっと笑うフェリアの声が聞こえた。


『もちろん、ありますのよ?』

「じゃあ、パスで」

『却下で』


 即答でフェリアがそう答えた。


(うわぁー……。拒否権ねぇー)


 思わず一馬はそう思い表情を引きつらせる。

 しかし、そんな風に思う一馬に、フェリアは静かな声で告げる。


『今回の祭りは、青龍様を祭るための祭りですの。ですので、一馬には参加してもらわなければ困りますのよ?』


 フェリアの言葉に、一瞬「そうか」と思ってしまう一馬だが、すぐに先程の


“(拒否権は)もちろん、ありますのよ”


と、言うフェリアの言葉を思い出し、上体を起こした。


「ちょっと待て!」

『何ですの?』

「さっき、拒否権はあるって話だったじゃないか? これじゃあ、俺の参加は強制じゃないか!」


 不満げに一馬がそう言うと、フェリアはクスリと笑う。


『何を言ってますの? 拒否する権利はあると言ったのであって、それを認めるとは言ってませんのよ? それに、もし、本当に予定があるのでしたら、こちらの日付をずらすだけですのよ』


 相変わらず、自信満々のフェリアのその言葉に、一馬の脳裏に思い浮かぶ。

 ウェーブの掛かった金色の髪を掻きあげ、堂々と胸を張るフェリアの姿が。

 その姿を思い浮かべた一馬は思わず、笑ってしまった。


『な、何ですの? ワタクシ、おかしな事でもいいましたの?』


 少々不安げなフェリアの声に、一馬は首を振る。


「いや。何でもないよ」

『ほ、本当ですの?』

「ああ。何でもないよ」


 クスクスと笑いながら、一馬はそう言い肩を震わせた。

 それから、少しの間、他愛もない会話をした。

 特別な話ではない、くだらない話ばかりを。

 陽が傾き、空が夕陽色に染まる頃、ようやく、一馬はフェリアとの通信を終えた。

 大して話す事などないと思っていたが、まさかここまで話す事になるとは、と一馬は窓から見える夕陽色の空を見据え吐息を漏らした。


「長々と話してしまった……」


 思わずそう口にする一馬は、肩を落とすと静かに席を立った。

 と、同時に、教室の戸が開かれる。

 その音に、一馬は前回の事を思い出し、


(まさか……)


と、目を細める。

 そして、ゆっくりと戸の方へと顔を向けた。


「凄く……楽しそうだったね」


 戸の向こうには、ニコニコと笑みを浮かべる夕菜の姿があった。

 その笑みが一馬は少しだけ怖かった。

 前回にも増して、怒っている気がした。

 その為、一馬は背筋を伸ばすと、カバンを手に持ち、


「さっ! 帰ろうかな!」


と、声をあげ、何食わぬ顔で歩き出す。

 しかし、夕菜の横を通り過ぎようとしたその瞬間に右手首をつかまれる。


「あれれ? 何処に行くのかな?」


 弾んだ夕菜の声に、一馬は両肩をビクッと跳ね上げた。


「え、えっと……」

「今、目、合ったよね?」


 一馬が顔を向けると、夕菜も満面の笑みを向け、そう口にする。

 身の毛も弥立つ夕菜の声に、一馬の笑顔は引きつった。


「それに、ちゃんと戸締りしなきゃダメだよ?」


 微笑する夕菜が、サラリと茶色の髪を揺らし頭を右へと傾けた。



「えっ! また、お祭りに?」


 教室の窓を閉めた夕菜が、怪訝そうに声を上げた。

 教室の戸締りをしながら、先程の通信がフェリアからで、今夜祭りがある事を説明したのだ。

 その結果の反応が、今の声だった。

 窓に鍵をかける夕菜は、深く息を吐くと、肩を落とす。


「人気者は辛いねー」


 棒読みで感情など篭っていない声でそう言う夕菜は、ジト目を一馬へと向ける。

 夕菜のその眼差しに気付きつつも、一切顔を向けない一馬は、窓を閉めながら答える。


「いやいや。に、人気者とかじゃなくて……今回は、青龍の為の祭りだからさ。参加してくれないかって」

「えっ? 青龍の為?」

「そっ。だから、俺じゃなくて、今回はどっちかって言うと青龍に来て欲しいみたいなんだ」


 窓の鍵を掛け、夕菜の方へと体を向けた一馬は笑みを浮かべる。

 しかし、夕菜は不満そうに頬を膨らし、「本当にそうかしら?」と一馬には聞こえない程の小さな声で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ