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第1回 火の国前編だった!!

 季節は夏へと移り変わった。

 風の谷で、白虎と契約し、すでに一月余りが過ぎていた。

 今の所、何か目立った事が起きたと言う事も無く、平和な時が過ぎていた。

 時折、水の都に呼ばれたり、風の谷に呼ばれたりするが、それでも、変わらぬ日常を一馬は送っていた。


「平和だなぁ……」


 教室の窓ブチに腕を置き、一馬はそう呟く。

 相変わらず、グラウンドには運動部が声をあげ、活気が溢れていた。

 たそがれる一馬はふっと息を吐くと、遠い目を空へと向ける。

 静かな時が流れる中、唐突にズボンのポケットでブーッブーッとスマホが震えた。

 その振動に、一馬はまず右のポケットに触れ、続いて左のポケットに手を突っ込んだ。


「こっちか……」


 一馬はボソリとそう呟きポケットからスマホを取り出す。

 何処にでもある黒いスマホのモニターには“紅”と名前が映っていた。

 これは、一馬が元の世界でも怪しまれずに通信出来る様にと、キャルが開発したモノだった。

 これにより、召喚札やイヤリングなどを持ち歩かなくても、これを持っていれば、朱雀達聖霊を呼び出す事も可能になった。

 どう言う原理なのかは、一馬も分からない。

 それでも、通信はしやすくなり助かっていた。

 モニターを右手の中指でスライドさせる。


「紅? 何かあった?」


 サラッとした口調で一馬はそう尋ねると、スマホの向こうから、


『いえ……特に何か起こったとかではなく……』


と、少々オドオドとした口調の紅に、一馬は首を傾げる。

 すると、慌てた様子で、


『あっ、あの……そ、その……少々お時間よろしいですか!』


と、口にする。

 その言葉に一馬は眉間にシワを寄せる。

 何かあるのだろうか、と悩む一馬は、鼻から息を吐く。


「時間は大丈夫だけど……珍しいね? 紅から通信してくるなんて?」


 一馬がそう言うと、紅は『え、えっと……』と、口ごもる。

 不自然な紅の態度に、困ったように頭を掻く一馬は、鼻から息を吐くと、


「何かあるなら、そっち、行こうか?」


と、眉を顰め尋ねる。

 すると、紅は慌てて、


『い、いえっ! そ、そんな、だ、大丈夫です!』


と、声をあげた。

 何故だろうか。一馬は慌てる紅の姿が容易に想像する事が出来た。

 その為、一馬は苦笑し、小さく息を漏らすと、


「いいよ。久しぶりに火の国にも行ってみたいし……」


と、告げた。

 すると、紅の声が沈む。


『そ、そう……ですか?』


 静かな紅の言葉に、


「ああ」


と、一馬は答え肩を竦める。

 確かに、ココの所、火の国には出入していない。現状を知る為には、一度火の国にも行っておくべきだろうと、一馬は考えた。

 そんな一馬の言葉に、何処となく、紅の声が弾む。


『で、でしたら、今夜、呼んでもいいですか?』

「今夜? 何で夜?」

『えっ? あ、あの――』

『紅。祭りのじゅん――あっ、悪い。交信中だったのか』


 向こう側から、柚葉の声が聞こえた。

 その言葉に、一馬は目を細め、その瞬間に、スマホの向こう側で慌てた紅の声が響く。


『わ、わわーっ! ち、違うんです! そ、そ、そんな、ホント、違うんです!』

『いや、いいって別に。アイツを呼んで、楽しみたいって言うのは……』

『ゆ、柚葉さん! そ、そんな事、考えてません!』


 完全に一馬との通話している事を忘れているのか、紅の声が少し遠くなった。

 放置気味にされた一馬は、どうするべきかを考える。そして、とりあえず、今は黙っている事が先決かも知れないと、一馬は黙っている事にした。


『いや、別にいいじゃないか。舞を踊るんだろ? 見てもらえば……』

『ち、違うんです! そ、そんなんじゃ――』

『まぁまぁ、別に問題はないでしょ?』


 二人のやり取りを暫し聞いていた一馬は、困った表情を浮かべる。

 すると、不意に頭の中に声が響く。


(どうする気なのですか? マスター)


 清く澄んだ女性の声。この声は白虎の声だった。

 契約する前とは明らかに違う声質、口調だが、紛れもない白虎自身の声だ。

 その声に、一馬は深く息を吐き出し、左手で頭を掻いた。


「うーん……どうするかな?」

(切りますか?)

「それは……失礼でしょ?」


 白虎の言葉に、苦笑しそう言う一馬は肩を落とした。

 それから、眉間にシワを寄せる。


(さて……どうしたものか……)


 一馬は窓の外、蒼い空へと目を向け、もう一度深いため息を吐いた。



 その後、二十分程待ち――


『す、すみません! 一馬さん』


 スマホの向こうで、何度も頭を下げる紅の光景が、一馬の頭には思い浮かぶ程、紅は何度も謝っていた。

 窓の縁に肘を置き、息を吐く一馬は、


「いいって、気にしなくて。それより、祭りって、一体、何の祭りがあるんだ?」


と、話題を変える為にそう口にした。

 すると、紅は、申し訳なさそうに、


『え、えぇ……実は、今夜、こちらでお祭りがありまして……』


と、答えた。


「そっか。火の国にも祭りってあったんだね」

『はい。そりゃ、ありますよー。何言ってるんですか』


 クスクスと紅が笑うのが聞こえ、一馬も微笑する。


「ごめんごめん。そっかーもう祭りの季節かぁー」


 もう夏の訪れなのだと、一馬は考えていた。

 思えば、もう陽が落ちるのも遅く、大分遅くまで明るい。

 そう考えると夏なんだなと感慨深くなってしまう。

 ボンヤリと窓の外を眺める一馬の耳元で紅の声が響く。


『それでですね』

「あっ、うん。何?」


 紅の声で我に返った一馬はそう言い窓の縁へと腰を預ける。


『さっきもお話したんですが、今夜呼んでもよろしいですか?』

「えっ? ああ……俺は構わないけど、いいの? 俺が参加しても?」


 一馬がそう尋ねると、紅の声は弾む。


『はい! 大丈夫です!』

「そ、そう……なら、うん。いいんだけど……」


 紅の弾む声に、一馬は少々驚く。

 いつもよりも、紅が何処となく浮かれているそんな気がした。

 よっぽど、祭りが楽しみなんだろうと、一馬は微笑し小さく頷く。


『そ、それじゃあ、今夜……』

「ああ。楽しみにしてるよ」

『はい!』


 これでもかと、弾む紅の声に、一馬も何処か嬉しくなった。



 それから、一馬と紅は十数分他愛も無い会話をした。

 通信を切った時には大分陽は傾いていた。

 深く息を吐き出す一馬は、肩の力を抜くとスマホをポケットへとしまい、自分の席へと移動した。


「さて……帰るか……」


 と、一馬がカバンを持ち、教室の前から出ようと歩き出すと、その扉のガラス越しに夕菜が一馬の顔を睨んでいた。

 夕菜と目が合うや否や、一馬はすかさず反転する。


(な、なんだ? な、何で怒ってんの?)


 右手を胸にあて、一馬は考える。

 しかし、思い当たる節は無く、ただただ天井を見上げた。

 そんな折、戸が開かれ、ズカズカと夕菜が教室へと入ってきた。そして、グルリと一馬の正面へと回り込み、顔を見上げる。


「むぅーっ」

「な、何?」

「随分と、楽しそうに電話してたみたいだけど、一体誰と話してたのかしら?」


 腰に手をあて、上目遣いに一馬を睨む。

 愛らしい顔が下から自分の顔を覗き込むこの状況に、一馬は赤面する。

 夕菜の視線から逃れる様に体を反転させた一馬は、慌てて声を上げる。


「あ、あれは、紅だよ!」

「紅……さん? ホントに?」


 疑いの眼差しを夕菜は一馬の背に向けた。

 刺す様な視線を背中に感じる一馬は、激しく頷き、


「ほ、ホントだよ! 今夜、お祭りがあるから、来ないかって!」

「お祭り? …………そっかー、もうそんな時期なんだ……」


 下唇に右手の人差し指をあて、そう呟く夕菜は、チラッと一馬を見た。

 その視線に気付いた一馬は、目を細めると、右手で頭を掻く。


「わ、分かった。向こうに着いたら、夕菜も呼ぶよ」

「ホント! やった!」


 両手を挙げ、喜ぶ夕菜に、一馬は深々とため息を吐いた。

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