第10回 紅蓮の翼と召喚銃だった!!
風の谷、町の中。
雄一はジャックと交戦を続けていた。
ほぼ互角の戦いを繰り広げる雄一とジャックの二人。
額から汗を流す雄一は、肩を大きく揺らしていた。
やはり、何処か焦りがあったのだろう。体力の消耗が激しかった。
そんな雄一の様子にジャックは不敵な笑みを浮かべ、メスを構える。
「意識が散漫だな。何を焦っている?」
ジャックの言葉に、雄一は眉間にシワを寄せた。
幾ら朱雀を纏っているとは言え、これだけ戦いが長引くと朱雀の力も大分消耗していた。
(大丈夫か? 雄一)
「あぁ……大丈夫だ……」
朱雀の声に、そう答えた雄一は、左手の甲で額の汗を拭った。
そして、真っ直ぐにジャックを見据え、腰の位置で紅蓮の剣を構える。
両者の呼吸音が重なり、やがてジャックは動く。
それに対応するように、雄一も地を蹴った。
紅蓮の剣とメスが激しく衝突し、火花が散る。明らかにリーチで差があるはずなのに、ジャックは全くそれを感じさせなかった。
衝撃で弾かれたのは雄一の方で、足元に二本の線を刻む。
深く息を吐く雄一は下唇を噛み締め、目を凝らした。
そんな折だった。突如、ジャックの表情が険しく変わり、その視線を長く続く渓谷の向こうへと向ける。
それに遅れ、雄一も何か強い力を感じた。
「な、何だ?」
雄一もジャックと同じ方向へと顔を向けた。
白虎とは違う強力な力に、朱雀はクスリと笑う。
「どうした?」
(ああ……どうやら、玄武の化身が召喚された)
「玄武の化身? て、事はあっちも……」
(大分、苦戦を強いられてると見る。だが、玄武が化身を出したと言う事は、それに相応しい者が向こうにも居ると言う事だ)
何処か嬉しそうな弾んだ声でそう言う朱雀に、雄一は眉間にシワを寄せた。
「何だ? その玄武の化身は凄いのか?」
(いや……能力的には私の力と変わらない。それでも、奴の化身が出たと言う事は、玄武をまとう事が出来ると言う事だ。そうなれば、戦力は大幅に上がる)
「そう言う事か……」
雄一がようやく納得したように頷く。
すると、ジャックは突然走り出し、跳躍する。
「なっ! 待て!」
雄一はそう叫ぶ。
跳躍したジャックが降りたのは建物の屋根の上だった。
完全にその視線の先は渓谷の向こうへと向けられていた。
そんなジャックに対し、表情をしかめる雄一は走り出す。
「待て! 俺との決着はどうすんだ!」
雄一はそう言いジャックを追うが、軽快に屋根を次々と伝い走るジャックにどんどん引き離されていく。
「くそっ! あの野郎!」
怒り、眉間にシワを寄せ必死にジャックを追う雄一だが、やがて足を止めた。
完全に見失ったのだ。まだ鬼とその他多くの兵が戦っている中だ。走って追いかけるには圧倒的に不利だった。
奥歯を噛み締める雄一はジャックの消えて行った方角を見据えたまま、紅蓮の剣を握り締める。
そんな時だ、朱雀の声が響く。
(奴を追うのなら、力を貸そう)
「力を貸す? すでにお前の力は借りてんだろうが!」
怒鳴る雄一に対し、朱雀は落ち着いた口調で告げる。
(いいから聞け。貴様のまとうそのマントは私の力を具現化したものだ)
「それがなんだって言うんだ?」
(いいか。念じろ。私の力を。イメージしろ。私の翼を)
朱雀の凛とした声に、苛立ちながらも雄一は瞼を閉じる。
体に駆け巡る朱雀の力を念じ、イメージする。朱雀の翼を。
すると、真紅のマントは唐突に燃え上がり、その背中へと紅蓮の翼を広げた。
火の粉が舞い、紅蓮の翼は揺らぐ。雄一は全く熱を感じていないが、実際、その翼は高熱の炎で作られていた。
自分の背に生えた紅蓮の翼に、雄一は一瞬驚くが、すぐに額に青筋を浮かべる。
「何でもっと早くこの事言わねぇんだよ!」
怒鳴り声を上げる雄一だが、朱雀は冷静に対処する。
(地上戦では、この翼は邪魔にしかならない。それに、力の消費も激しいからな。初めて私をまとうお前では、力のコントロールが出来ないと思ってな)
「チッ……」
朱雀の言葉に雄一は舌打ちする。
だが、朱雀が言っている事も分からないではない為、雄一はそれ以上文句は言わずに尋ねる。
「それで、そうすればいい? どうすれば飛べる!」
(うむっ……お前の感覚次第だ。飛べると思い、翼を羽ばたかせるイメージをしろ)
朱雀の言葉に、雄一は肩の力を抜くと瞼を閉じた。
イメージをする。翼を羽ばたかせる。すると、紅蓮の翼はゆっくりと動き出す。
空気を掻き、突風を吹かせ、雄一の体は宙へと舞う。
そして、雄一は瞼を開く。
「すぐに追いつくぞ!」
雄一はそう言うと、翼で大きく空気を掻き、一瞬で加速し、ジャックを追った。
空気抵抗で金髪が後方へと流れ、雄一は目を細める。ジャックはすでに町を抜け、崖を駆けていた。
その姿を雄一はすぐに確認した。だが、雄一は止まらない。
そのまま更に加速する。
(雄一! 今、奴を――)
(分かってる! だが、もっと重要な案件が出来た!)
朱雀へと雄一はそう返し、奥歯を噛み締める。
声でなく、頭の中でそう返したのは、声を発する事も出来ない程、加速していたからだった。
朱雀には雄一が何を考えているのか分からない。
そして、ジャックも高速で自分を抜き去った雄一へと疑念を抱く。
(今のは――。何故、素通りした……)
風を切る音から、雄一が迫っている事は分かっていた。
きっと自分を追ってきているのだと、ジャックは思っていた。しかし、雄一はジャックを素通りし、そのまま一直線に突っ切る。
止まる事が出来なかったのか、はたまた、何か別の目的があるのか、ジャックはそう考えながらも、崖を伝い走り出した。
加速する雄一は徐々に高度を落としていく。
そして、ゆっくりと腕を曲げ、紅蓮の剣の切っ先を前へと出した。
(お、おい! まさか――)
(そのまさかだ!)
朱雀も気付く。雄一が何を考えているのか。
それは、雄一の視界に僅かに映る存在――。
朱雀が感知していた大きな邪悪な力の塊――。
灰色の肢体に黒の虎模様の入った白虎だった。
その前足で大型の炎のタテガミを揺らす炎帝を踏み締め、今にも牙を突き立てようと白虎は大口を開いていた。
地面へと炎帝を押さえつける白虎、この二体から少し離れた位置で、紅は蹲っていた。
体に激痛が走っていた。
その姿に、雄一は僅かに表情を歪める。
(待て! このままの速度で突っ込む気か!)
(テメェの力で守られてるんだろ! なら、多少無理をしても大丈夫だろ!)
雄一の言葉に、朱雀はくっ! と、声を漏らす。
そして――、
(分かった! お前に全てを託すぞ!)
朱雀はそう言うと雄一の背中に生えた翼を強制的に折りたたむと、元のマントへと戻す。
この速度ならば、もう羽ばたく必要など無く白虎まで到達できる。その為、雄一の身を守る事だけを優先したのだ。
真紅のマントは雄一の体を包み込み、やがて燃え上がる。そして、一本の矢の様に切っ先を鋭くし、そのまま白虎へと衝突する。
轟音が轟き、衝撃が広がる。
炎は散り、鮮血が迸り、白虎の体が大きく仰け反る。
“グオオオオオッ”
悲鳴の様な遠吠えが轟き、白虎の体が後方へと倒れこむ。
右肩付近に深々と雄一が手にしていた紅蓮の剣が突き刺さり、衝撃で弾かれた雄一は地面へと激しく叩きつけられた。
地面が抉り、雄一の体は減り込む。あまりの衝撃に雄一は吐血し、表情を歪める。
朱雀の恩恵を受けているとは言え、その衝撃は凄まじいものだった。
だが、それと同じく白虎もかなりの激痛を伴っているのか、地面に背を預け暴れまわっていた。
上体を起こす炎帝は、熱気の篭った息を吐き出し、その口から血を滴らせる。
『す、すまない……』
炎帝の静かな声に、口角から血を流す雄一は、表情を歪めながらゆっくりと立ち上がる。
「テメェの為じゃねぇ……女が苦しむ姿を……見たくねぇだけだ」
雄一はそう言い、チラリと紅の方へと目を向けた。
胸を押さえ、紅は苦しみに表情を歪めていた。
眉間にシワを寄せる雄一は、口角から流れる血を右手の甲で拭い、更に崖を伝う一つの影を睨んだ。
(任せるぞ……一馬!)
そう願い、雄一は見上げる。
静かに体を起こした白虎の姿を。
場面は塔内部へと戻る。
玄武の化身である大剣・黒泉をボーガンへと変えたリューナは、その引き金を引き矢を放っていた。
ボーガンの矢は次々と自動で装填される。
これが、玄武の司る土属性の特性、恵みの力だった。
自然とボーガンの矢が生み出されているのだ。
放たれる矢は次々と鬼の頭を射抜き、消滅させていた。
「す、凄い……ですね……」
思わずキャルがそう口にした。
それはもうそう口にするしかない程の命中率で、放つ矢放つ矢が、寸分の狂いも無く額を射抜く。
(これ程まで、自分の化身を使いこなせる者が居るとは……)
玄武も聊か驚いていた。
玄武の化身である黒泉は、非常に扱い辛い武器でもある。その為、ここまで完璧に使いこなすリューナには驚かされていた。
「ほ、ホント、凄いな……」
そして、一馬も感嘆の声をあげ、同時に――
「何で……メイドなんてしてるんだろう?」
と、言う疑問も生まれた。
正直、メイドなんかをするよりも、ハンターをした方が圧倒的にいいように思えた。
五〇以上居た鬼も、すでに全滅し残るは老人だけとなった。
「ほっほっほっ……。なかなかやりますな。お嬢さん」
静かに笑う老人に、リューナは小さく会釈する。
「いえいえー。私ではなく、玄武様の力ですぅ」
謙虚にそう言うリューナは、微笑し、たゆんと福与かな胸を弾ませた。
追い込まれたと言うのに、余裕の表情を変えない老人に、一馬は聊か疑念を抱く。
まだ、何かあるのか、と。
だが、すぐにその答えには気付く。迫る一つの強い力を感じて。
「伏せろ!」
一馬は叫び、隣に居たキャルを庇うようにその横へと押し倒し、リューナもその声に瞬時に身を屈めた。
遅れて、衝撃ともに壁が吹き飛ぶ。大小様々な砕石が塔内へと飛び散り、乾いた音を奏でる。
土埃が舞う中で、リューナは険しい表情を浮かべ、崩壊した壁の方へと顔を向けた。
そして、一馬も、額から血を流しながら、その方向へと顔を向ける。
土埃の中に浮かぶのは、一つの影。
ひょろ長い男ジャックの姿だった。長い腕を揺らし、深く息を吐き出す男は、赤い瞳をギョロリと動かし、老人の方へと足を進める。
「まだ……残ってたのか……」
「おやおや。あなたこそ、大分苦戦を強いられていたようじゃな」
老人の言葉に、ジャックは肩を竦める。
二人のやり取りを聞きながら、一馬は息を呑む。
(雄一はどうした? やられたのか?)
胸がざわめき、鼓動は速まる。
考えがまとまらない中、玄武の声が頭に響く。
(主よ! 今すぐ、自分をリューナ殿に纏わせるのだ!)
玄武の言葉に、一馬は奥歯を噛み締め、精神力を集中する。
流石に、こう何度も立て続けに召喚をするのは、体にかなりの負担が掛かっていた。
だが、それでも、一馬は奥歯を噛み、ポケットから手の平サイズの水晶を出す。
「我の呼び声に応え、汝の化身に力を与えたまえ!」
一馬の声に、水晶が黒く輝く。
そして、光が一室へと広がり、やがて衝撃がリューナを突き抜けた。
眩い光に、誰もが目を伏せる。
息を切らせる一馬は膝を床へと落とし、大きく肩を揺らす。
光は一瞬にして収縮し、リューナの姿があらわとなる。
瑠璃色の胸当てが、福与かなリューナの胸を締め付け、甲羅模様の描かれた肘までの長さのグローブが右腕を包んでいた。
驚くリューナが、一歩後退りすると、スカートがはためき、足元がチラリと見える。
ガラス細工の様なエメラルド色をしたヒール。それもまた、玄武をまとった為に変化したものだった。
「わわっ! な、なんですかぁーこれはぁー」
驚きの声を上げるリューナの頭の中に玄武の声が響く。
(リューナ殿。自分の力を汝に貸そう)
「わわわっ! 頭の中にぃ、玄武様の声がぁー」
間延びした語尾の所為か、イマイチ、驚いているさまが伝わらない。
だが、自らの姿をマジマジと見ている所を見ると、驚いているのだと分かる。
床に膝を落とし疲労感に虚ろな表情を浮かべる一馬に、キャルは不安そうな声をかける
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……ちょ、ちょっと……苦しいだけ……」
右手で胸を押さえ、そう言う一馬はキャルへと微笑した。
キャルの不安を拭う為に繕った一馬の笑顔は、とても痛々しくキャルには見えた。
訝しげな目を向けるジャックは、深く息を吐き出す。
「また……聖霊の力か……」
不快そうに眉間にシワを寄せるジャックは、その手にメスを取り出すと、
「聖霊の力には飽き飽きだ!」
と、ジャックはメスをリューナへ向かって投げる。
一本、二本、三本と、次々と何処からとも無く現れるメス。
それを、リューナは一本残らず撃ち落す。
激しく火花が散り、矢とメスが弾きあい地面へと散乱する。
意識を集中しメス一本一本に確実に矢を当てるリューナと違い、ただメスを投げているだけのジャック。
その為、精神的にも圧倒的にジャックが有利な位置に立っていた。
ジャックがどれ程のメスを所有しているのか分からないが、このままでは押し切られるのは明白だった。
疲労感に襲われ、頭の回転が鈍くなっている一馬だが、それでも必死に打開策を考える。
そんな時だ、キャルは思い出したように「あっ」と声をあげた。
「ど、どうかした?」
キャルの方へと一馬は顔を向ける。
すると、キャルは腰にぶら下げていたホルスターからとてもメカメカしい銃を取り出した。
「銃?」
「はい。ただ、弾を撃ち出す銃ではなく、召喚銃です」
「召喚……銃?」
思わず一馬がそう尋ねると、キャルは満面の笑みを浮かべる。
「はい。私は、色々と聖霊を研究して、それで、聖霊を簡単に呼び出す事の出来る道具を開発したんです」
「それが……召喚銃……」
「はい。でも、この世界ではすでに聖霊は存在していません。ですので、私自身が契約している聖霊はいないのです」
ガックリと肩を落とすキャルに、一馬は何が言いたいのか分からず首を傾げる。
すると、落ち込んでいたはずのキャルは、唐突に顔を挙げ、目を輝かせた。
「しかし! 私は開発に成功したのです! 聖霊の力を宿した武器を創る事に!」
「は、はぁ……」
力説するキャルに、一馬は困惑していた。
結構、現状は危険な状態なのに、どうしてこんなにもキャルは活き活きしているのかと。
そんな一馬の表情に気付いたのか、キャルはコホンと咳払いをすると、
「この召喚銃には、失われた聖霊の力がデータ化され、インプットされています。そして、特殊な銃弾にそのデータかされた聖霊の力を注ぎ、放つ事で、数秒と言う僅かな時間のみ、その聖霊を召喚する事が出来ます!」
「は、はぁ……」
説明されても、イマイチ、凄さの伝わらず、一馬は目を点にしていた。
そんな一馬の様子に、苦笑するキャルは首を傾げ頬を掻く。
「とりあえず、実践して見せますね?」
キャルはそう言い、召喚銃の左側面に付いたダイヤルを回す。すると、手元に半透明のモニターが映し出され、そこに次々と聖霊の映像が映し出される。
「はぁ……聖霊って結構居るんだな……」
関心する一馬だが、状況をすぐに思い出しリューナの方へと視線を向ける。
すでにリューナは肩で息をし、弾かれるメスも徐々にリューナ寄りになっていた。
「ま、まずいですぅ……そろそろぉ……限界ですぅ……」
間延びした語尾の所為で、イマイチ緊迫感が無いが、大分状況は危険な状態だった。
そんなリューナの頭の中に、玄武の声が響く。
(自分に考えがある)
「えっ? 玄武様にですかぁ?」
玄武の声に、リューナがそう答える。
その声に、一馬は尋ねる。
「玄武はなんだって?」
「そ、そのぉ……な、何かぁ、考えがあるみたいですぅ」
リューナがそう言うとほぼ同時に、キャルも声を上げる。
「ありました!」
と。
その声に、一馬がキャルに目を向けた瞬間、今度はリューナが声をあげる。
「シェル!」
と。
刹那、今まで響いていたメスと矢がぶつかり合う音が消え、僅かに地面が揺らぎ、リューナの正面に土の壁が出現する。
それが、ジャックの投げるメスを受け止める。
しかし、
「自らの視界を遮るとは愚策だな!」
と、ジャックは声をあげ、目の前へと出現した土の壁に向かい、走り出した。
直後だ。一発の獣声が轟き、同時に土の壁が消える。そして――
「――ッ!」
壁の向こうから真っ白な肢体に黒の虎柄の縞が描かれた獣が飛び出す。
その瞬間に、ジャックは体を捻るが、その左腕をその獣に食い千切られ、鮮血が迸る。
「くっ!」
「残り、二秒! 駆けてください!」
キャルが声を上げると、それに従う様にジャックの腕を放り、その獣は一直線に老人へと駆けた。
それは、一瞬だった。
一陣の疾風が駆けるかの如くその獣は地を駆け、老人が反応するよりも速くその牙が喉元を抉った。
「うぐあっ……な、ごふっ!」
老人は口から血を噴き、その瞬間、その獣の姿が消滅する。
息を切らせるキャルの手に握られた召喚銃。そのモニターには白虎の姿が映し出されていた。
呆然とする一馬とリューナ。
そして、横たわり血を流すジャック。
その場は静寂に包まれ、喉元を抉られた老人はゆっくりと膝から崩れ落ちた。
完全に老人は絶命し、それと同時に外に居た灰色の白虎は消滅。
「消えた……」
呆然と、雄一は呟く。
同じく塔の入り口に居た鬼も次々に消滅し、
「はぁ……はぁ……終わった……のか?」
と、周鈴は口を開いたままそう口にした。
そして、塔の頂上では、
「やったのか?」
と、一馬は苦しげに呟いた。
そんな一馬の隣で、へたり込むように腰を落としたキャルは、ホッと肩の力を抜くと、ガクリとうな垂れる。
召喚銃を撃ったのはこれが初めてだった。
手は震え、キャルの心臓はまだ鼓動を速めていた。
「だ、大丈夫? キャル」
キャルの様子に気付いた一馬がそう尋ねると、キャルは笑みを浮かべ、
「だ、大丈夫です……」
と、答えた。
キャルの言葉に、一馬は安堵した様子で息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。
「くっ……一時撤退か……」
片腕を失ったジャックは、よろめきながらそう言うと、静かに空間を裂きその中へと姿を消した。
リューナも大分疲れていたのか、流石に追い討ちを掛ける余裕はなかった。
そんな中で、石碑が薄らと輝き、清らかな女性の声が響く。
『我を悪しき力から解き放ってくれた者はだれぞ?』
美しいその声に、一馬のポケットから蒼い光が漏れ、
『白虎。久しぶりだな』
と、青龍はその声に話しかける。
すると、白虎の声は、聊か驚く。
『うむっ? その声は……青龍か? しかし、その口調はどうしたのじゃ? 契約者の影響かのぅ?』
『当然だ。と、言うか、年寄り臭い口調だな。相変わらず……』
『何を言うか。前、契約者の影響を受けてこうなったのじゃ。仕方あるまい!』
白虎がそう怒鳴ると、青龍は呆れた様に笑い、一馬は疲れきった笑みを浮かべた。