第6回 強者の匂いだった!!
現れた鬼の軍勢は雄一一人により、あらかた浄化され、辺りには鬼の残骸が転がり、微粒子の光りが溢れていた。
鬼達は雄一の強さに恐れをなしたのか、いつの間にか逃げ出した者も多く、そこにもう生きている鬼は存在していない。
鬼神の如く活躍を見せた雄一は、紅蓮の剣を鞘へと収めホッと息を吐く。流石に少しは疲れの色が見える雄一だが、紅蓮の剣を肩に担ぎ涼しげな顔で振り返る。
ジト目を向ける雄一は、左手を腰へとあて、一馬の方へと歩き出す。
そんな化物じみた強さを見せ付けた雄一に対し、不快そうな表情を向ける周鈴は鼻から息を吐くと一歩前へと出ると腰に手をあて口を開く。
「おい。強いのは分かるが、単独行動はやめてもらおうか」
不服そうにそう言う周鈴の背を見据え、一馬は苦笑する。
周鈴もどちらかと言えばチームプレイよりも、独断先行型で雄一とは同じ傾向がある為、その事をとがめているのが、少しだけおかしかった。
しかし、雄一はそんな周鈴の言葉を無視し、そのまま周鈴の頭に左手を乗せ横をすり抜ける。
雄一の行動に僅かに表情を引きつらせる周鈴は、その額に青筋を薄らと浮かべた。
だが、それでも、ここは我慢しようと必死に怒りを押し殺す周鈴だったが、その矢先雄一が呟く。
「ガキは引っ込んでろ。邪魔だ」
雄一のその言葉に、流石の周鈴もキレた。
「ふざけんな! テメェ!」
トンファーを取り出し、周鈴は雄一に殴り掛かろうとする。だが、雄一はそんな周鈴の頭を左手で押さえると、その小柄な体を後ろへと力づくで押しのけた。
小柄で軽い周鈴は軽々と後方へと弾かれると、そのまま尻餅を着いた。
「イッ……」
痛みに表情を歪める周鈴へと、雄一は鋭い眼差しを向けると、
「邪魔するなって言ってるだろ。クソガキ」
と、ドスの利いた声で告げた。
流石の周鈴も少々涙目で、唇を噛み締め小さく俯いた。
落ち込む周鈴の姿に一馬は同情するような眼差しを向ける。雄一は子供が嫌いだ。だから、子供の様な容姿の周鈴に対して厳しく当たったのだ。
恐らく、虫の居所が悪かったと言うのも作用し、いつも以上にきつく当たってしまったのだろう。
半分は自分の所為と言う事を分かっている為、一馬は申し訳ないと思った。
そんな一馬の前へとやってきた雄一は、明らかに不機嫌そうな顔で睨みつける。
「で、何の用だ、テメェ」
「いや……も、もう用は済んだけど……」
「はぁっ? まさか、あんな雑魚を片付けさせる為に呼んだのか? 夕菜はアレだけ危険な目にあわせといて!」
ガンをつけると言うのはまさにこの事だろうと言う感じで、雄一は一馬へとそう言い、一馬は視線を逸らす。
目を合わせていると怖くてたまらなかったのだ。
静まり返る一室に、軋む扉の音が聞こえ、大きな音をたて無理矢理閉じられていた扉が崩れ落ちた。
激しく埃が舞い上がり、遅れて複数の警備兵が部屋へと雪崩れ込んだ。
皆、各々が手の平サイズのタッチパネル式のボードを持っていた。それが、何なのか一馬には分からなかったが、こんな所に持ってくるなんて相当依存しているんだなーと考えていた。
きっと、自分の世界でのスマホみたいなモノなのだろう、と一馬は思う。
そんな事を一馬が考えていると、雄一はゾロゾロと入ってきた警備兵へと目を向け、眉間にシワを寄せた。
「んだ? アイツら? 何で、スマホなんて持ち歩いてんだ?」
意味が分からんと言いたげに呟く雄一に、一馬は苦笑する。流石に、スマホではないだろうと思ったのだ。
ゾロゾロと入ってきた警備兵達は、周囲を警戒しながら先程まで居なかった雄一を発見する。そして、声を上げる。
「き、貴様! 何者だ!」
「はぁ?」
警備兵の声に、雄一は明らかにイラッとした表情を浮かべる。
これは危険だと思った一馬は瞬時に両者の間に入った。
「ま、待った! か、彼は俺の知り合いです!」
一馬の言葉に警備兵達は皆、顔を見合わせると、各自怪訝そうな顔をし、首を傾げる。
やがて、先頭に居た若い男が声を上げる。
「お前も誰だ!」
その発言で一馬は思い出す。
自分がこの部屋に警備兵に見つからない様に入った事、まだキャルとオールド以外の人と会っていない事を。
この状況下では、何を言っても嘘に聞こえるだろうし、恐らく言い訳のしようがないだろう。
それでも、頭をフル回転させる一馬は、開かれた扉の方へと顔を向け叫ぶ。
「きゃ、キャル! キャルは――」
「貴様! お嬢様を呼び捨てにするとは何事だ!」
警備兵達が次々と怒りの声をあげ、一馬へと威圧的な眼差しを向ける。
どうやら、地雷を踏んでしまったようだった。
困ったように一馬が頭を掻いていると、先程の声を聞きつけ、キャルが扉の向こうに顔を出す。
「一馬? どうか――て、あなた達! 彼らは敵じゃないですよ!」
何やら今にも襲い掛かって生きそうな警備兵に気付き、キャルが声を上げる。
すると、警備兵達はたちどころにその警戒心を解き、「そうですか」「申し訳ありません」と謝罪の言葉をのべ頭を下げた。
ホッと胸を撫で下ろす一馬は、脱力し天井を見上げた。一時はどうなるかと思ったが、何とか丸く収まりそうだった。
安堵する一馬の下へとトコトコと紅が歩みを進める。何の力にもなれなかった為か、少々落ち込み気味の紅は、小さくため息を吐いた。
「はぁ……すみません。何の役にも立てなくて……」
俯き加減にそう言う紅に、一馬は慌てて声を上げる。
「えっ! あっ、いや、き、気にしないでいいって! うん。俺だって、何もしてないし……殆ど雄一がやった事だから」
紅を励まそうと微笑しながらそう言う一馬だが、その笑みは何処かぎこちない。
そのぎこちなさに、紅は疑念を抱くが、何も聞かずただいつもの様に愛らしく微笑する。
「でも、その雄一さんを呼んだのは一馬さんじゃないですか。やっぱり、凄いですよ」
「ありがとう。まぁ、うん……こう言う状況で頼りになるのは、ああ言う一人で戦況を変えられる奴なんだよ」
一馬はそう言い警備兵と何やらもめている雄一へと目を向けた。
何をもめているのかは分からないが、口論になっているのは確かだった。雄一の怒鳴り声が一馬の所まで届いていた。
「と、とりあえず……止めてくるよ」
「そ、そうですね……」
振り返った一馬が紅にそう言うと、紅も困ったように微笑しそう答えた。
紅の答えを聞いた後に、一馬は駆け足で雄一の方へと向かう。何を怒鳴っているのかは聞き取り難い――と、言うより聞きたくもなかった為、一馬は両手で耳を塞いだ。
警備兵達の顔を見る限り、彼らも被害者のようで、困り顔で互いの顔をチラチラと窺っていた。
どうやら、口論と言うよりも、雄一の方が一方的に怒鳴っているようだった。
相当ストレス――いや、一馬に対する不満が溜まっているのだろう。ほぼ、八つ当たりだ。
とりあえず、これ以上人様に迷惑を掛けさせるわけには行かないと、一馬は雄一の肩を掴み警備兵達の間へと割って入った。
「やめろ! 雄一」
「うっせぇ!」
肩を掴まれた雄一は、振り返ると同時に一馬の顔を殴りつけた。
「あぁー……とりあえず、すまん」
ようやく、気持ちが晴れたのか、落ち着いたのかは定かではないが、雄一は静かにそう頭を下げた。
鼻に綿を詰める一馬は、ジト目を向けつつも、右手を軽く挙げ、
「いや、いいよ。うん。俺が悪かった。ホント、うん……」
と、棒読みで答えた。
一馬は雄一に殴られた。それはもう酷い有様だった。頬は張れ、鼻からは血が流れ、意識は失われ――現在に至る。
意識を失っていた時間はほんの僅かな時間だった。四、五分ほどだ。
その為、大きく状況が変ったと言う事は無く、警備兵達は慌ただしく町へと出て行った。あの鬼を撃退する為に。
オールドも傷の手当てを済ませ、指揮をとるべく町へと出て行ったらしく、キャルは不安そうな顔で穴の空いた壁を見据えていた。
鼻の根元を摘む一馬は、腫れた頬を濡れタオルで冷やしていた。
「だ、大丈夫……ですか?」
心配そうに尋ねる紅へと、一馬は痛々しく笑う。
「ああ。大丈夫。うん。大丈夫」
ぎこちなく同じ事を何度も言う一馬に、紅は一層心配になる。脳に障害が出たんじゃないか、そう思ったのだ。
まぁ、実際にそんな事は無く、一馬はただただ痛みに耐えていただけだった。
そんな一馬は不意にある事に気付く。
「アレ? リューナは?」
一馬は辺りを見回し、リューナの姿を捜す。
メイド服と言う特殊な服装をしている為、すぐに見つかりそうなものだが、全く見当たらなかった。
「ホントですね。何処に行ったんでしょう?」
これまた、この世界では珍しい巫女装束姿の紅が、右手を頬にあて首を傾げる。
悩ましく「うーん」と声を漏らす紅に、一馬は苦笑していた。
と、そこに、またまたこの世界では珍しい拳法着姿の周鈴が、不服そうに頬を膨らし目元を僅かに赤く染め一馬を睨む。
「な、何?」
苦笑しながら一馬が尋ねると、
「アイツ、嫌いだ」
と、周鈴はプクッと子供の様に頬を膨らせる。
アイツと言うのが、雄一を指しているのは明白だった。まぁ、アレだけの事をやられれば、嫌いにもなるのも、分かる気がする。
一馬もアレがもし初対面だったなら、恐らく嫌いになっているだろう。
紅蓮の剣を肩に担ぐ雄一は、穴の空いた壁から外を眺めていた。外では、鬼の軍勢と警備兵が戦闘を繰り広げていた。
鬼は大した能力ではないのか、それともここの警備兵が有能なのか、鬼達は次々と消滅していく。
使っている武器はいたってシンプルな剣や槍、ハンドガンなどに見える。これ程まで科学が進歩しているこの世界では、どうにも原始的な武器の数々だった。
崩れかけの壁に右足を乗せ外を眺める雄一は、不満そうに目を細める。
どれもこれも鬱憤を晴らすには弱過ぎる相手だと、考え深々とため息を吐く。正直、弱いものを幾ら倒した所で、ウサ晴らしにもならない。
雄一としては強敵と当たりたい。もっともっと血が騒ぐそんな奴と戦いたいと思っていた。
そんな雄一とは裏腹に、一馬は今の状況に少々不安を抱いていた。今までの経験上、圧倒的な力を持った相手が現れてもおかしくないと、考えていたからだ。
火の国では鬼姫、水の都ではヴァンパイアのジル、土の山では二体の鬼人が存在していた。
それらの事を考えても、そろそろ出てきてもおかしくない。もしかすると、この部屋から逃げたあの影が――。
一人、険しい表情で考え込んでいた。
外では、警備兵と鬼の軍勢が戦っていた。
そして、それを高い塔の上から眺める一つの影。脇に白虎の石碑を抱えるその影は、ボサボサの長く伸びきった黒髪を揺らした。
警備兵と鬼の戦いを見据えるその影は、ギョロリと大きな血走った目を動かす。
「……」
激しく瞳が動き、周囲の状況を正確に把握していく。
現在の鬼の戦力と、警備兵の戦力を確認する影は、大きく裂けた口の口角を上げ笑う。
「クケッ……クケケケッ……血……血……人ノ……血……」
不気味な声を挙げるその影は不意に顔を上げる。
すると、遠くの崖と一体となった建物の屋上で、何かが煌いた。
それと同時に、一本の矢が男の頬を掠める。濁った鮮血がはね、床に血痕が飛び散った。
頭を右へ傾ける男は、静かにそれを戻す。矢が当たる直前に、首を傾けたのだ。
目を凝らす男は、視線の先、はるか遠くの方に小さな人影を捉える。
「テ……キ?」
疑念を抱く男は小さく首を傾げた。
そんな男の視線の先。崖と一体となった建物の屋上に佇むのは一人の少女。
長いパラソル型のスカートを揺らし、フリルの付いたエプロンをまとう少女は、手にしていた大型ボーガンを持ち上げ、穏やかな笑みを浮かべる。
「あらあら……かわされてしまいましたぁ」
語尾が間延びしたなんとも特徴的な喋り方の少女は、福与かな胸を揺らし深く息を吐いた。
「ふぅーん……どうにも、一筋縄では行きそうもないですねぇ……」
幼顔の少女は、困った様に眉を曲げ、左手を頬へと添えていた。
その頃、建物内部に未だ残っていた一馬達の下にオールドが戻ってきていた。
一馬がさっきあった事を詳しく知りたいと言った為、キャルが呼び戻したのだ。
部屋の隅ではつまらなそうに雄一が座り込み頭の後ろで手を組み天井を見上げており、周鈴はそんな雄一を睨み、紅は相変わらず一馬の傍で話を聞いていた。
「あの時、部屋に入ると、一人の男が居ました。長い髪はボサボサで、とてもだらしの無い風貌で……とにかく、腕は長く、その手にはメス、の様な刃物を持っていました」
「メス……て、あの手術とかで使う?」
「うん。でも、いまどきメスなんて手術で使ったりしないよね?」
一馬の問いかけに対し、一旦は頷いたキャルが苦笑混じりにそう答えた。
その答えに、一馬は目を丸くする。メスも無しでどうやって手術をするんだろうか、と思ったのだ。
しかし、気にはなったが、今はそんな事はどうでも良いと、すぐに頭を左右に振った。
一馬のその行動にオールドは聊か驚き、何をしているんだ? と、不思議そうな目を向ける。
一方で、キャルも、一馬の意味不明なその行動に首を傾げていた。
そんな事とは知らず、一馬は微笑すると話を進める。
「それで、彼はどうしてここに?」
一馬の問いに対し、腕を組む周鈴が訝しげな表情を向けた。
「どうしてって、お前が僕に説明したんじゃないか? 白虎の石碑を盗みに来たと?」
「いや、そうじゃなくて、どうしてあの部屋で待ってたのかって事だよ。白虎の石碑を盗むだけなら、俺達が来る前に逃げれば済む話なのに」
「確かに、そうですね。どうしてなんでしょう?」
一馬の言葉に賛同する紅が首を傾げ、ふぅんと、艶かしく息を吐いた。
何か目的があってこの場に留まっていたはずなのだが、その答えが全く持って分からなかった。
だが、直接対峙したオールドだけは、少々心当たりがあった。
その為、左手を顎えと添え眉間へとシワを寄せる。そんなオールドの変化にいち早く気付いたのはやはりキャルだった。
「どうかした? オールド」
「えっ? いや……はい。実は――」
「おいおいおい。どうやら、本命が来たらしいぞ!」
オールドが語る前に、穴の空いた壁から外を眺めていた雄一が、薄らと笑みを浮かべながらそう言い放つ。
その言葉に、一馬は表情を曇らせ、オールドは眉間にシワを寄せる。
やはり来たかと思う一馬は、深く息を吐くと胸元で拳を握った。
(一馬。気をつけろ)
頭の中に響く朱雀の声。
(どうやら、相当の力を持っている者らしいな)
今度は青龍の声。
(彼は随分と嗅覚が優れているようですな。あの雄一と言う少年は……)
最後に玄武がそう言った。
確かに、雄一はそう言う嗅覚が優れている時がある。どんな状況でも、誰が一番強いのかを判断し、その者を必ず一番最初に倒す。
そうして、多勢と戦ってきたのだ。
嬉しそうな笑みを浮かべる雄一は、壁の穴から外へと飛び出した。
それに遅れて、オールドが外へと飛び出し、周鈴も後へと続いた。
一馬はチラリと紅を見た。危険な目にはあわせたくないが、きっと言っても聞かないだろうと、思ったのだ。
一馬の眼差しに気付いた紅は訝しげに眉をひそめ、首を傾げた。
「あ、あの……ど、どうかしたんですか?」
思わずそう尋ねる紅に、一馬はすぐに首を振った。
「ううん。なんでもない。じゃあ、俺達も行こうか」
一馬がそう言うと、紅は嬉しそうに笑みを浮かべ、
「はい!」
と、明るく声を張った。
外には未だ、鬼の軍勢が押し寄せ、警備兵との戦闘が激化していた。
そんな中、一人佇む圧倒的な気配を放つ一人の男。
右脇に大事そうに白虎の石碑を抱え、長く細い左腕をブラブラと揺らすその男は、ボサボサの黒髪を右へ左へと揺らすように頭をふらつかせていた。
そんな男の前へと最初に飛び出したのは雄一だった。両者共に惹かれるものがあったのだろう。
互いの姿を目視すると、瞬間的に構える。
雄一は携えていた紅蓮の剣を、男は手の平サイズのメスを。
お互い同じ匂いを感じた。強者を求めるそんな匂いを。
鞘に納まったままの紅蓮の剣を、腰の位置に構える雄一は、口元に薄らと笑みを浮かべながらも額から静かに汗を流す。
対峙して改めて男の異様さと強さをヒシヒシと肌に感じた。
遅れてその場に辿り着いたオールドと周鈴は、その二人の姿に息を呑む。
とてもじゃないが、割って入れる様な空気ではなかった。
そんな時だった。突然、男の後ろで空間の歪が生まれ、三人の視線はその歪へと向けられる。
すると、歪の奥から一人の老人が姿を見せた。
右手で大きな木製の杖をつき、蓄えた白いヒゲがユラリと揺れる。
威厳のあるその風貌は、妙に雰囲気があり、オールドと周鈴は思わず足を退いた。
しかし、雄一だけは平然とした様子で、その老人を見据えていた。
「フォッフォッフォッ。首尾は上々ですなぁ」
しゃがれたその声に、男は脇に抱えていた白虎の石碑を手に取った。
「コレ……俺ニハ、不要……」
「おやおや。コレの価値を知らぬとは……」
驚き、呆れる老人は首を左右に振り、静かに男の手から白虎の石碑を受け取った。
「待て! それをどうする気だ!」
白虎の石碑を受け取った老人に対し、オールドが一歩前へと踏み出し声を上げる。
オールドの声に、老人はシワクチャの顔を向けた。穏やかな細い糸目だった老人の目が静かに開き、切れ長の眼差しの奥に輝く赤い瞳がオールドを捉える。
「おやおや。どうする気とな? それは、決まっておろう」
老人のその言葉に、オールドは寒気を感じた。
(ま、まさか、そんなはずは……)
そう考えるオールドに、老人は白虎の石碑を後ろ手に握り、背を丸める。
そして、穏やかな口調で告げる。
「この石碑があれば、呼べるでは無いか。あの伝説の四獣の一体。白虎が」
「くっ!」
険しい表情を浮かべるオールドが、拳を握り締める。
オールドの考えていたまさかの事態だった。
オールドの険しい表情に、老人は「フォッフォッフォッ」と笑うと、鋭い眼差しを向ける。
「ではでは。私は召喚の準備があるので――」
「くっ! そんな事、させるわけ無いだろ!」
何処から取り出したのか、オールドは右手に持った剣を構え、老人の方へと駆け出す。
だが、雄一の横を通り過ぎようとしたその瞬間、オールドの顔を紅蓮の剣の鞘が殴打した。