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第8回 非情になれ!! 圧倒的な褐色白髪の鬼人だった!!

 轟音が響き渡り、地面が砕ける。激しい土煙と砕石が舞い上がり、衝撃が地上を走った。

 大きく陥没した地面には無数の亀裂が走り、その中心に一体の鬼人。褐色の肌に白髪を揺らすその鬼人は、地面に突き立てた右拳をゆっくりと持ち上げる。

 拳に付着していた細かな土がパラパラと地上へと降り注いだ。

 異質な空気を漂わせるその鬼人に、地面に片膝を着く周鈴は表情を険しくし、呆然と立ち尽くす一馬は、目を見開き奥歯を噛み締める。

 圧倒的だった。

 鬼人達の前へと出たあの褐色白髪の鬼人は、一歩目で一番近くに居た柚葉へと間合いを詰め左手の甲で腹部を殴りつけ、二歩目で一番後ろに居たフェリアの正面へ移動し腹部への前蹴り、三歩目で跳躍し周鈴を殴りつけようと空から拳を落とした。

 音も無くただ風だけを吹かせ移動したその鬼人の動きに、周鈴が反応出来たのはたまたまだ。

 柚葉が殴れた打撃音とフェリアが蹴られた衝撃音が聞こえ、そこに視線を向けようと体を僅かに横に動かしたその直後、目の前を拳が通り過ぎ、その風圧で後方へと弾かれたのだ。

 呼吸を乱す周鈴は膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。圧倒的な力を見せ付けられながらも、この褐色白髪の鬼人をどうにかしなければならないと、自らに言い聞かせて。

 殴られた柚葉は横並びに建つ家の土壁を幾つも突き破り、蹴り飛ばされたフェリアは地面を何度も跳ねていった。

 その為、今、ここに残っているのは周鈴と戦力にならない一馬の二人だけ。

 故に周鈴は厳しい表情で、褐色白髪の鬼人を見据える。



「うっ……ううっ……」


 大木の根元に背を預け腰を落とす柚葉は、震える瞼をゆっくりと開く。

 幾つもの土壁を突き破った後、この大木の幹に背をぶつけようやく勢いを殺した。

 激しく背中を打ちつけたため、意識がモウロウとする。そんな揺らぐ視界に松明の明かりが僅かに入り込んだ。

 まだ生きているのだと、柚葉は安堵した様に深く長く息を吐き出し、胸を撫で下ろす。そして、ゆっくりと後頭部を木の幹へと預け空を見上げた。

 真っ黒な分厚い雲に覆われた空を見上げ、柚葉は瞼を閉じる。

 あの鬼人の拳を受ける際、柚葉は脇差を体の前へと出し拳を受け止めた。受け止めたが、鬼人の拳はその刃を砕き、破片を舞わせ柚葉の体を強打したのだ。

 その為、柚葉の腹部には折れた脇差の破片が幾つが刺さり、真っ白な胴着を赤く染めていた。

 刃の砕けた脇差から右手を離し、柚葉は腹部に刺さった刃の破片を力いっぱいに引き抜く。


「ぐっ! あぁっ!」


 思わず声を漏らし、大きく開いた口から荒々しい呼吸を漏らす。

 血はあふれ出し、胴着は一気に真っ赤に染まる。それでも、柚葉は次々と破片を取り除いていった。

 激痛が何度も体を襲い、全ての破片を取り除いた柚葉は、脱力し死んだように瞼を閉じ胸を僅かに上下に揺らしていた。


「くっ……そ……。こんな……とこ……ろ……死……ぬ……のか……」


 気が遠退き、全身の力が抜ける。

 血が失われていくのが分かり、体から体温が失われていくのが分かる。

 思考が徐々に働かなくなり、薄らと開いた瞼が、力なく塞がって行き、柚葉の視界は闇に包まれた。



 褐色白髪の鬼人に蹴り飛ばされたフェリアは、抉れた地面に僅かに身をうずめていた。

 意識は薄らとあった。ただ、動く事が出来ず空をボンヤリと見据える。

 蹴られる瞬間、フェリアは水の防壁を自身の前に作り出した。作り出したが、元々打撃を押さえ込む術ではない為、鬼人の蹴りの威力を僅かに半減させただけに過ぎなかった。

 アバラが数本折れたのか、動こうとすると骨が軋み激痛がフェリアの体を襲う。

 初めて蹴りをくらい、初めてこんなにも激しい痛みを身に受けた。

 そして、何より初めて口の中に血の味――鉄の味が一杯に広がっていた。

 お嬢様として育ったフェリアにとって、それは悔しくて、初めて知る圧倒的力への敗北だった。

 魔術が使えれば、どんな相手にも勝てる。そう考えていたフェリアの目から涙がこぼれる。

 体の痛みからではない。心の痛み――自分の魔術など圧倒的力の前では無意味だと見せ付けられた事から溢れ出た涙だった。

 痛みに奥歯を噛み締め、右腕を目の上へと乗せる。土で汚れた袖が涙で濡れ、握り締めた拳は小刻みに震えていた。



 呆然と立ち尽くしていた一馬は唐突に我に返る。

 そして、目の前で対峙する周鈴と褐色白髪の鬼人を真っ直ぐに見据えた。

 表情を険しくする周鈴に対し、その鬼人は白い歯を見せ不気味に笑う。

 その鬼人が戦いを楽しんでいるように一馬の目には映った。

 恐怖から両膝が震え、一馬の心臓は激しく鼓動を打つ。心拍数が速まり、呼吸は乱れる。

 それでも、一馬は「冷静になれ」と自分に言い聞かせ、瞼を閉じ深呼吸を繰り返す。二度、三度と。

 深呼吸を繰り返した一馬は、静かに閉じた瞼を開いた。すでに心はは落ち着きを取り戻し、その眼差しは真剣なものへと変っていた。

 すぐに思考を張り巡らせ、一馬は辺りを見回す。


(考えろ……考えろ! 何かあるはずだ。この状況を打開する方法が――)


 思考をフル回転させ、一馬は考える。

 思いつくだけの案を次々と自分へと提案する。


 雄一を呼び出す――すでに夕菜を呼び出している為、不可。

 朱雀を呼び出す――この鬼人がヴァンパイア、ジルと同等ならば、信仰の無いこの地で本領を発揮できない為、不可。

 青龍を呼び出す――朱雀と同じく、不可。

 自分の身を省みず突っ込んでみる――出来ない事も無いが、突っ込んだ所で状況は何も変らず、即死する事が目に見えてるから、不可。

 いっそ、逃げ出す――この状況で逃げ出したら男として、いや、人として最低だから、不可。

 柚葉とフェリアを助けに行く――助けに行ってどうする。女の子に戦わせて自分は見てるだけなのか、と、言うわけで不可。


 と、次々と案を出しては全て却下していく。

 そして、導き出した答えは――結局、今、一馬に出来る事は何も無い、だった。

 所詮、一馬には戦う術など無く、ただ召喚し召喚した者が戦っている所を見守る事だけ。

 一馬がここに来てやった事は、ただフェリアと柚葉に傷を負わせ、夕菜を危険な目にあわせた。

 そう考えると、本当に自分は疫病神なんじゃないか、自分の事ばかり考える最低の人間だと、思い心がズキズキと痛んだ。

 その痛みから右手で胸を押さえ、一馬は瞼を閉じる。苦痛に眉間にシワを寄せ、噛み締めた奥歯がギリギリと音を立てた。

 そんな時、胸ポケットで召喚札が赤い輝きを放ち、朱雀の凛とした声が響く。


『主よ! 今すぐ我を召喚せよ!』

「でも、ここじゃ朱雀は……」

『冷静になれ。今、主がすべき事は、我らを案ずることじゃない。皆を守る事だ。そして、考える事だ。お前なら、出来るはずだ。玄武を目覚めさせる事も、この状況を打破する術も!』


 力強い朱雀の言葉に、一馬は唇を噛み締める。

 考えたって、答えなど出ない。今、それを痛感した所だった。色々考えた。考えた結果が、今の一馬には何も出来ない、と言う答え。そんな一馬にこの状況を打破する術など、思いつくわけがなかった。

 拳を震わせ、一馬はただ沈黙する。また、犠牲者を増やすのか、その思いが朱雀を召喚する事を躊躇わせていた。

 一馬が朱雀の召喚に戸惑っているその最中、また爆音が轟き、衝撃が土煙を巻き上げ広がった。


「ぐっ!」


 土煙と共に地面を転げる周鈴は、額から流れた血で灰色の髪を赤く染めていた。

 そして、彼女の視線の先には、あの異形の鬼人が片膝を着いていた。

 大きく円形に窪んだひび割れた地面の中心に左拳を突き立てたその鬼人は、ゆっくりとその腕を持ち上げ、その拳から赤い液体が零れ落ちた。


「はぁ……はぁ……」


 額から流れる血を拭う周鈴は、


(くっそっ……掠ったか……)


と、表情を歪めた。

 鬼人の拳から滴れた赤い液体は周鈴の血だった。その証拠に鬼人の拳には外傷など無い。

 不適な笑みを浮かべ、肩を揺らす褐色白髪の鬼人の姿に、周鈴は眉をひそめる。

 そして、一馬も、思わず足を退いた。


『一馬!』


 朱雀が怒鳴る。

 しかし、一馬は拳を握り締めたまま、動かない。

 まだ迷っていた。朱雀を召喚すべきかどうか。

 聖霊である朱雀はそう簡単には死なない存在だ。だが、それでも、傷を負えば痛いし、回復するまで多少なりに時間は掛かる。

 そう考えたからこそ、一馬は召喚する事に躊躇っていたのだ。


『一馬! お前はもっと非情になれ。我ら聖霊に情けをかけてどうするんだ!』


 朱雀の言葉に一馬は俯く。

 聖霊だって、生きている。だからこそ、使い捨ての駒の様に扱いたくなかった。

 そんな折、轟く。


“グオオオオオッ”


と、褐色白髪の鬼人の雄叫び。

 大地が僅かに揺れ、一馬の視線は自然とその鬼人へと向いた。


「ぐっ……がぁ、がぁ、うるせぇーな!」


 地面に膝を落としていた周鈴はそう言い立ち上がる。だが、その瞬間、視界が眩み、地面へと崩れ落ちた。

 先程、鬼人の拳が頭を掠めた影響を受けていた。

 目を細め、苦しそうに呼吸を繰り返す周鈴は、静かに顔を上げる。

 そんな周鈴へと、雄叫びを上げた鬼人が跳躍した。


『一馬!』

「くっ!」


 朱雀の声に一馬は覚悟を決め、胸ポケットから召喚札を取り出した。


「我が呼び声に応えよ。悪しき闇を払い、全てを照らせ! 燃え盛る火の鳥! 朱雀!」


 声高らかにそう叫んだ一馬は、握り締めた召喚札を空へと投げた。

 直後、召喚札は燃え上がり、空へと紅蓮の炎が弾け、衝撃が広がる。

 その衝撃により、跳躍した鬼人が弾き飛ばされ、地面を転げた。

 闇を照らす様に空より眩き光が降り注ぐ。紅蓮の翼を大きく広げる朱雀が、その翼から神々しく火の粉を散らせていた。

 しかし、その火の粉を浴びても木々は燃える事はなかった。

 大きな翼をはためかせ、三本の尾を揺らす朱雀は鋭い金色のクチバシを開くと、


“キュピィィィィィィッ!”


と、甲高い声を上げた。

 その声は、山々へとこだまし、木々を激しく揺らす。

 地上を吹き抜ける突風が、土煙を巻き上げ、降り注ぐ火の粉は次々と鬼人を焼き尽くす。

 褐色白髪の鬼人も例外ではなく、火の粉を浴び、体から白煙を噴きあがらせていた。


「うがああああっ!」


 悲鳴の様に雄叫びを上げる褐色白髪の鬼人は、その赤い目を空に舞う朱雀へと向け、鋭い牙をむき出しにし、身を屈めた。

 その瞬間に朱雀は一馬へと叫ぶ。


『主! 今の内にその娘を連れ、退け!』


 朱雀の声に、一馬は走り出す。

 そして、倒れる周鈴の体を抱える。

 だが、その瞬間、周鈴が暴れ出す。


「ふざけるな! 僕は逃げない!」


 足と腕をバタつかせるが、力は無くすぐに周鈴の体力が尽きる。

 やはり、頭を掠めた一撃は相当、周鈴にダメージを与えているようだった。

 その為、一馬は唇を噛み締め、


「ごめん……朱雀」


と、謝り走り出した。

 直後、衝撃音が轟き、突風が一馬の背中を押す。

 何が起こったのかは分からない。だが、一馬は足を止めず、ひたすら走り続ける。

 朱雀が時間を稼ぐ為に召喚された事を考えると、それを無下にするわけにはいかないと、一馬は唇を噛み締め走り続けた。

 何処まで走ればいい、何処に行けばいい、と必死に考え、考えた結果、まずフェリアと柚葉の安否を確認するのが先決だと、結論に至る。



 褐色白髪の鬼人の一撃を受け、朱雀の体は大きく仰け反る。

 だが、朱雀を殴った褐色白髪の鬼人も激しく地面へと叩きつけられ、地面が大きく陥没する。

 鬼人の体はひび割れた地面へと減り込み、朱雀を殴りつけた右拳は白煙を噴かせ皮膚が崩れ落ちた。

 朱雀が身にまとう浄化の炎が、鬼人の体を僅かに浄化させたのだ。


「ぐぅぅぅぅっ……」


 僅かに喉を鳴らす褐色白髪の鬼人は、筋骨隆々の腕を地面から抜くとゆっくりと体を起こした。

 体の表面が僅かに燃え、薄らと赤い炎が走る。

 しかし、すぐにその炎は消え去り、褐色白髪の鬼人は首を振り、その骨を鳴らした。

 空中で体勢を整える朱雀は、両翼を大きく一度羽ばたかせ、更に高く上昇する。

 まさか、あの鬼人が自分の所まで跳躍してくるとは思っていなかった。

 その為、少々、反応が遅れたが、それでもクチバシで鬼人の拳を迎撃する事が出来た。


(しかし……なんと言う力……。信仰が無く、本領が発揮されないとは言え、この巨体を弾くとは……)


 と、朱雀は驚きを隠せない。

 純粋な力だけならば、ヴァンパイアのジルや鬼姫など比較にならない程だろう。

 だが、それだけだ。力があったとしても、この鬼人には知能が圧倒的に足りない。

 火の国に出る鬼、剛鬼を凝縮したに過ぎない。凝縮した為、体が縮み俊敏性が増しているが、それでも、この程度の鬼を相手にするならば、幾らでも対処のしようがあった。

 しかし、そこで褐色白髪の鬼人は、朱雀の予想だにしない行動へと移る。

 それは、まだ燃えきらない、朱雀の撒き散らす火の粉を浴びていない鬼人――自らの仲間であるはずのその存在へと、襲いかかったのだ。


『なっ! 何を――』


 驚く朱雀の目の前で、褐色白髪の鬼人は、他の鬼人の喉元へと牙を突き立て、その肉を喰らう。

 異様な光景だった。鬼が鬼を喰らう。

 何が起きているのか、何をしようとしているのか、朱雀にはさっぱり分らず、ただその光景を眺めていた。


(何だ……コイツは……)


 朱雀は絶句する。そんな中で、褐色白髪の鬼人は鬼人の肉を銜えたまま顔をあげ、それを噛み砕く。

 口の周りは血で赤く染まり、顎からは血が滴れ落ちる。肉と共に骨をも噛み砕くその音が、不気味に響き渡った。

 不快そうな表情を浮かべる朱雀に、褐色白髪の鬼人は赤い瞳を向けた。

 そして、口角を大きく持ち上げ、不気味な笑みを浮かべ、むき出しの牙の間に血を伸ばし、ケタケタと笑い出す。

 と、その時、突如、褐色白髪の鬼人の体に異変が起こる。

 皮膚が膨れ上がり、筋肉が膨張していく。隆起する腕に太い青い血管が浮き上がり、次は顔半分も大きく膨れ上がる。

 何が起きてるのか、と朱雀は目を見張った。

 みるみる姿形を変えていく褐色白髪の鬼人は、隆起した腕を振り上げやがて野太い雄たけびを発する。


「グオオオオオオッ!」


 張り詰めた大気を揺るがすその声に、朱雀は表情を険しくする。

 直後、褐色白髪の鬼人は膨らんだ脚を屈めると、力強く地を蹴った。爆音が轟き、地面が砕け散る。地面は大きく陥没し、土煙と微量の砕石が舞い上がった。

 そして、跳躍した褐色白髪の鬼人は、悠々と朱雀を跳び越え、朱雀を上空から見下ろす。


『なっ! くっ!』


 自分よりも高い位置にいる褐色白髪の鬼人を見上げ、朱雀は表情を強張らせる。

 一体、どれ程の跳躍力――いや、脚力を持っているんだ、と。

 もちろん、翼など持たず、飛行能力も恐らく無いであろう褐色白髪の鬼人は、次第に重力に引かれ落ち始める。

 だが、これこそ、その鬼人の目的だった。

 褐色白髪の鬼人は、体の向きを変えると、拳を突き出し一直線に朱雀の背中目掛けて急降下したのだ。

 空を自由に舞う朱雀にとって、空を飛べぬ相手に上空から攻撃される経験など無く、回避行動が遅れる。

 いや、この巨体だ。回避しようが、確実に褐色白髪の鬼人の攻撃は直撃する事は間違いなかった。

 その為、被害を最小限に抑えようと、朱雀は体を右へを傾け、左の翼を急降下する褐色白髪の鬼人へ向かって一振りする。

 振り抜かれた朱雀の翼と、急降下する褐色白髪の鬼人が衝突する。

 鈍い轟音が衝撃共に広がり、朱雀の体が地上へと叩きつけられた。朱雀の巨体が地上へと落ちた事により、地面が砕け突風が土煙を巻き上げ地上を駆け巡る。

 一方、褐色白髪の鬼人も、朱雀の一撃を受け弾き飛ばされ、激しく地面へと落下した。

 二つの爆音が轟き、激しい土煙が舞う。一つは大きく上空へ向かい舞い上がり、一つは線を引くように横に伸びる様に舞った。


『ぐっ……』


 まさかの一撃によって地上に平伏す朱雀は、折れた左翼を震わせ、ゆっくりと体を起こした。

 凄まじい衝撃だったが、それ以上にあの褐色白髪の鬼人の腕力に驚きを隠せなかった。

 朱雀の左翼が折れたのは、鬼人が急降下しぶつかったからではない。ぶつかった直後に、あの鬼人が両手で翼を掴みへし折ったのだ。

 一瞬の後に――。

 こんな痛みを味わうのは久しぶりだった。その為、朱雀は大きくクチバシを開き、静かに笑う。


『よもや、この様な無様な姿を晒す事になるとは……。我も、老いたか……。いや……これが、実力か……』


 自嘲気味の朱雀へと、静かな足音が近づく。

 怪我をしているのか、足を引きずるようなそんな足音だった。

 そして、朱雀は即座にその足音の主が、先程の褐色白髪の鬼人だと気付き、体をゆっくりと音のするほうへと向けた。


「うぐぅぅぅぅっ……」


 喉を鳴らす音が聞こえ、揺らぐ松明の明かりに照らされる褐色白髪の鬼人。

 隆起する右腕が曲がってはいけない方へと折れ曲がり、左足は力なく地面を引き摺っていた。筋肉質なその体には鋭い砕石が突き刺さり、血が溢れている。

 それでも、平然とする褐色白髪の鬼人に、朱雀はやはり険しい表情を向けた。

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