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第4回 衝撃の事実!? 周鈴の年齢!! だった!!

「お待たせいたしましたのっ。ローズティーですのよ」


 満面の笑みを浮かべるフェリアが、銀のトレイに乗せたティーカップを柚葉と周鈴の前に置いた。

 可愛らしくフリルの付いたエプロンをし、頭にはメイド用のカチューシャまでしたフェリアが、淡い青のスカートを揺らし靴の踵をカツカツと二度鳴らした。

 それは、一馬に対する合図だった。

 その為、一馬は非常に複雑そうな表情で席を立つ。


「ちょ、ちょっとごめん」


 一馬は柚葉と周鈴にそう告げ、そそくさとフェリアの居るキッチンの方へと足を進めた。

 足取りが重く、一馬は小さく吐息を漏らす。

 その瞬間、フェリアは一馬の腕を掴み、キッチンへと引きずり込んだ。

 そして、そのまま壁へと押し付けられ、フェリアはあからさまな作り笑顔で尋ねる。


「どう言う事なんですの? お茶請けとティーセットを持ってコチラに来て欲しいって言うので、来てみれば……あのお二方はなんなんですの! しかも、あなたの世界に呼び出されるのかと思ってみれば、ここはどこですの!」


 声を殺しそう怒鳴るフェリアに、一馬は苦笑する。

 何となく、こうなる気はしていた。

 その為、一馬はどうするかを考えていた。考えていたが、結局良い案が浮かばず、一馬はただただ苦笑し続けた。

 もちろん、そんな事ではフェリアは誤魔化されず、


「何をヘラヘラしていますの! ちゃんと説明してくださいませ!」

「いや、そ、その……俺もこの世界の事はよく分からなくて……」

「はい? あなたは、何処かもよく分からない所にワタクシを呼んだって言うわけですの!」


 厳しい口調のフェリアに一馬は思わず視線を逸らした。

 そして、後悔する。フェリアを呼ぶんじゃなかった、と。


 数分後、何とかフェリアを説得し落ち着かせ、四人は席に着いていた。

 初めて見るティーカップと紅茶に周鈴と柚葉は中々手をつけない。

 色合いも香りも良いが、本当に飲み物なのかと言う疑いがあるのだ。

 考えてみれば、柚葉の住む火の国ではお茶と言えば渋いもの。

 紅茶の様な甘味のあるお茶は初めて目にするのだろう。

 この世界の事は詳しく分からないが、先程出された濁った得体の知れない液体を見る限り、紅茶と言う飲み物は存在しない。

 その為、二人は警戒しているのだ。

 一馬の左斜め前に座るフェリアはそんな二人を尻目に、ティーカップを持ち上げ紅茶を啜った。

 流石に飲みなれているだけあり、とても様になるフェリアのその風貌に、周鈴と柚葉は目を細める。

 しかし、意を決し、二人はほぼ同時にティーカップを持ち上げ、紅茶を口へと運んだ。

 口に広がる甘い香りに二人は目を白黒させ、やがて呟く。


「美味しい」


と。

 二人の声に安堵する一馬は肩を落とすと、小さく吐息を漏らした。

 場の空気が落ち着き、ようやく、周鈴は話し始める。この世界について。



 ここは、土の山、玄武岳。

 正確には黄土の山と呼ばれている。

 元々、この地に山などなかった。

 何処からか風に乗り運ばれてきた黄土が積もり、山となったのだ。

 その際、この地に祭っていた玄武の台座がその土に埋もれ、この山は玄武岳と呼ばれる様になった。

 そして、今、この場所は“神に嫌われた大地”と呼ばれている。

 黄土が吹くようになった頃から、徐々に奪われていったのだ。

 大地を照らす天然の光、太陽を。

 侵食する様に徐々に広がった暗雲は、今では完全に空を覆いつくし、一切陽の光が差す事はなかった。

 元々、玄武により守られていたこの地は、自然豊かで作物も豊富に育つ地だった。

 だが、空が分厚い暗雲に覆われる様になり、自然も作物も次第に失われていった。

 そんな中で、この土の山、玄武岳だけは今も尚自然が残り、作物も豊富に育つ。

 故に、この土地の全ての人がここ玄武岳に集落を作り生活をしているのだと言う。

 何故、この山だけ作物が育つのかは分かっていないが、周鈴達は玄武の力が強く作用しているのだと信じいているのだ。


 話を黙って聞いていた一馬は腕を組み小さく何度も頷く。

 フェリアも柚葉もただ黙って話を聞いていた。

 だが、この中で、静かな声が響く。


『確かに、それは玄武の力の影響だろうな』


と、朱雀の声が。

 一馬の胸ポケットで赤く発光する召喚札に周鈴は訝しげな眼差しを向ける。


「な、何だ……お前は? 何を飼ってるんだ?」


 驚きの声を上げる周鈴に、柚葉は少々不快そうな表情を浮かべる。

 当然だろう。

 自分の国を守る守護聖霊である朱雀を飼っているなどといわれて良い気分になるわけがなかった。

 その柚葉の放つ不快なオーラを隣りに座る一馬はヒシヒシと感じ、苦笑し胸ポケットから召喚札を取り出す。


「え、えっと……守護聖霊の朱雀。俺が契約している聖霊……で、良いのかな?」

『ああ。構わん。それで』

「だ、そうです……」


 自信なさ気に一馬がそう言うと、柚葉は不満そうに腕を組んだ。


「だ、そうですじゃないだろ? もっと自信を持って言えないのか? お前は朱雀様に選ばれた召喚士だろうが?」

「えっ……うーん……。そう……なのかな?」


 眉を八の字に曲げながら一馬はそう呟いた。

 正直、一馬には実感がなかった。確かに朱雀と青龍と契約を結んでいるが、どちらも自分が選ばれたと言うよりも、成り行き上契約する事になった、と言う認識が強かった。

 そもそも、一馬は自分は何処にでもいる普通の人間だと思っている為、今でも時々不思議になる。何故、朱雀は姿を現したのか、何故、契約出来たのか、と。

 そんな疑問を持っているからこそ、一馬には実感も自信もなかったのだ。

 不満そうな柚葉だが、すぐにテーブルに置かれた召喚札が赤く発光し、朱雀が話を続ける。


『陽の光が無い中で、植物が成長すると言うのは、間違いなく玄武の力だ。奴は恵みを司る土の聖霊だからな』


 物静かな凛々しい朱雀の声が淡々とそう告げると、一馬は腕を組み頷く。

 確かに植物の成長には日光が必要不可欠だ。

 その日光が無い中でこの辺りは作物も豊富に収穫されている節があった。

 どの家の横にも畑があった事から見ても、それは確かだろう。

 そう考えるとこの地での玄武の信仰は衰えていないのだろうと、一馬は複雑そうな表情を浮かべた。

 一馬が複雑そうな表情を浮かべたのには理由があった。

 土の聖霊である玄武の信仰が衰えず、力も健在ならば、何故一馬はこの地に呼び出されたのか、と言う事だった。

 火の国では朱雀の信仰もその浄化の力も健在だったが、紅が召喚に失敗したまたま一馬が呼び出された。

 水の都では完全に青龍の信仰が失われ、恐らくそれを復活させる為に一馬は呼ばれた。

 なら、ここ土の山では……。

 そう考えると、何か嫌な予感がし、一馬は自然とため息がこぼれた。


「何ですの? ため息なんて……」


 優雅に紅茶を口へと運ぶフェリアが、呆れた様な口調で呟く。

 この状況に少なからず納得いかない、不満だ、と言いたげなその態度に、一馬はただただ背を丸めた。


「とりあえず、ここが何処かの説明は済んだ。次はお前達の番だ」


 キツイ眼差しを向け、そう問う周鈴に、柚葉は肩を竦める。


「私はただ呼ばれただけ」

「ワタクシもそうですわ」


 柚葉に続き、フェリアもそう述べ、三人の視線が一馬へと集まる。

 しかし、一馬もこの世界に来た理由など分からない。

 その為、申し訳なさそうに答える。


「ごめん……俺にも、詳しくは分からないんだ。ただ、気付いた時にはあの部屋にいて……多分、誰かに呼ばれたんだと思うんだけど……」

「誰かに呼ばれた?」


 訝しげな表情を浮かべる周鈴が茶色の瞳を一馬へと向ける。

 その眼差しに一馬は思わず肩を跳ね上げたが、すぐに強い眼差しで周鈴を見据え、言葉を続ける。


「それから、これはあくまで俺の考えだけど……」

「何だ? 何か知ってる事があるのか?」


 周鈴がそう言い、フェリアは首を傾げ、柚葉は腕を組み瞼を閉じた。

 三者三様の反応を見せる中、一馬は小さく頷き口を開く。


「恐らく、俺がこの場所に呼び出されたのは、何か理由があると思うんだ」

「当たり前だろ。理由も無いのにこんな所に別の世界から来るなどありえない」


 一馬の声を遮り、呆れた様に周鈴はそう言い肩を竦める。

 まだ結論まで話していない一馬は呆れる周鈴の顔を見据え、困った様に右手で頭を掻いた。

 とりあえず、最後まで話を聞いて欲しいと思いながら、一馬は息を吐き出す。

 一馬のその態度が気に入らなかったのか、周鈴は眉を僅かにピクリと動かすと、眉間に深いシワを寄せる。


「何だ? その態度は?」

「えっ? あぁ……うん。ごめん」


 思わず頭を下げる一馬だが、その態度に今度はフェリアが呆れた様に息を吐き、金色の髪を揺らし頭を左右へと振った。

 そして、不満そうに立ち上がり、隣りに座る周鈴へと体を向けると、腰に手をあてる。


「あなた先程からなんですの? ちゃんと人の話を聞く気がありますの?」


 フェリアがそう声をあげる。

 その声に柚葉は静かに瞼を開き、静かな面持ちで二人を見据える。


「何だ? あんたは?」

「ワタクシはフェリア=ルーベリアですわ。あなた、目上の人に対する言葉遣いがなっていませんわ!」


 フェリアはそう言い、胸を持ち上げる様に腕を組んだ。

 そんなフェリアに不快そうな表情を見せる周鈴は、小さくため息を吐き立ち上がった。

 身長はフェリアの丁度胸程の高さで、周鈴はフェリアの顔を見上げる。

 そして、対抗するように腕を組むと肩の力を抜き、静かに尋ねる。


「あんた、歳は幾つだ?」

「はいぃ? ワタクシは十六ですわ。それがどうかなさいまして?」


 ドヤ顔でそう言うフェリアに、周鈴は不快そうにため息を吐き、それから鋭い目付きでフェリアを見上げ答える。


「僕は十七。あんたよりも年上なんだよ」


 周鈴の言葉に一瞬場の空気が凍りついた。

 それから、目を丸くした一馬が右手を震わせ周鈴を指差す。


「じゅ、十七! そのしんちょ――」


 言い終える前に周鈴がトンファーを投げ、それが一馬の額を直撃した。


「ふがっ!」

「ちょ、ちょっと待って! あ、あんたが私と同じ歳!」


 驚き立ち上がった柚葉がテーブルを叩き声を荒げた。

 信じられないと言う柚葉の言動に、周鈴は腕を組む。


「見た目で人を判断しない事だな」


 ムフンと鼻から息を吐くと、腰に手を当てフェリアへと目を向けた。

 ショックが大きかったのか、フェリアは呆然と立ち尽くし微動だにしない。

 そんなフェリアに鼻から血を流し立ち上がった一馬が目を向ける。


「だ、大丈夫か? フェリア?」


 鼻を右手で摘みそう言う一馬に周鈴と柚葉は呆れた眼差しを向ける。


(お前の方が大丈夫かよ?)

(コッチの方が重傷なんじゃ……)


 二人の眼差しを受ける一馬は、鼻を摘み天井を見上げる。


「あぁー……」


 一馬の呻き声に、フェリアは不意に我に返り、周鈴へと顔を向ける。


「か、一馬に何をしてますの!」

「いや。アイツが失礼な事を言おうとしたから罰を」

「罰って! あんなのただの暴力ですわ!」


 フェリアが声を荒げるが、周鈴は軽く肩を竦め頭を左右に振った。

 その態度にフェリアは文句を言おうとしたが、周鈴が年上だと知った為、悔しげに唇を噛み締める。

 これでも、フェリアは年上の者は敬うと言う礼儀は叩き込まれている。

 その為、周鈴には何も言えなかった。



 何だかんだと騒動はあったが、ようやく話は戻る。

 テーブルの真ん中に置かれた召喚札が赤い輝きを放ち、朱雀の声が響く。


『とにかく、主がここに呼ばれたのは恐らく、玄武の力によるものだろう』

「そっか……でも、何で玄武が俺なんかを?」


 鼻を摘んでいる為、鼻声の一馬が怪訝そうに尋ねる。

 しかし、朱雀は『さぁな』と静かに答えただけだった。

 現状、朱雀にも理解出来ていない。

 何故、玄武がこの地に一馬を呼んだのか。

 恐らくなんらかの理由があるはずなのだが、今はまだその理由は分からなかった。

 腕を組み俯く柚葉は唐突に深いため息を吐き、不快そうに一馬を横目で睨む。


「それで、私達はいつになったら元の世界に戻れるの?」

「そう言えば、そうですわね。すでに一時間は経過したと思うのですが、どうしてまだここに?」


 フェリアも柚葉の言葉で、一時間以上過ぎているはずだと、気付きそう不思議そうに首を傾げる。

 二人の言葉に対し、怪訝そうな表情を浮かべたのは周鈴。

 召喚については然程詳しくなく、この世界に異世界からやって来た者など過去に居なかった為、周鈴はそんな表情を見せたのだ。

 そんな三人に対し、一馬は答える。


「これは俺の考えだけど……多分、何かすべきことがあるんだと思うんだ」

「何かすべきこと? 一体、何をしなきゃいけないって言うのよ?」


 柚葉が苛立ちながらそう尋ねるが、一馬は困った様に頭を掻いた。


「いや……それは、俺にも分からないけど……」

「もしかすると、玄武様と契約しなければならないのでは?」


 フェリアが右手を頬に当てながらそう呟いた。

 その可能性は大いにあるだろうと、一馬も小さく頷く。


「うん。俺もそれはあると思うんだ。火の国では朱雀と契約して、水の都では青龍と契約したから」

「だとしたら、無理だな。玄武と契約など、不可能だ」


 静かに話を聞いていた周鈴が息を吐きそう告げた。

 何故、周鈴がそこまで言い切れるのか分らず、一馬が首を傾げる。

 すると、今度は蒼い輝きが一馬の胸ポケットから溢れ、雄々しい声が轟いた。


『ソイツの言う通り、玄武と契約するのは難しそうだ』

「青龍様!」


 青龍の声に目を輝かせるフェリアが、勢いよく立ち上がった。

 一方、周鈴と柚葉は険しい表情だった。

 周鈴は、


(今度は何だ?)


と、思い、柚葉は、


(朱雀様以外の聖霊とも契約を……)


と、一馬の顔を見据える。

 二人共違う意味で一馬に視線を送っていた。

 胸ポケットからイヤリングを取り出した一馬は、それをテーブルへと置き、青龍へと尋ねる。


「えっと……どうしてそう言いきれるんだ?」

『どうにも、玄武の存在の力をこの地の底に感じる。恐らく、地中深い所に封じられていると考えるのが妥当だろう』

『青龍。お前もそう思うか……』


 青龍の考えに朱雀も賛同する様にそう呟いた。

 二人の話に一馬は首を傾げ、小さく首を傾げる。


「でも、玄武の力は健在なんだろ?」

『ああ。今の所はな』


 朱雀がそう答え、


『だが、大分弱っている。恐らく、この黄土が玄武の力を無理やり奪っていると見た方がいいかもしれんな』


と、青龍が言葉を続けた。

 その言葉に一馬は訝しげな表情を浮かべた。

 すると、青龍が一馬の気持ちを悟ったのか、静かに答える。


『何でそんな事が分かるんだって顔をしているな』

「えっ、あっ……うん」


 うろたえながら頷くと、フェリアと柚葉がため息を吐いた。


「一馬は分かり易すぎますのよ」

「すぐに表情に出るな……。召喚士としてどうなんだ?」


 腕を組むフェリアと、右手を腰に当てる柚葉の言葉に、一馬は背を丸める。

 分りやすい分りやすいとはよく言われるが、そこまで酷いモノなのかと、一馬は落ち込んでいた。

 だが、すぐに柚葉の言葉に疑問を抱く。


(アレ? すぐに表情が出るのと、召喚士は関係ないんじゃ……)


 眉間にシワを寄せ柚葉へと目を向けると、柚葉がその視線に気付いた。


「何?」

「あっ、いや……な、何でも無いです」


 あまりにも威圧的な眼差しだった為、一馬は思った事を胸の奥へと呑み込んだ。

 一方、腕を組むフェリアは唸り声をあげ、肩を落とす。


「では、わたくし達はこれからどうすればいいと言うんですの?」


 困った表情でそう尋ねると、召喚札が赤く輝く。


『まぁ、方法が無いわけではない。だが、我と青龍は相性が悪い。恐らく、時間が掛かるだろう』

「時間が掛かる? 何をするつもりだ?」


 朱雀の声に周鈴が訝しげに尋ねる。

 眉間にシワを寄せ、怖い表情の周鈴に、イヤリングが蒼く輝き、


『玄武はこの下に居るのが分っているんだ、地面を掘り起こせばいい』

「待て待て! そんな事したら、この町はどうなるんだよ! それに、玄武が居なくなったら、この地の力も――」


 一馬が慌ててそう言うと、朱雀と青龍は同時にため息を吐いた。

 明らかに一馬に対して呆れている反応に、フェリアも柚葉も訝しげに首を傾げる。

 朱雀と青龍が何を言いたいのかよく分からなかった。

 三人の様子に、朱雀はもう一度吐息を漏らすと、説明する。


『よいか、今、玄武の力は封じられ、無理やり力を吸い出されている。だが、この土から救い出せば、玄武の力は今よりも遥かに強大なモノとなる』

『恐らく、今よりも大きな規模で恵みの力を与える事が出来る様になるだろうな。まぁ、主が奴を呼び覚ます事が出来るか、と言うのが一番の問題だがな』


 青龍がそう言うと、フェリア、周鈴、柚葉の眼差しが一馬に向けられる。


「大丈夫ですわ! 一馬なら!」


と、フェリアは期待に目を輝かせ、胸の位置で両拳を握り締める。


「大丈夫なのか? 本当に?」


と、柚葉は怪訝そうに目を細め、僅かに右肩を落とした。


「何をする気か知らないが、無駄だと思うがな」


と、周鈴は瞼を閉じ、肩を竦めた。

 三者三様の反応に一馬は苦笑する。

 と、その時、三人が突然椅子から立ちあがった。

 真剣な表情の三人に、一馬一人は困惑気味に視線を動かす。


「続きはまた後で、ですわね」


 薄らと開いた血色の良い唇の間から静かに息を吐き、フェリアは右手で金色の髪を耳へと掛けた。


「全く……何処にでもいるもんだな」


 脇差へと左肘を置き、柚葉はそう呟くと鼻から深く息を吐き出した。


「足だけは引っ張るなよ」


 そんな二人に対し、周鈴はそう告げるとトンファーを両手に握った。

 完全に戦闘モードに入った三人に、一馬は「えっ? えっ?」とオドオドとし始める。


『朱雀……大丈夫なのか? 俺らの主は……』

『仕方あるまい……元々、こう言う世界で育ったわけではないんだ。後々、慣れていく』

『だと……いいがな……』


 青龍は何処か呆れた様にそう呟いた。

 何となく、馬鹿にされている事だけは一馬も理解し、困った表情で朱雀に尋ねる。


「え、えっと……い、一体、何?」

『とりあえず、お前は奴を呼び出せ。恐らく、アイツの力が必要になる』

「アイツ? ……あぁ、雄一の事か。わ、分かったけど、一体、何で?」


 召喚札を右手に握り、一馬が尋ねると、朱雀は静かに答える。


『どうやら、囲まれている様だ』


と、落ち着いた口調で。

 朱雀の言う通り、この小さな集落は囲まれていた。

 鬱蒼と生い茂る草木の合間、薄暗いその中に複数の赤い眼が不気味に輝きを放っていた。

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