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第1回 誰かが言った大ボラ“マンホールは異世界へと繋がる魔法陣”だった!!

 四月一日、エイプリルフール。

 マンホールは異世界に繋がる魔法陣。

 誰かがそんな大ボラを吹いた。

 もちろん、信じる者は居ない。誰もが笑う。


「そんな嘘に引っかかる奴いるのかよ」


 と。

 しかし、それは嘘ではなかった。

 実はこの世界には異世界へと繋がるマンホール型の魔法陣が存在していた。



 ――四月九日。

 大堂学園にて入学式が行われていた。


「はぁ、はぁ……くっそ! お前のせいで遅刻じゃねぇーか!」


 大堂学園へと続く長い上り坂。黒髪を激しく振り乱し疾走する大森一馬は、駆け足をしたまま立ち止まり、振り向きそう叫んだ。

 彼は今年大堂学園に入学する新入生。平々凡々な真面目だけが取り柄の彼が現在、遅刻中。その原因を作ったのは――。


「ふわああああっ!」


 一馬の視線の先で眠そうに大欠伸をする少年、内藤雄一だ。

 寝癖でボサボサの金髪を右手で掻き毟り、ネクタイを緩める。だらしなく出たシャツ。しかも、ボタンは全開。とても、優等生とは言えない生徒だった。

 そもそも、遅刻の原因は、雄一の寝坊。それなのに、全く悪びれた様子もなく、それで居てマイペースに歩みを進める。その姿に、流石の一馬も苛立ち怒声を浴びせた。


「雄一! お前の寝坊が原因だろ! 少しは焦ろよ!」

「うるせぇーな。遅刻が嫌なら何で先にいかねぇーんだよ」


 一馬の怒鳴り声に、雄一は面倒臭そうに耳の穴をほじる。その態度に、一馬は瞼を閉じ、強く拳を握り締める。必死に怒りを押し殺していた。

 そもそも、まるっきし正反対の性格の二人。この二人は家が近所で幼馴染の関係なのだが、特に仲が良いと言うわけではない。どちらかと言えば、一馬は雄一を嫌っていた。主に性格的な所を。

 なら、何故一緒に登校しているのか。その理由は単純だった。雄一の双子の妹、夕菜の頼みだったからだ。彼女の頼みでなければ、一馬が雄一を起こすなどありえない。

 その為、不快そうな表情を浮かべ呟く。


「夕菜のお願いじゃなきゃ俺だって――」

「あぁん? 何か言ったか?」


 シャツに手を突っ込みお腹を掻く雄一が、鋭い目つきで睨みつけていた。

 これで、雄一は超が付くほどのシスコン。コレまで妹の夕菜に言い寄ってきた男どもを片っ端からぶっ飛ばしている。それ故に一馬も夕菜に想いを寄せながら告白できずにいた。

 一馬は沈黙し、全く視線を合わせようとしない。そんな彼に、雄一は更にドスの効いた声をあげる。その額に青筋を浮かべて。


「おい! 人の話聞いてんのか?」

「聞いてるよ! うるさいな!」


 雄一に対し怒鳴るのとほぼ同時に、チャイムの音が響き渡った。ホームルーム開始の合図。

 その音に愕然とする一馬は振り返る。その視線は坂の上にある校門へと向く。音をたてて閉じられていく鉄の門。一馬は慌てて走り出す。だが、間に合うわけもなく――


「式、始まったな」


 雄一と仲良く校門の外から校舎を眺める。

 揺れる桜並木。

 散る花びら。

 その光景に、思わず涙が出そうになる。

 涙目で校舎を見据える一馬。その横で、雄一は平然と塀をよじ登る。鼻歌混じりで。

 塀の細い足場に両足を着くと、雄一はそのまま仁王立ちする。腰に手を当て校庭を見回す。絶景だった。

 その絶景に満足そうに笑みを浮かべ、それからすぐに身を屈める。向こう側へと飛び降りようとした。だが、その時、視線の先にマンホールが目に付く。その瞬間にふと思い出す。とある噂を。


「なぁ、お前、知ってるか?」


 思わず笑みを零し一馬へと目を向ける。


「はぁ? な、何だよ? 急に?」


 雄一同様に塀をよじ登る一馬は、塀に立つ雄一を見上げる。

 正直、今、雄一に構っている余裕などなかった。今、重要なのはこの塀を越えて、どうやって式へと潜り込むか。それだけを考える一馬は、殆ど雄一の話など耳に入っていなかった。


「それがよ、マンホールが異世界に繋がる魔法陣だって、バカみたいな噂があるんだってよ」

「へぇーっ。それは、本当、バカみたいな噂だねっ!」


 力を込め塀へとよじ登る。僅かに息を切らせ、塀の向こう側へと視線を向けた。高さは二メートル程で然程高くは無い。でも、その細い足場に立って見ると、妙に足がすくむ。それは、ここが高地にあるからだろう。

 一馬は息を呑む。緊張してた。別に、高所恐怖症と言うわけではないが、膝が震える。その様子に雄一はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「お前、ビビッてんのか?」

「び、び、ビビッてるわけないだろ!」

「ふーん。ホントか?」


 雄一がそう言い一馬の肩を押す。突然の事に慌てる一馬は激しく腕を振り回しバランスをとる。


「な、何すんだ! 危ないだろ!」

「何だよ? ビビッてんじゃねぇーか。大丈夫だよ。この程度の高さじゃ落ちても死なねぇーよ」


 馬鹿笑いする雄一に一馬は顔を真っ赤にし俯き、堅く拳を握る。

 一馬だって死なない高さだと言う事は分かっている。だが、もし着地に失敗して頭でも打ったら。そう考えるとやっぱり怖くなってしまう。

 恐怖と葛藤する。そんな一馬を尻目に、雄一は軽々と塀から飛び降りた。そして、当然の如く体育館の方へと歩みを進める。


「じゃあな! ビビリ君。俺は先に行ってるぞー」

「ちょ、ちょっと待て! おまっ――うわぁっ!」


 雄一へと叫んだ拍子にバランスを崩す。そして、そのまま塀から落ちた。視界が一転する。その視界に一瞬、マンホールが映る。妙な光を薄らと放つマンホールが――。

 一馬の体は吸い込まれる様にそのマンホールへと落ちた。その瞬間、マンホールに妙な術式が浮かび、眩い光が体を包み込んだ。


「な、な、何だ、いっ――」


 一馬の声が途切れ、光が消える。

 物音に雄一は振り返った。その視線はすぐに塀を見上げる。だが、そこに一馬の姿はない。慌てる雄一はすぐに駆け寄る。


「一馬!」


 塀から落ちた。そう思い急いで塀の傍へと行く。だが、そこには何も無かった。一馬も、マンホールも、消えてなくなっていた。



 眩い光に包まれた一馬が目を覚ます。そこは広い木造の部屋だった。

 静まり返った部屋の中。一馬はゆっくりと立ち上がる。異様な空気に頭を振った。意識が確りしている事を確認。そして、辺りを見回す。


(……何も……無い)


 一馬はそう思い振り返り、驚愕する。そこには威風堂々とした巨像が祭られていた。鳥の様な大きな獣の巨像。そのあまりの迫力に「うわっ!」と声をあげ腰を抜かす。困惑する頭で状況を整理する様にブツブツと言葉を並べた。


「お、おお、俺は遅刻して、へ、塀に登って、お、お、落っこちて……」


 震える唇と手。その目は部屋全体を見回す様にせわしなく動く。

 何がどうなっているのか分からない。だが、間違いなくここが大堂学園で無い事だけは確かだった。大堂学園に武道場は無い。その為、この様な木造の建築物は無いのだ。

 額から汗を滲ませ、ようやくここで一つの結論に辿り着く。


「こ、これは、夢だ! きっと塀から落ちて、頭を打って、気を失ってるんだ! そうに違いない!」


 自分にそう言い聞かせる様に、大声で言い放つ。その声が、虚しく部屋を反響し、やがて静まり返る。

 拳を力強く天へと向け、硬直していた。反響していた声に「くすっ」と小さな笑い声を聞いたからだ。

 誰かが居るなんて思ってもなかった。いや、居るはずは無い。確か、部屋を見回した時、人は居なかった。

 ぎこちなく体を動かし、静かに振り返る。


「目が覚めたんですね。皆さん待ちわびてますよ」


 巫女服に身を包んだ女性がにこやかにそう告げる。美しい長い黒髪。それは、とても艶やかで、印象的だった。日本女性の象徴と言うべき姿が、そこにはあった。

 一馬はぎこちなく笑みを浮かべる。その頬はみるみる赤く染まり、頭から湯気が噴出す。

 口元を左手で隠す様に笑う女性。妙に大人びたその姿に、一馬は動揺する。どうすれば良いのか分からず、両腕で奇妙なジェスチャーを交え、早口で告げる。


「あわ、わわ、お、お、俺はお、お、大森一馬。け、け、け、決してあ、あ、怪しい者じゃな、な、ないですから!」


 目を回し必死な説明。その姿に彼女は口元を押さえたまま「ふふっ」と、小さく微笑。大人びているのにその笑顔はとても可愛らしい。

 呆然とその顔に見とれる。それ程、彼女は魅力的だった。見とれる一馬へと彼女はゆっくりと足を進める。


「はい。あなたをお連れしたのは私共ですから」

「はへっ? お、お連れした?」


 わけの分からない事を言う女性に、一馬は警戒心を強めた。ここでようやく落ち着きを取り戻す。そして、閃く。


(コレは新手の詐欺だ!

 きっとこの後、なんやかんやあって、多額のお金を請求されるだ!)


 一瞬の後、そんな考えに至る一馬の顔が一気に青ざめた。

 巫女服の女性は心配そうな眼差しを向ける。


「大丈夫ですか? 顔色が優れない様ですけど?」


 優しい言葉。だが、その言葉に一馬は身構える。、


「お、おお、俺はだ、だ、騙されないぞ! そ、それに、お、お金なんて持ってねぇーぞ!」


 声を震わせ、拳を天へと突きあげる。その姿に、巫女服の女性は怪訝そうに首を傾げた。

 暫しの沈黙。

 重々しい空気。

 その中で、恥ずかしそうに拳を下す一馬は、静かに俯く。顔を真っ赤にして。

 やがて、巫女服の女性は納得した様に右手を左拳でポンと叩く。そして、天使の様な優しい笑顔を向ける。


「ここは、あなたの住む世界とは異なる世界なんですよ」

「…………」

「えっとー……な、何から説明したらいいんでしょう? やっぱり、この世界の事? それとも……」


 巫女服の女性の言葉に呆然とする。彼女が何を言っているのか理解出来ない。

 呆然とする一馬の前で、その女性は巫女服の袖を揺らし、愛らしい仕草で悩む。


(異なる世界? そんなのあるわけ無い。でも、ここに自分は存在している)


 色々な考えが、一馬の頭を過ぎり、やがて叫ぶ。


「嘘だろ!!」


 と。

 その声だけが虚しく部屋へと反響した。

 初めましての方も、そうでない方も、どうもこんばんは。

 崎浜秀です。


 またまた、思いつきで書き始めたわけですが……

 今回は不定期更新です。

 次の更新はいつになるか分かりませんが、早いうちに更新出来る様がんばりたいと思います。


 うーん。

 多分、私の文才では面白く出来ないかもしれませんが、最後まで付き合っていただけると嬉しいです。

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