flux
高校3年の春に書いた3題小説です。
「夢」「輪廻」「月」というお題で書きました。
当時の文章をそのまま載せているので表現が今以上に稚拙ですが、ご容赦くださいませ。
また、もともと複数に分割していたものを一つにまとめたため短編という形ではありますが、若干長めです。
それでは、お楽しみください。
【序章】
一面の黒―ここがどこなのか、そもそも現実なのかも分からない
「――――」
誰かが呼んでいる。でも、一体誰?声をかけてくれるような人はいないはずなのに・・・
「―――に行きなさい」
その誰かはまだ私のことを呼んでいる
私は声のほうへ向かった、でもどこに行っているんだろう?
それでも私は歩き続ける
「行きなさい、天見原へ・・・月村の家に」
そして、光が差した―――
【1章】
1.
天見原。古くから天の神を祀り、その恩恵を受けている街
その天の神の中でも街の名前の由来とも言われる月の神を祀っている月村神社が俺の家だ
神社と同じ名を持つ月村家は代々この神社を守ってきた。歴史があるのはいいことなんだろうけど、俺からすれば将来のことを考えなくても済むからラッキーというくらいのものだ
いつもと同じ朝、少し寝ぼけて時間を確認。すこし危険かも
「おにいちゃん?学校に遅れるよー」
そう言いながらドアを開けて入ってきた妹の美月に俺は
「どうしてこんな時間までほっといたんだよ・・・」
「おにいちゃん16歳でしょ、いい年なんだから自分で起きなさいよ」
3つしたの妹に朝から説教されるとは・・・
母親がいないせいか、美月は他の13歳の子よりも大人びてる気がする
その反面俺はヘラヘラしてるけど
学校に行く準備をしてたら本格的に時間がなくなっていた
「それじゃあ、いってきまーす」玄関を出ようとしたとき
「待ちなさい朔、弁当を持っていかないでどうやって一日過ごす気だ?」
「ああ、悪い親父。じゃあいってくるわ」
時刻は8時15分。走ればまだ間に合う
15分後、何とか学校についた
2-Bの窓側最後尾の自分の席に荷物を置いて座ろうとしたとき、ちょうど担任が入ってきた
担任の木下は出席を確認すると出て行ってしまった。相変わらず生徒に関心が無いのかどうかはわからないが、生徒からすれば非常に楽な教師だ
いつもの何もない1日。今日も平和だ
3時50分、俺は帰途についていた
2.
帰り道の途中にちょっとした広さの公園がある
なんとなくまっすぐ家に帰りたくなかった俺は少し公園によっていくことにした
この公園には小さな頃から来ていて本の数年前までは美月と遊んだりもしていた。でも、最近は来なくなった
外で遊ぶ子供が減ったのか公園の中には散歩中らしい老人とベンチに座ってる高校生くらいの女の子、それから数人の小学生くらいしかいなかった
自動販売機でジュースを買った俺は女の子の対面(といっても道が間にあるが)に座った
結構時間が経ったのだろうか、公園の中には俺と向かいの女の子しかいなかった
そろそろ帰ろうかと支度をしていると、視界に変化が生じた
「・・・!おいっ大丈夫か!?」
向かいの女の子がいきなり倒れたのだ
そばに駆け寄った俺は彼女の青白い顔を見てぞっとした。どうみても軽い貧血とかいうレベルじゃない
「君、立てる?俺ん家近くだから休むか?」
「・・・に」
「え?」
「月村神社に・・・」
「月村は俺の家だが?とにかく行こう」
俺は女の子に肩を貸して神社へと急いだ
3.
神社のすぐそばにある家についた俺はすぐに親父を呼んだ
「オヤジ、そこの公園でこの子が・・・」
「とにかく休ませなさい。君、大丈夫かい?」
「はい。ご迷惑をおかけします」
「別に構わないよ。朔、客間に寝かせてあげなさい。飲み物をもってくるから」
「ああ」
客間に布団を敷いて彼女が横になった頃親父が飲み物を持ってきた
「君はゆっくり休んでなさい。・・・朔、一体何があったんだ?」
俺は公園での出来事を話した
「神社に用?・・・まさか・・・」
そうつぶやいた親父はいきなり彼女の右手を持ち上げた
「オヤジ?一体何を・・・?」
「彼女が元気になったら説明する、彼女をきちんと見ておくんだぞ」
そういって親父は出て行ってしまった
一体、何がどうなってるんだ?
4.
午後7時半。ようやく彼女が目を覚ました。だいぶ顔色がよくなった
「調子はどう?まだきついなら寝てていいから」
「いえ、もう大丈夫。・・・あの、神主さんは?」
「オヤジか?そういえば君がおきたら何かを話すって言ってたけど」
「どこにいるのかしら・・・」
「・・・多分本殿だと思う。オヤジはよくあそこにいるから」
「案内してくれる?急いだ方がいい気がするの」
「わかった。行こうか」
俺は彼女をつれて家を出た
家からかなり近いので本殿まではそんなに時間はかからない
「オヤジ、いるかー?」そう言いながら扉を開けた
学校の教室と同じくらいの広さの本殿の中に親父はいた
古めかしい書物を読んでいた親父は手を止めてこっちを向いた
「君、もう大丈夫かい?それならちょっとこっちに来なさい。朔も一緒に」
俺たちは親父のそばに行った
「神主さん。これを・・・」そういって彼女は右手を差し出した 「ああ、やはり間違いないか。いつからこれが?」
「半月前です」
「・・・となるともう時間が無いな。二人とも手短に説明するがそれでいいか?」
うなずく俺たちを見て、親父は話し出した
「朔はこの神社が何を祀っているかは知っているな?」
「ああ、此月姫様だろ」
「そうだ、それなら彼女の右手のしるしが何かはわかるか?」
「・・・?」
どこかで見たことがあるきはするが、思い出せない
「これは此月姫様の家紋のようなものだ。少し形は異なるが我が家の家紋はこれをかたどっている」
そういえばそうだ。でも、
「どうしてそんなのが彼女の手に?」
「今から千年ほど前になるんだが、この街にある五つの神社の間である儀式のようなものが行われたのだ。その儀式の内容とは千年後―つまり現在だな―、その千年後に各々の神社の祀り神を人間の中に呼び、争わせるというものだ」
「どうしてそんなわけのわかんないことを昔の人はやったんだよ?」
「その争いに勝利した者・・・この場合それが神なのか人なのかはわからないが、その者の願いを叶えることができる」
「願い・・・?」
「まぁ、夢のようなものだな。君・・・そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
苦笑しながら言う親父を見て今更ながら俺も気付いた
「真由です。此月真由」
「このつき!?」
「無作為に相手を選んだわけではないのだな。輪廻転生という考えがあるが、それに近いもののようだな。ここにいる真由君は此月姫様の生まれ変わりと言ってもいいだろう。・・・それで、君には夢のような者はあるかい?」
「夢・・・ですか。いえ、特に無いです。あの、いけないことなのでしょうか?」
「いや、そういうわけでもない。勝利したときに叶えたいものがあればいいのだ」
昔の人が取り決めた争い。わからないというより、
「オヤジ、どうして俺もその話を聞かなくちゃならないんだ?別に俺がいる必要は無いきがするんだが」
今までの話だとこの真由って子が戦うようだ。だからこそ俺には何の関係も無い
「そういうわけにもいかんのだ。よく聞きなさい、今の真由君には特に特殊な力はない。神様が宿ってはいるが今は眠っている状態だ。そしてその眠りから覚まさせる役目を負っているのが私たち月村だ。月村の人間が目覚めの儀式を行ってはじめて真由君の中の此月姫様の力が発現するのだ。そして、その儀式は朔、お前がやりなさい。そのことがあるからお前をここに呼んだのだ」
「どうして俺が?神主のオヤジの方がいいんじゃないのか?」
結構重大な役目だと思う。だから俺はそう言った
「確かに本来なら私がやるべきなのだろう。だが私には他の仕事もある、その上戦い抜く体力も無い。だからこそのお前なのだ。・・・わかってくれたか?」
「・・・」
「朔?」
「で、俺は何をすればいいんだ?儀式って言葉だけじゃ何もわからない」
どうやらこれは俺がしなくちゃいけないことのようだ。だったら俺はそれをやるしかないんだろう
「うむ、真由君もそれでいいかい?」
「ええ」
「それでは早速始めるとしよう」
5.
親父につれられて俺たちは神社の外れにある離れへと向かっていた
今夜は満月らしく、歩くのにも苦労しない
「なぁ、どうしてその儀式とやらは本殿でやらないんだ?」
「儀式で使う祭具が離れに安置してあるからだ。普段は使わない物だからな・・・本殿に置く必要もない」
離れに着いた
中は本殿の3分の1くらいの広さがあるのだが、いろいろと荷物があってどこか狭苦しい感じがする
「儀式自体は3人いれば済むものだそうだ。・・・2人とも、これを持ちなさい」
手渡れたのは小皿くらいの大きさの円盤
「これ、なんですか?」
同じ事を思ったのだろう。彼女は小首をかしげながら聞いた
「古代の鏡といったところだ」
「ふーん。とにかくさっさと終わらせようぜ」
「ああ、じゃあ2人とも少し間を空けて向かい合ってくれ。・・・そうだ」
向かい合った俺たちは次の指示を待った
「その鏡を胸のところに持ってきて・・・相手の鏡と合わさるように」
言われた通りにしてから少し時間が経った
「それでは今から儀式を始める。2人とも静かにしていればいいから・・・」
そういって親父が何かを唱え始めた。現代の言葉ではないことはわかるが、いつの言葉なのか・・・
立っているのが辛くなってきた頃あたりが少し明るくなった。彼女―真由の右手が光りだしたのだ
痛みはないのだろうか、とくに身じろぎもせずじっとしている
「・・・・!」
一瞬鏡が光ったような気がしたんだが、特に変わったところはない
「・・・。もういいぞ2人とも。楽にしてくれ」
どうやら終わったようだ。それにしても・・・
「オヤジ、やっぱり俺がいる必要はあったのか?何も起こらなかったが」
「鏡が光っただろう?あれは普通の人間が同じ事をしても出るものではない。月村の人間が持ってはじめて効果を発揮するものなのだ。此月姫様の力を降ろすのには月村の人間の力が必要だからな。儀式はその力を注ぐ人間を一人に固定する役割も持っている」
「じゃあ俺にも何か力が備わったりしたのか?」
「いや、むしろ逆だな。真由君が力を使うとお前の方にも疲労が来る。そういう意味でも若いお前の方が向いているのだ」
「そっか、力は特にないねぇ・・・。とにかく、真由ちゃん、これからよろしくね」
「はい。こちらこそ」
はじめて名前で呼んだんだけどノーコメント?
「とにかくもう遅いから家に帰ろう。まだ話すことがあるが、それは明日だ。それで真由君」
「はい?」
「争いが終わるまでの間月村にいてもらったほうがいいのだが・・・いいかい?」
「ええ、構いませんよ」
「部屋はさっきまで寝てたところを使ってくれてかまわない」
「わかりました」
「それじゃあ帰ろうか」
満月の下、俺たちは家に向かって歩いていった
【2章】
1.
翌朝、朝飯を食べた俺は神社の裏手にいた
昨日の続きだそうだが何故人気のない裏手なのかは分からない
裏山の一部を切り開いたそこには俺、真由ちゃん、親父の3人しかいない
「昨日の続きに入る前に。真由君、体に変化はないかね?」
「いえ、特に」
「それならいい。では、話を始めようか。・・・いくら此月姫様の力が備わったとはいえ丸腰で戦うということではない。なんでも当時特定の武器というものを定めていたそうだ。それがどのような物かは分からないが・・・。とにかく、その武器の出し方を教えておく」
確かに。戦うといってもどうやって戦うのかはまったく分からなかった
「特に必要なものはないそうだ。ただ、真由君自身が此月姫様のことを思えば済むそうだ」
「思う・・・?」
「試しに名前を思い浮かべてみてはどうだ?」
「はい。・・・わっ」
成功したんだろう、彼女の手には何かが握られていた
「これは・・・刀?」
何の変哲もない日本刀。これが武器のようだ
「ただの刀というわけではないだろう。そこまでは分からないが使ってみれば分かるはずだ」
「使ってみればって・・・」
「ああ、朔は日向家を知っているな」
「日向ねぇ、昔はよく遊んでたな」
日向家は月村家が月の神を祀ってるように日光の神を祀っている。家が比較的近いということもあって、昔はよく遊んでいた
「その日向家にも真由君と同じような人間が来ているそうだ。昔からの縁もあって何とか協力していく方向でまとまった」
「そうはいっても敵だろ?大丈夫なのかよ?」
「心配はいらん。きちんと約束はしてある」
やっぱりどこか信用できない、と言おうとしたとき
「大丈夫なんですね?だったら行ってみます」
「えっ、真由ちゃん?」
「どうせいつかは出会うんでしょ?だったらそれが早まっただけですよ。それに、うまくいけば協力してもらえるくらいに考えておけばいいわけですし」
理にかなっている・・・んだろうなぁ
「わかった。じゃあ行ってみようか」
「はいっ」
朝日に照らされた彼女の笑顔がとてもまぶしい
「そうと決まれば準備だ」
俺たちは家へと戻った
2.
日向家は歩いて20分ほどのところにある。もともとこの街自体が一周するのに2時間もかからない小さな街だからご近所といってもいいくらいだ
神社というものはそう変わり栄えするものじゃない。実際建物の造りなんかもウチとほとんど変わらない
とりあえず俺たちは神社の方じゃなく、日向家の方へ向かった
ベルを鳴らすとしばらくして人が出てきた
「おお、朔君。いらっしゃい」
出てきたのは日向神社の神主日向芳光さんだ
「お久しぶりです。ウチのオヤジから聞いてきたんですけど・・・」
「ああ、待ってたよ。ということはそちらの女の子が」
「はい。此月真由といいます」
「真由さんか、・・・ちょっと待っててくれるかい?いま光を呼んで来るから」
「ということは光が儀式の・・・?」
「そうだよ。じゃあ、待っててくれ」
おじさんはそういい残して奥に行ってしまった
そう長いこと待つこともなくおじさんは戻ってきた
一緒についてきた2人のうち片方はよく見知った顔。小柄で童顔ときているから中学生くらいにしか見えないが、一応同じ年だったりする。・・・そうえば真由ちゃんはいくつなんだろう?やはり同じくらいか?
俺がそんなことを考えていると、
「朔くん。こんにちは」
「おう、元気か?光」
「うん。・・・その人が・・・?」
「はじめまして真由といいます」
「はじめまして。私は光よ、よろしくね。で、こっちが」
「綾です・・・よろしく」
ものすごく大人びた印象を受ける子だ。光と並んでいるのを見ると身長は俺と同じくらいか、真由ちゃんより少し高いくらいだろう
この人と戦うとなると苦労するだろうなぁ・・・
「ウチのオヤジに言われて来たんだけど、俺たちは何をすればいい?」
協力するという言葉一つ出来たんだ。俺たちは具体的に何をすればいいんだ?
「えっとね、お父さんが言ってたんだけど『武器の性能をきちんと見極めて協力しやすい形を見つけておいたほうがいいだろう』って」
「なるほどねぇ、協力するならそれは必要か。仲間のことを知らないで戦うなんてことは出来ないからな」
「・・・では早速・・・」
「ああ。どこか広い所に行こうか」
玄関で暴れるわけにはいかないだろう
「だったら裏に行こう?」
どこまで似通っているのか・・・日向神社にも裏に広場のようなものがある。まさか、千年前からこのために用意してあったとは言わないよな?
とにかく俺たちは裏の方へ回った
3.
太陽がまだだいぶ高い。日暮まではまだ時間がありそうだ
裏の空き地についた俺たちは早速準備をしていた
「・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや、山の中に人がいたような気がしたんだけど・・・」
見渡す限りに人影はない。気のせいか
それからは特に何も感じることはなく、準備は整った
「それじゃあ、始めようか」
「うん。・・・あくまでも練習だからね、2人とも本気で戦ったりはしないでよ?」
「はい」「・・・ああ」
少しだけ空気が引き締まった気がする
「真由ちゃん。俺は後ろから見守るしか出来ないけど、頑張れよ」
「うん。ありがとう」
俺に出来るのは精神力でサポートすることだけ。具体的にどうこうするものじゃないから気持だけは強く持つようにする
「それじゃあ、行きますっ」
今朝見たばかりの日本刀が真由ちゃんの手に握られていた
「綾っ」
「・・・」
武器の発現には同じ動作が必要なんだろう。綾さんは少し目を瞑った
「・・・扇?」
綾さんの手に握られてたのは手のひら大の扇。これが武器なのか?
「ふふ、見くびってはいけませんよ?2人とも。・・・綾」
扇がでかくなった。それだけではない、素材自体も変わっている
「綾の扇は大きさと材質を変えることができるのよ」
そんな能力があるのか。・・・じゃあ真由ちゃんの刀には?
「武器の能力の出し方自体は簡単よ。武器を出すときみたいに思いを込めればいいの」
「真由ちゃん、やってみなよ」
「うん・・・」
特に変化は・・・ない
目に見える能力じゃないってことか?
「説明はこれくらいにして、始めましょうか。特に勝ち負けとかを決めるわけではないからある程度経ったら止めるって事で、朔君オーケイ?」
「俺はそれでいい」
「よし、じゃあ綾、真由さん二人とも構えて」
特に構えはないらしく二人とも自然体で立っている
「それじゃあ・・・始めっ!」
どちらの武器も接近戦に向いている武器だ。一気に間合いを詰めて行くつもりなのか、二人とも一気に走り出した
「綾の武器は形を変えることができる。でも変えるまでまだ若干のタイムラグがあるの。そこは練習次第だろうけど・・・」
いつの間にか光が横に来ていた
「武器の能力を確かめるために呼んだにしては結構調べてあるのな」
「だって綾の武器ってそんなに危なそうじゃなかったから」
まぁ、扇だしな
ついに刀の間合いに綾さんが入った。内側に入り込んでの攻撃の方がやりやすいと判断したんだろう
真由ちゃんは入り込まれる前に刀を一閃した
ガチッ
材質を鉄に変えていたので防がれた・・・かに見えたが
「・・・え!?」
ゆっくりとだが綾さんの扇が元の素材に戻っている。これは一体・・・?
さすがにまずいと判断したのか綾さんは真由ちゃんから離れた
「・・・それが、あなたの能力・・・」
それはおそらく間違いないだろう
「つまり、『相手の追加能力を打ち消す』能力?」
光の指摘通りだろう
「ただ、条件がハッキリしないな。現段階では長時間触れれば解除できるみたいだけど。・・・真由ちゃん」
「はい?」
「今ので何か変わったことはない?」
「いえ、特には。でも・・・」
「でも?」
「綾さんの扇が元に戻ったとき体の中から力が抜けたような感じはしました」
「やっぱり。俺もそれは感じてた。ということはそれが真由ちゃんの能力で間違いないな」
「私の・・・能力」
使い方次第だけどこの能力はかなりのものなんじゃ・・・
「光」
「うん?」
「今日はこれくらいにしておこうか。目的は果せたし」
能力の発動と動きの確認。両方とも十分とはいえないけどわかった。だったら今日はこれくらいにしておくべきだろう
「そうね。今日はもうやめにしましょう。朔君と真由さんも家によっていったら?シャワーもあるし」
「そうさせてもらおうか、ね?真由ちゃん」
「うん」
「じゃあ行きましょう!」
4.
その後は光の家におじゃまになって日が暮れる頃までのんびりとしていた
真由ちゃんと綾さんは俺たち以上に疲れたようで、少しの間寝ていた。俺と光も少し疲れてはいたが寝ないとつらいようなものではなかった
当事者とサポート役とではこうも違うんだな
真由ちゃんが起きてからしばらくした後、俺たちは日向家を出た
もともとそんなに距離はないから帰るのにそんなに時間はかからない。ただ自分の家でゆっくり休みたかったから
そういうわけで早めの帰途となった俺たちは昨日と同じ公園のそばまで来ていた
「昨日から動き続けてるけど、真由ちゃん、体に異常とかはない?」
そのことがとても気がかりだった。いくら少し寝たとはいえ彼女は昨日倒れたのだ。どこかで無理をしているんじゃないか・・・
「少し疲れたけど大丈夫。今晩ゆっくり寝れば元気になるから」
「そっか。でも無理はダメだからな」
「うん」
元気だといってくれるのはありがたい。俺の心配も少しは減る
公園の前を通ろうかというとき、
「ごきげんよう。月村の方々」
「!」
その声の主は公園の出口から出てきた
「誰だっ」
若干つり気味の目、肩にかからないくらいの髪。見知った顔ではない。知り合いじゃない人間に声を―名指しで―かけられるようなことはない
「これはとんだ失礼を。わたくしは御影奈姫と申します」
「御影?御影神社の?・・・ということは君が」
御影神社は月村とは反対のところにある家だ。あまり交流がないはずなのにこんなところまできているということは・・・
「ええ。本当はわたくしのパートナーも一緒に来る予定だったのですけど所用がございまして」
「で、わざわざ一人で来た理由は?パートナーがいないにも関わらずどうしてこんなところまで?」
「今回はただの様子見ですわ。あなた方が日向と手を組んでいるのは先ほど拝見いたしましたし、必要な情報は手に入りましたから。こうしてあなた方の前に出てきたのは単なる気まぐれですわ」
日向神社で感じた視線はこいつのだったのか・・・
「それはご丁寧にどうも。でも、俺たちの前にひとりでのこのこ出てくるのはどうかと思うぜ」
これが視察だというのはおそらく正しい。ただ俺たちの前に出てきたのが挨拶程度のものだとは考えられない
「本当に気まぐれですわよ?まぁこれ以上いても意味のないことは分かりきっていますからこれで失礼いたしますけど」
本当に攻撃する意思がない・・・?
「それでは月村の方々、近々また参りますのでそのときにでもゆっくり殺しあいましょう」
そういって彼女は消えてしまった
「何者なんでしょう?近々来るって・・・」
「今度は本気で襲うということだろうな。声をかけられるまで気配に気付けなかったんだ、今襲われてたら終わりだっただろうな」
「でも、あの人はどうして攻撃しなかったんですか?敵が減ればもっと楽になるはずなのに」
確かにその通りだ。もし俺があの子の立場なら迷わずに攻撃した。それなのに彼女はそれを行わなかった、つまり
「何らかの指示が出ていたんだろう。ということは向うも手を組んでいる可能性がある。だから向うの準備が出来て万全の状態で仕掛けてくるはずだ」
月村と日向が手を組んでいる。となると御影は残りの二つ―宵闇と美空―のうちどちらか、または両方と手を組んでいるということだろう
「協力関係を結ぶということは元から親交がないと出来ないから、その辺はオヤジが知っているかもしれない」
これは俺たちがどうにかできることではない。ここは現神主の力を借りるべきだろう
「ええ」
「じゃあ、そういうことにして、ひとまず帰ろうか」
とにかくオヤジに話をしないといけないな
5.
家についた俺たちは今日の出来事―主に御影奈姫が訪ねてきたこと―を親父に話した
「御影が手を組む可能性のある家・・・か」
親父はしばらくの間考え込んで、
「ありえるとすれば宵闇だろうな」
「なぜ宵闇なんだ?美空だって可能性は?」
俺がそう言うとオヤジはこの街の地図を持ってきた
天見原は周囲を森に囲まれたある意味閉鎖的な街だ。街の真ん中には大きな二股に分かれた川―天見川―が流れている
「この地図がどうかしたんですか?」
「うむ。月村神社がここにあるのは分かるな」
そういって指したのは地図の北の端。たしかに小さくだが『月村神社』とある
「そしてここが日向神社だ」
次に指したのは月村神社から少し東に行ったところ。真東とまでは行かないが、確かに日向神社がある
「まだ気付かんか。ここが二人が会ったという御影の神社だ」
オヤジが次に示したのは日向神社から見れば真西に当たるところ
丁度川をはさんだ形になっている
「あっ」
「真由ちゃん、何か分かった?」
「もしかして川で区切られて・・・」
「やっとわかったか。朔も見てみなさい」
確かに川を挟んで東側に月村と日向。西側に御影と宵闇がある
「でもこれは偶然なんじゃないのか。川は自然物だろう?」
天見川はここ数年で舗装されはしたものの、地形的にはずっと変わってないはずだ
「いや、そうでもないのだ。また千年前の話になるが、この3つの地域はもとからそうなるように置かれたのだ。だからこそ月村は日向と親交があり、同様に御影は宵闇とかかわりがある」
昔からの背景があるのなら御影の協力者は宵闇で間違いないだろう
「ただな、我々月村と日向は対等の関係を結んでいるのだが、あの二つはそういうわけではなかったはずだ。今回のことは宵闇の者が御影に命令したと考えた方が無難だろう」
俺の予想は間違っていなかったのか。これであの子があっさりと引き下がった理由が分かった
「じゃあ美空はどうなんだ?」
「美空の家に関しては相互不干渉ということで通っているようだ。文献にも深くは触れられていない。ただ、どの家も干渉できないということを考えると、結構な力を持っているだろうな」
これで勢力関係がはっきりした。月村と日向。宵闇と御影。そして美空。この形で戦いが始められるわけか
「良くも悪くも集団戦になる確率が高いわけか」
「そうだな。そのためにも日向とはよく連絡を取っておきなさい。・・・二人とも」
「はい?」「ん?」
「今日は疲れただろう。明日もあるんだ、もう休みなさい」
確かにもう遅い。こんなに話していたのか・・・
「じゃあそうさせてもらうか」
「そうですね。じゃあ私はこれで・・・」
真由ちゃんが部屋から出て行って
「俺も行くか」
「ああ、ゆっくり休むように」
そうして俺は部屋を出た
【3章】
1.
日向家を訪れ、御影奈姫に出会ってから一夜たった朝
そういえば今日は月曜だと気付いた俺はゆっくりと起きだした
俺の身の回りのことなど関係なく日常はやってくる
とにかく朝飯を食べようとリビングに来た俺は朝食の準備をしていつ美月とその手伝いをしている真由ちゃんを見つけた
「おはよう。美月、真由ちゃん」
「おはよ、おにいちゃん」
「おはようございます、朔君」
いつもと変わらない朝・・・ではない
「って真由ちゃん?」
どうして真由ちゃんが台所に立っていられるんだ?美月は俺が入ろうとすると怒るのに
「ああ、真由さんがお手伝いしたいって言ったから」
「俺がやろうとすると怒るのに?」
「おにいちゃんはダメよ。だって料理ヘタだし」
「だからできるようになるためにやろうとしているんだよ」
「そういうことならきちんと言ってよ!」
なんて理不尽な
「まぁまぁ朔君、もう少し待ってて下さいね。もうすぐ出来ますから」
これ以上いると邪魔になるからおとなしく待っていた
「はい。おまたせしました」
「おぉ・・・!」
品物自体はいつもと変わらないが何かが違う
「真由さんにはお味噌汁を作ってもらったのよ」
「おいしくできてるといいんですけど・・・」
おいしくないことがあろうか、いやないだろう
「ぞれじゃあ、いただきまーす」
味噌汁を一口。緊張した面持ちの真由ちゃんとただじっと見ている美月
「うん。美月のとは違った旨さがある!でもどうしてこんなに違うんだろう?」
「それは出しが違うからじゃないの?」
「ああ、そういうことか。でも本当においしい」
いつもと違う味だとなじみが無いから口に合わないとかいうことがあるけどそういうことも無い
「真由ちゃん、家でも料理してるの?」
これだけおいしいんだ、両親にしても自慢の娘だろう
「え、ええ・・・」
「?」
なんだろう。どこか悲しげな様子だ
「別にどうでもいいんだけど、おにいちゃん学校は?」
「げっ」
話しているうちにいつもと変わらない時間になっていた
急いでご飯を食べて俺は家を出ようとした
「おにいちゃん、また弁当忘れてる」
「すまん、じゃあ行ってくる」
そのときには真由ちゃんの悲しげな表情のことはもう忘れていた
2.
俺が通う天見原第1高校は、その名の通り天見原にある高校の一つだ。街自体が川で分かれているのでそれで学区を分けているのだ
もともとそんなに大きくない街なのに学区を3つに分けたため一つ一つが小さいが
その第1高校の2-Bが俺の通う教室だ
いつもどおり席についた俺は隣の席の穂実に挨拶をした。穂実は俺の中学時代からの友人でいつもつるんでいる。俺と同じで女子に人気があるタイプじゃなくて同姓と馬鹿騒ぎしているほうが似合ってるって顔だ
「うっすほのみー」
「おう、ツッキー」
ツッキーとは俺のあだ名だ。名前で呼ばれたいというわけでもないからこれで落ち着いている
木下が来るまでまだ時間がある。そんなに早く家を出たのか
「ツッキーよ」
「なんだ?」
「お前昨日誰かと出かけたりしたか?」
「いきなりなんだよ?」
「いやな、東条の奴が言ってたんだよ。昨日ツッキーが3校の近くを歩いていたって」
東条とはウチのクラスの女子でいわゆる情報屋というやつだ。どうでもいいことばかりいっているが、それが面白かったりする 「3校?昨日はあっちには行ってないが」
「なんだ、人違いかよ。東条ってたまにいい加減なこというのな」
「まぁあいつのいうことをいちいち鵜呑みにしてたらキリ無いぞ」
「それでもたまーに当りがあるからなぁ」
「宝くじ買って1億当てるようなもんだけどな」
「なになにっ?ツッキー一億円当てたの?これは一大ニュースね。じゃあ早速一億円を当てた月村朔氏のインタビューを行います」
おさげを揺らして小型ボイスレコーダーをもった女がいつの間にか目の前にいた
「いや、違うからな。東条よ」
東条はあからさまにどうでもよさ気な顔になった。そんなにニュースがほしいのか
「じゃあさっきの一億円って何よ?」
「ああ、あれは・・・だな」
さすがに本人に言うのは気が引ける
「はいはーい」
「ほのみんどうかしたの?」
「ツッキーが『東条の情報が当たることは宝くじで一億当てるくらいのもの』だっていってましたー」
余計なことをいいやがる
「ほほぅ。それはまぁ、スバラシイほめ言葉をありがとう。ツキムラクン」
「いえいえ、それほどでも・・・」
「まぁいいけどねっ。それはともかく新着ニュースがあるんだけど二人とも聞く?ツッキーは別に聞かなくてもいいと思うけど」
やっぱり根に持ってやがる
「まじ悪かった。でニュースって?」
たとえ外れていてもそれはそれで面白いからいつも聞いてるのだ
「えっとねぇ、ちゃんと驚きなさいよ?実は・・・出たのよ」
「「出たぁ?」」
「うんうんその反応が欲しかったのよ。さっきルリちゃんたちに言ったら何もいってくれなかったのよ!」
俺たちの反応をいい方向に解釈して満足しているが、言いふらしてきたのか。そんな小学生じみた話を
「で、何が出たんだ?」
「昨日の夜のことなんだけど、私の2校の友達が買い物から帰る途中に見たんだって」
「だから何をだよ」
ここまで引っ張ってるんだから余程のことじゃないと許さないからな
「それがね、・・・屋根の上を走ってる死神だったのよ!!」
「「はぁ?」」
「なんでも大きな鎌を持っていたんだって。鎌持ってるんだから死神でしょ?」
その論理もどうかと思うが
「死神なんているわけないだろ。どうせ魚をくわえた猫を見間違えたんだろ」
「えー、そんなのつまんない」
「なんでもかんでも大げさに言おうとするな。それでも情報やか?」
「うー、でもその子は見たんだもん!」
「だから猫をだろ」
「ちっがーう!」
「相変わらず面白い漫才だな」
「どうやったら漫才に見えるんだ?」
いつもと同じ調子。でも気になる事がある
その鎌を持った人間というのはもしかして・・・?
そのときチャイムが鳴った
「全員いるか?・・・よし。特に連絡はない」
「お、1分切った。新記録だ♪」
穂実よ、そんなの調べてどうする?
3.
その後はつつがなく授業が過ぎていった
昼飯を食べた後の授業が眠く感じるのは俺だけではないはずだ。しかも木下がやっている古典はなにかの呪文にしか聞こえなくて余計に眠い
頭が下がり始める生徒がいても木下は注意をしない。本当に教師なのか疑いたくなる
そんな昼下がり。俺の身に急な変化が訪れた
(体が、重い・・・)
この感覚を俺は知っていた。昨日、真由ちゃんが能力を使ったときと同じ感覚だ
(まさか、真由ちゃんの身になにか!?)
俺がこのままここにいるわけにもいかない。俺は木下に体調が悪いといって早退した
相手が木下だからできることだ。穂実は仮病だと見抜いたような眼をしていたし、東条は手帳をこっちに向けていた。後で話せということだろう
とにかくのんびりしている暇はない。俺はとりあえず家へと向かった
家についた俺は玄関先に座っている真由ちゃんを見つけた
「真由ちゃん!」
「っ!朔君?」
「何かあったのか?能力を使ったみたいだけど」
「さっきまで綾さんが来てたんですよ。『練習を』って言いながら。用があるって言って帰っちゃったけど」
「なんだ、綾さんか。御影のやつが襲ってきたのかと思ったよ」
けど安心した
「そういえば朔君、学校は?まだ終わる時間じゃないと思うけど」
まだ2時過ぎだ。普通ならあと1時間以上は帰ってこない
「真由ちゃんが能力を使ったときは俺にも影響が出るっていったろ?それで真由ちゃんの身に何かあったんじゃないかと思って早退してきたんだよ」
「・・・ごめんなさい」
「いや、いいって。そういえば」
「はい?」
「真由ちゃん学校は?」
「・・・」
急に押し黙った真由ちゃん。学校のことで何かあるのだろうか?
「真由ちゃん?」
「行ってないんですよ、学校」
「え?」
「私の家は私が小さい頃にお父さんが死んじゃって、お母さんがずっと育ててくれてたの。でも、私が中学に入った頃からお母さん仕事をしなくなって。もともとお父さんが残してくれたお金で暮らしていて、それだけじゃ足りなくなるだろうからってお母さんは働いていたの。でも、変わってしまった」
「でも、どうして?」
いつなくなるか分からないから仕事をしていたのに、急にやめるなんて
「中学を出たらアルバイトが出来るでしょう?だからお母さん『わたしは十分働いたから今度は真由が働きなさい』って。育ててくれたお母さんの言うことだから私は働いたの」
そんないい加減な親がいていいものか、十分に働けない子供に仕事をさせて自分は何もしないなんて
「それだけならまだよかったのかもしれない」
「えっ?」
「数ヶ月前から貯金が一気に減ることがあったの。それでお母さんに聞いてみたら男の人の為に使っているんだって」
「そんな・・・」
「もちろんその時は怒ったわ。でも、お母さんはやめようとしなかった」
「それでも働き続けたの?好き勝手にお金を使われても?」
「いいえ、それからしばらくして怒って家を出ちゃったの。これ以上あの家の為にお金を稼いでも意味がないって分かったから」
「・・・」
「家を出てからは日雇いの仕事をしながら過ごしたわ。そんなときにこれが」
彼女の右手の印。確か一月前って言ってたっけ
「天見原までずいぶん距離があったからこんなに時間がかかったの。この街に着いたのがたしか5日前だったかな。この街で仕事を探そうとしたんだけど日雇いの仕事ってなくて。それで最後に行き着いたのが、あの公園」
あの時の真由ちゃんは本当に死ぬんじゃないかって思えるほど弱っていた。あの時俺が助けていなかったらどうなったのか、考えたくもない
「だからあの時朔君がここに連れて来てくれて本当に嬉しかった。この戦いが終わったらまたどこかに行かなくちゃいけないけど、今この時間があることがすごく嬉しいの」
「終わったら・・・、オヤジに話してみようよ。もしかしたらここにいてもいいって言ってくれるかもしれない」
「ホントに?」
「ああ。とにかく言うだけいってみよう。前みたいな生活に戻らなくちゃいけないって分かったら了解してくれるって」
「・・・うん」
「真由ちゃん?」
「・・・何でも、ないの・・・ただ、嬉しくて・・・」
涙を流している真由ちゃんを見て、俺は何も出来ずにいた
「とにかく、オヤジのところに行こうか」
「うん・・・」
「でも、どこにいるんだろうな?」
帰ってきたばかりの俺が場所を知っているはずがない
「少し前に神社の方に歩いて行ってましたよ」
「神社か、じゃあ行こうか」
とりあえず本殿に行ってみることにした
4.
思いのほかあっさりとオヤジは見つかった。本殿の中でなにやら探し物をしているようだ
「オヤジ」
「ん、どうかしたか?」
「何してるんだ?神棚をあさって・・・」
何か祭事でもないかぎり使わないものしかないはずなのに
「ああ。これを真由君に渡そうと思ってな」
「私に?」
「これだ」
そういって手渡せたのは小さな刃物。脇差というのがあるがそれよりも若干小さく、ナイフというには形が少し違う
「これは?」
「この神社の宝物・・・といえば聞こえがいいが、大した物ではない。ずいぶん前からこの神社にあったのだ、武器としても使えるお守りと思ってくれればいい」
「はぁ、ありがとうございます」
「それで、何か用だったんじゃないのか?」
当初の目的を忘れていた
「そうだった、実は・・・」
バキィィ・・・
「何事だ!?」
「外からみたいだ!とにかく行ってみないと!!」
慌てて外に出た俺たちが見たのは
夕日を背に立っている死神だった
「オイ!何してるんだよ!!」
俺は大きな鎌を手にしている人影にそう怒鳴った
「そこにいたんだ。探す手間が省けた」
予想に反して声が高い。人相がつかめないがおそらく女、いや少女といったほうがいいくらいの子だろう
「探してるって誰をだよ」
「君の後ろの女の子。御影が相手は高校生くらいの女の子だと言ってたから、君であってる?」
「待てよ。御影を知っているということはお前は宵闇の人間か?」
「うん。ボクの名は舞、宵闇舞。それで、そこの子であってるんだね?」
「ええ。あなたが探しているのは私です」
「やっぱり。それじゃあ始めようか」
「?お前のパートナーは?」
見る限り彼女ひとりしかいない。この場面で出てこないはずはないが・・・
「雅のことだね。彼女はボクみたいにどこでも走れるわけじゃないから。もうすぐ来ると思う」
その言葉の通り、階段を登って誰かが来た
「はぁ・・・はぁ・・・ごめんね舞ちゃん。遅くなっちゃった」
「いいの、それより始めるけど大丈夫?」
「わたしはいつでもいいよ」
「うん。じゃあ月村の人、始めよう」
「ええ」
夕日が落ち始めてて辺りはだんだんと暗くなっていた
5.
対峙する真由ちゃんと宵闇舞。張り詰めた空気が漂っている
「真由ちゃん」
「?」
「俺のことは気にしないで、全力で戦ってくれ」
俺の精神を気にして満足に戦えなかったら意味はない。だからそのことを気にせず戦って欲しいと思った
実際に戦うことなんか出来ない俺に出来ることはそれくらいだ
「そろそろいいかい?」
「はい」
「では、」
瞬間、鎌を持った少女の姿が消えた
「えっ」
「真由ちゃんっ横だ!」
「はっ」
何とか避けきることができたが予想外に動きが速い。あの鎌の重さを意に介してないみたいだ
今度は真由ちゃんが攻撃に出た。あの子みたいに早く動くことが出来ないのだろう。真正面だ
「はぁぁ!」
金属同士がぶつかる音。止められたか
「そんなものかい、君の力は?」
「くっ・・・」
お互いの力が均衡しているのか、決定打が出ないままの攻防が続いていた
「はっ!」
「・・・ふん」
ここまでは互角の戦いだ。だが気になることがある。宵闇舞の能力だ。パートナーの様子を見るとまだ力は使っていないようだ
使う必要がないのか、それとも、使えないのか・・・
そしてもう一つ。御影だ
この前言っていたように『手を組んだ』のなら、いまどこにいる?日向の方に行っているとなると手を組んだ意味がなくなる。月村と日向が揃うことを恐れたのだろうか?
「くっ」
真由ちゃんが押されている。力による正面突破にあとどのくらい耐えれるのか・・・
「ん?」
どうやら陽が落ちたらしい。辺りを闇が包み込み始めた
外灯という外灯がすべて破壊されていたのか、神社が明るくなる様子はない
「ふふっ、そろそろ前座はいいかな」
「前座?」
今までのは肩慣らしとでもいいたげな口調。何かが、来る
「雅。いいかな?」
「お構いなく」
「ふふ・・・」
「!?」
つばぜり合いを止め、鎌を持った少女はいきなり後退した
「真由ちゃん、気を付けろ。何がくるか分からない」
「わかったわ。・・・キャァ!」
いきなり真由ちゃんの正面に鎌が現れた。持ち主は10メートル以上はなれているのに
「ふふふ、まだ終わらないよ」
謎の攻撃が次々と真由ちゃんを襲う。このままだと・・・
「真由ちゃん!俺のことは気にしないで力を使うんだ!!」
どういう能力かは分からないが明らかにあの子は力を使っている。なら、真由ちゃんの力で無効化できるはずだ
「無効化させる気かい?それなら無駄だよ」
「!!どうしてそれを知ってる!?」
「御影のが言ってなかったかい?君たちのことは調べたって」
確かにそうだ。手を組んでいるのなら情報が入っていてもおかしくない
「・・・」
「無言なのは肯定ということかい?・・・まぁいいや。さっさと終わらせよう」
「っ!真由ちゃん!!」
あいつの言いなりになってはいけない、能力を使わせないはったりの可能性が高い
急な脱力感が俺を襲った。真由ちゃんが力を使った証拠だ
「なっ!!」
鎌が真由ちゃんの体をかすめた。無効化できてない!?
「やっぱりそうなんだ。君の能力はその刀が触れたときにだけ使われるんだね」
「真由ちゃん!」
「だい・・・丈夫、です」
そういう声は震えていて、とても大丈夫には思えない
「おい」
「なんだい?」
「お前の仲間の御影はどうしたんだ?」
ここにきていきなりの俺の問いに彼女は応えてくれるだろうか?
「いきなりそんな質問かい?あの子の体力が戻るまでの時間稼ぎのつもりかい?」
やはりばれたか。今は真由ちゃんの体力を少しでも回復させたい。その一心で話しかけたのだが・・・ここまでか
「御影はね、いま日向家にいるよ」
「!!」
「ああ、勘違いしないでね。このまますぐに終わらせるのもいいけど、彼女にはもう少し苦しんで欲しくなっただけ」
どんな形であっても時間を稼ぐことは出来そうだ。あとは、俺にかかっている
「なら御影はもうやられているだろうな。日向は強いぜ」
「そうなんだろうね。でも、倒してもらうのが目的じゃないから」
「なに?」
「君もやっている時間稼ぎさ。御影には私が月村を倒すまで日向を引きつけておいて貰うだけでいいんだ」
「一度に二人を相手にするのは無理なわけか」
「そうだね。まぁ、出来ないことはないだろうけど使える駒を使って確実にやりたいだけさ」
「確実に、ねぇ」
「そうさ。・・・さて、無駄話はここまでだよ。雅、もう動けるかい?」
「心配は無用よ」
「そういうことか」
俺が真由ちゃんの為に時間をとっていたようにパートナーの回復を待っていたのか
俺の考えが裏目に出たわけか
「じゃあ、終わりだね」
もう、ここまでなのか?
「ちょっと待ったぁぁ!」
「ん?」
正義のヒーローには決して向かないセリフだが、俺には光の姿がまさに救世主のように見えた
「おい、光」
「何?」
「綾さんはどうした?御影のやつも見えないし・・・」
「ああ、綾ならもう来るわよ」
その声の通り鉄扇を持った綾さんが境内に入ってきた。その後から―あれは弓だろうか?―御影奈姫も駆け込んできた
「大丈夫みたいだな」
「うん。あの子の攻撃って弓撃ってくるだけで綾が全部弾いちゃうのよ」
相性で言えば最悪な組み合わせだろう。時間稼ぎは出来たかもしれないが、体力は十分だ
「さて、これで話は振り出しに戻ったかな?」
実際にそうとは言い切れないがここは強がっておくべきだろう
「舞様、申し訳ございません」
「ふふ。別に構わないよ、君には期待していなかったから」
「・・・申し訳ございません」
向うの上下関係は相当な物のようだ。宵闇が御影を支配しているといっても過言ではない
しかし、そうなるとおかしなところも出てくる
「どうして御影が光たちの足止めをしたんだ?」
「へ?」
「いや、綾さんと御影奈姫の相性が悪いのは分かった。でも、そのことは向うの方がよく分かっていたはずだ。ならどうして俺たちの足止めをさせようとしなかったんだ?どのみち倒すつもりならできる限り弱らせた方がいいだろうに・・・」
考えてみればそうだ。宵闇舞には決定権があったんだ、そしてその結果御影を日向に向かわせるという策を講じた
当然それは能力を把握した上でのことだろうからこれは明らかな失策だ
「やはり気付いてしまうか」
「当たり前だろ。こうなることは分かっていたはずだ」
「ふふ、確かにそうさ。御影と日向の相性が悪いことなんで承知のうえだ」
「なら、どうして?」
「簡単な話さ。ボクが月村を倒したかったからさ。それを確実にするために御影を日向に向かわせた」
「どうして月村なんだ?」
昔から月村と宵闇は相互不干渉だったはずだ。今更狙われる理由はない
「どうしてって、それは君がよく知ってるんじゃないかい?」
「何のことだ?」
「知らないだって?ここの神主は何をやってるんだい?ここにあるはずなんだよ、秘宝と呼ばれるものが」
「秘宝だって?」
「そうさ。千年前に作られた秘宝。どんな物は分からないがここにあるそうじゃないか」
「そんな話は聞いたことがない。ないんじゃないか、そんな物」
「まさか、そんなはずない!」
「一体どこでそんな話を聞いたんだ?」
「どこでって。・・・まさか」
いきなり語調が変わった。俺たちの知らない何かがあるのだろうか?
「いまさら気付いても遅いと思うんだけどなぁ、舞っち」
「!?」
入り口とは反対の方、本殿の方から声がした
この場の空気に似合わない声の主はゆっくりとこちらに向かってきた
「もう君は用無しだね。ばいばーい」
「!!」
謎の女の子が宵闇舞のみぞおちに何かを突き刺した
「舞さまぁぁ!」
「君もうるさいねぇ、うるさいのは嫌いなんだよね」
軽い声。しかし言いようのない何か―殺気と呼ぶものなのだろうか―のこもった声
「うっ」
今度は左肩を刺した。得物はどうやら刀のようだ
「うるさいのはこれで終わりっと。残ったのは君たちだけだね」
刺された二人はもう戦えないだろう。残ったのは真由ちゃんと綾さん、そして向かいにいる女の子だけだ
「何者だ、お前」
「いってなかったっけ?私の名前は美空遥。そして後ろにいるのがパートナーの幸四郎だよ」
「最後の一つっていうわけか」
「うんっ」
これで全てが揃った。ここで決着をつけないといけないんだろう
「そこの子は大丈夫なの?私がやっつけちゃう前に死んじゃいそうだけど」
先ほどから何も喋ってはいないが息はある。ただ、戦えるかは・・・
「ぅ、私なら・・・大丈夫、です」
「・・・真由ちゃん」
俺が思っているよりも彼女は強い。まだ頑張れるというのは嘘ではないはずだ
「ふーん。じゃあさっさと終わらせよっ」
刀を構える美空遥。これでもう最後だ
「私も・・・いるから・・・」
真由ちゃんに加勢してくれる人もいる。この勝負、負けるわけにはいかない
「そうこなくっちゃ。ぞれじゃあ・・・」
最後の戦いが、始まる
6.
すこしの沈黙。空気が張り詰めているのがわかる
「真由さん。無理は・・・しないで」
気遣ってくれる綾さんの存在がとてもありがたい
「はい。でも、大丈夫です」
再び刀を構える真由ちゃん。その背中は傷つき、痛々しいが頼もしくもある
「それじゃあっ」
美空遥が走り出した。狙いは、真由ちゃん
真正面からの袈裟切り
「はっ!」
綾さんだ。鉄扇で刀を受け止めている
「真由さんに・・・手は出させません」
「ふーん。いつまでそうやってられるかな?」
まさに猛攻、しかし鉄扇の守りを崩すことはできていない
「あいつの能力は一体・・・?」
今のところ変わったところはない。何か秘策になりうるものなのだろうか?そうでなかったらこの勝負、綾さんに分がある
「遥の能力かい?」
ふいに声が聞こえた
「君はそれを知ってどうする?」
幸四郎といったか、俺の独り言にそう返事をしてきた
「どうするって、それを彼女達にい教えるつもりだ。まぁ、教えてくれるわけがないとは分かっているがな」
「うん、教えないよ。ただ、遥の能力は日向のとの相性が悪い。宵闇のとは最悪だった」
「宵闇のと?」
「君は宵闇の子の能力をしているかい?彼女の能力は刀をどこか、地面とかにだね、そこに潜ませることが出来る。要するに刀で遠距離攻撃が出来るんだよ」
10メートルは離れたところからの攻撃。そういう理由だったのか
「その能力は非常に厄介だったみたいでね、遥は普通に戦うことをしようとしなかったんだよ」
「それで気が動転しているあのときを狙ったのか」
「うん、そうでもしないと勝てないからね」
話によると宵闇舞の能力と相性が悪いということは接近戦型の能力なのだろう。そうなると綾さんは防ぐことができる
案の定綾さんは防御に徹しているものの、ダメージを受けている様子はない
だが、真由ちゃんがその間合いに入れていないから向うもダメージはゼロ。完全に互角の戦いだ
「うーん、やっぱり君の扇は厄介だね。このままだと話が進まないや」
「真由さんが・・・決める・・・」
綾さんは真由ちゃんに託している。そのために攻撃を出来る間を作ってくれているんだ
「それはまずいねー。だったら手加減はしないさ」
攻撃の数が増した。滅多打ちにして防御が間に合わないようにするつもりか?
「そろそろいくよ!!」
刀を真上に構えた。今までと気合の入れ方が違う
「はあぁぁ!」
扇を正面に構える綾さん、この攻撃を防げばおそらく隙が生じる
「はははっ」
「!?」
予想していた攻撃は来なかった
「あやぁぁ!!!!」
綾さんの右手に鎌の刃先がうまっていた
「どういう、ことだ?あの子は刀を持っていたはず」
能力の発動。この力は・・・
「見れば分かるんだよね、遥の能力は武器を自由に変えることができるんだよ。ずっと刀を使ってたのは刀しかないと思わせるためだね」
綾さんは刀の軌道上の攻撃なら防げた。しかし、まったく形の違う鎌に合わせることは出来なかった
「綾さん・・・」
「君だけだね」
鎌から刀に戻し、真由ちゃんの前に立つ美空遥
「真由ちゃん!」
立ってはいるものの、足がふらついているのが分かる
「私は、大丈夫ですから」
「・・・」
「君の能力は、相手の能力の無効化だったっけ?」
話が長引くのが嫌なのだろう。横やりを入れてきた
「ええ。だからあなたの能力も意味を成しませんよ?」
「わかってるよ。だから、能力は使わない」
どうせ無効化されるなら最初からその方法を排除して戦う。この状況ではもっとも有効な手だ
「さっさと終わらせようっ!」
相手の攻撃をどうにか受け止めている真由ちゃん。このままだと、まずい
「うっ・・・くっ・・・」
「はははっもう終わりそうだねぇ」
「うあっ」
「真由ちゃん!!」
ついに刀がはじかれた。もう、彼女を守るものは、無い
「うぅ・・・」
「今すぐ右手を出してくれるとありがたいんだけどねぇ」
「・・・?」
「そうすればさっさと終わらせる。余計な抵抗をされるとどこを刺すか分からないよ?」
「・・・」
・・・もう、ここまでなのだろう
「真由ちゃん、もうやめよう。これ以上は無理だ」
「朔君・・・」
「真由ちゃんは頑張ったよ。本当に、頑張ったんだ。だから・・・」
「私、諦めません」
「え?」
「綾さんや光さん、おじさんに朔君。皆が守ってくれたり励ましてくれた。だから、その気持に応えたい」
「真由ちゃん・・・」
「素直に負けを認めたほうがいいのかもしれないけど、私は最後まで自分を信じる」
「そうか。・・・わかった、だったら俺は後ろから祈っているから。だから、絶対に負けるなよ」
自分で戦う道を選んだんだ。後は見守るしかない
「うんっ、いい話だねぇ。でも、勝つのは私だからね」
「望むところです」
刀を構える真由ちゃんと美空遥。二人の間に一瞬の沈黙が生まれ、最後の戦いが始まった
「はぁっ!」
一進一退の攻防。手負いには見えない
「ははっ」
相手にはまだ余裕があるのだろうか、時々笑い声が聞こえる
「真由ちゃん・・・」
「遥はまだ余裕だね。このまま押し切るかな?」
「・・・」
このままではまずいのは分かっている。でも、どうしようもない
「きゃあぁぁっ」
真由ちゃんの刀が弾き飛ばされた。もう、手は残されていない
「君はよくやったよ。そんな傷で戦おうなんて普通は考えないよ」
悠然と刀を構える少女を前にした真由ちゃんの顔に、恐怖の色はない
「まだ諦めてないって顔だねぇ。でも、武器はもうないんだよ?」
「それでも、倒されるまで諦めません」
「そっか。じゃあ、さっさと諦めてもらおう」
刀を振り上げた美空遥。もう、終わりなのか・・・
「なっ・・・!?」
一体何が起こったんだ?
地面には肩に刀が喰い込んでいる真由ちゃんと刀を振り下ろしたはずの少女が倒れていた
「真由ちゃん!!」
「うぅ・・・」
よかった、息はある。でもどうして美空遥が倒れているんだ?
「遥っ!!」
幸四郎がそばに駆け寄ってきた。彼も不思議に思ったのだろう
「これは・・・月村君」
「どうした?」
彼は倒れている少女の右肩を指差していた
「これに見覚えはあるかい?」
「!これは、オヤジが貸してくれた小刀・・・」
お守り代わりだったそれが真由ちゃんを救ったんだ
「最後の最後で負けちゃうんだね。残念だなぁ」
たいして残念がってないように見えるんだが
「うぐっ、・・・朔君」
「今は喋らない方がいい。とにかく救急車を呼ぼう」
「・・・はい」
こうして、戦いは終わった
【終章】
その後の話になる
綾さんはそう酷い怪我をしていたわけじゃないから病院で治療を受けた日にはもう動けるようになっていた
御影奈姫と宵闇舞の二人、そして美空遥はそれぞれのパートナーがつれて帰ってしまったからどうなったかは分からない
あの戦いから1週間がたった。真由ちゃんはまだ目覚めていない
怪我の具合がかなり酷く、本来なら死んでいてもおかしくないほどのものだそうだ
いつものように病室で彼女の目覚めを待っていたとき
コンコン
「はい」
「お邪魔するね」
「光か、いらっしゃい」
学校帰りによってくれたんだろう。セーラー服姿の光は静かに病室に入ってきた
「今日はどうしたんだ?」
「どうしたって、真由さんのお見舞いに決まってるでしょ」
「はは、そうだよな」
「で、真由さんはどうなの?」
肩口から覗く包帯を見つめながら光はそう聞いてきた
「命に別状はないそうなんだが、まだ一度も目覚めていない」
「そっか」
「最後まで無茶した結果がこれだもんな。本当にこれでよかったのか・・・」
「朔君・・・」
「俺が止めておけばこんなことにはならなかったのか?俺が・・・」
こんな自己嫌悪に意味はないことは分かっている。でも・・・
「あっ」
「どうしたんだよ?」
「いま、真由さんが動いたような気が・・・」
「!!」
指先が動いた。目を、覚ましたんだ!
「真由ちゃん・・・!」
「朔君。私ね、夢を見たよ。此月姫様の夢」
「ああ」
「夢の中でね、『あなたの願いは何か』って訊いてきてね」
「ああ」
「だから私応えたよ」
「何て応えたんだ?」
「『皆にとってもっとも幸せな日常を下さい』って。私だけじゃいけないの。朔君や光さん、今まで出会った全ての人が幸せに暮らせる時間がほしかったの。私にはたいした願いがないから・・・」
「真由ちゃん・・・とにかく、先生を呼ぼう」
こうして、俺たちの戦いは終わった
傷が深すぎたため入院は2ヶ月にも及んだ
それからさらに2,3日経った夕方。一人の客人がやってきた
その客人は一週間ほど前に病院に搬送された少女の唯一の身内で、病院から連絡を受けてここにきたそうだ
言うまでもない、真由ちゃんの母親だ
客間には俺、オヤジ、そして真由ちゃんとその母親がいた
「真由」
「何?」
「急に家を出て、お母さんびっくりしたのよ?しかもそんな大怪我までして・・・」
「私は、家にいたくなかったのよ」
「あの人のことね」
「お母さん、どんどん家のお金を使って、私だけが苦しんで、あんな家にいたいと思う方がおかしいよ」
「そのことは謝るわ」
「謝られたって!」
これが真由ちゃんの本音だろう。こんなにも悲しいものを背負っていたんだ
「あの人とは別れたわ」
「え?」
「真由が出て行ってから私ね、考えたのよ。どうして真由が出て行ったのかって」
「・・・」
「そしたら思い当たることがいっぱいあってね・・・。だからひとつずつ直していった」
「うん」
「これからはお母さんもまた働くわ。真由だけに押し付けたりしない」
「・・・うん」
「だからね、真由。私のところに戻ってきて」
「お母さん・・・うわあぁぁ」
真由ちゃんが初めて見せた涙。けど、それは悲しいものじゃなく、むしろとても温かいものだった
「それじゃあ、いままで娘がお世話になりました」
「いえ、これからは娘さんをきちんと見守ってやってください。一見しっかりしているようでも中身はまだ幼いものですから」
「はい・・・真由、いくわよ」
「うん」
真由ちゃんの住む所まではずいぶんと距離がある。もう会うことはないだろう
「真由ちゃん!!」
「朔君?」
「今までありがとうな。辛いことだらけだったけど楽しかった」
「私もだよ。ありがとう」
「ああ」
別れるのは寂しい。でも、これが一番幸せな終わり方だと思う
「真由」
「はーい。じゃあね朔君」
「おう、じゃあ――」
俺の口はやわらかいものでふさがれて、最後まで言うことは出来なかった
「真由ちゃん」
「朔君も幸せになってね!!」
「おう!」
いかがだったでしょうか?
当時の自分が何を考えてこの作品を書いたのか、今では覚えてないですが、楽しく書いた記憶はあります。
すこしでも皆様の記憶に残れば幸いです。
現在、「君の名」という小説を執筆中です。
よければそちらもご覧ください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしております。




