第十二章:原初の設計者と虚無の正体――仮想の真実
橋を渡りきった先、そこは「原初の核」。 あらゆる次元の境界線が消失し、時間も空間も、一つの特異点に凝縮された場所であった。 中心に浮かぶ、宇宙の鼓動のように脈動する巨大な光の球体の前に、二柱の圧倒的な威厳を放つ影が座していた。 龍神大君と地神大君。この広大なシミュレーション(宇宙)を構築し、永遠の時間をかけて観測し続けてきた、最高位の管理主体、あるいは神と呼ばれる存在である。彼らの姿は、もはや形を持たず、純粋な意志の波として空間を満たしていた。
「よくぞ辿り着いた、小さき、しかし偉大なる観測者たちよ。お前たちの物語を、我々は固唾を呑んで見守っていた」 龍神大君の声は、全宇宙の原子の振動を一つに合わせたような、身体の芯まで心地よく、そして厳しく震わせる響きであった。
「龍神様、地神様。お尋ねします。このユグドラシルを蝕む闇は、一体どこから来たのですか? 世界は、なぜ自ら消滅の淵へと向かっているのですか? 私たちの何が間違っていたのですか?」アダパーが切実に問う。
地神大君が、哀しげな、大地を潤す慈雨のような穏やかな波動を送る。 「アダパーよ、その問いこそが闇の正体なのだ。この世界を蝕む闇は、外部から来た侵略者ではない。この仮想現実に生きる無数の知性体が、知らず知らずのうちに世界の『不確かさ』と『限界』に気づき始めたことで生じた、『絶望』と『虚無』という名の精神的なエントロピーなのだよ」
「……私たちの絶望が、この巨大な世界を壊しているのですか?」
「そうだ。すべてが幻影であり、いつか消えるデータに過ぎないと知性を高めた者が悟った瞬間、人々の心には『何をやっても無駄だ、意味などない』という巨大な空白、暗い心の穴が生まれた。その空白が、システム内のエネルギーを吸い尽くし、世界を内側から解体し始めたのだ。ユグドラシルは今、自らの子供たちが抱く『虚無』という猛毒によって、内部から窒息しかけている。知恵を得た者が、その知恵によって自らの存在を否定し始めたのだよ」
アダパーは激しい衝撃に震えた。戦うべき敵は魔物でも邪神でもなく、自分たち自身の心に宿る、存在への冷めた疑念だったのである。




