表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厨子の祝宴  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

21話 行方不明者

「さて。じゃあ、帰ってお昼の準備を……」


 しようか、と声をかけたとき、「おーい」という呼びかけと、近づいてくる駆け足に気づいた。


 振り返る。


 ちょうど自分たちが来た方向から、ふたりの男性が腕を振りながら近づいてきた。

 まだ年が若い。三十代というところだろうか。


「あんたたち、この道をずっと歩いてたのか?」

 太り気味の男の方が、肩で息をしながら志摩と奏斗に尋ねた。


「おばちゃんの雑貨屋で、さっきまでラムネを飲んでたんだ」

 奏斗は知り合いなのだろう。気さくに話しかけ、首をかしげた。


「どうかしたのか?」

忠司ただしのやつ、見なかったか?」


「忠司?」

 奏斗と声がそろう。


「佐々木忠司。昨日の晩から姿が見えないらしい」

「昨日の晩、って……。あ⁉ もう、道が開通したのか⁉」


 声を弾ませる奏斗に、男たちが首を横に振って見せる。


「まだだ。まだ、開通してない。それなのに、忠司がどこにもいなくって……」

「今、隣保りんぽが中心になって探してるんだ。まあ、こうやって分家も手伝ってんだけど」


「忠司って、新婚じゃなかったっけ? 奥さん心配してんじゃね?」


 奏斗が尋ねる。男たちは顔をしかめた。


「まあなあ……。あれだけ忠司が惚れて、おれらも嫁取りに手伝わされたぐらいだから、失踪じゃないと思うんだけど……」


「へー……。あの真面目そうな男が大恋愛?」

 奏斗が苦笑いする。


「大恋愛っていうか……」

「忠司の愛が重すぎるな……。あいつ、幼稚園の頃から好きだったんだろ?」


茉奈まなちゃんも、目をつけられたのが運のつきだよ」


 志摩からすれば、初恋を貫いたのなら、純愛だと思うのに、男たちはどうにも複雑な顔をしている。


「消防団で知ってるんだ。分団違うけど」


 ひとり話題に取り残されたと思ったのだろう。奏斗が小声で教えてくれた。


「忠司って、真面目を絵にかいたような男だけど……。急に、村の女の子と結婚したんだよなぁ。なんか、ばたばたー、っと」


「まあ……。忠司が責任取るって形でな」

 男たちが思わせぶりな目配せをしているが、奏斗は気づかないらしい。


「決まる時はあっさり決まるもんだなぁ。いいなぁ」

 若干うらやましそうに奏斗が言うから、男たちはあきれて彼を小突いた。


「お前は責任とってないだけだろ」

「そうだよ。学生時代は、本当に次々と……」


「言い方悪ぅ。おれは責任取りたかったんだぜ? それなのに、女が逃げるんだよ」

 奏斗の言葉を男たちは流し、再び顔を引き締めた。


「とにかく……。ひょっとしたら山狩りになるかも。そのときは、奏斗にも声をかけるから、よろしくな」


 細身の男が両手を合わせて奏斗に頭を下げる。


「別にいいけど……。佐々木家が、失踪……ねぇ」


 奏斗は眉を曇らせた。


「じゃあ、また」

 戻っていく男たちをしばらく眺めていたが、奏斗に声をかけられ、志摩は彼を見た。


「なんか、変じゃね?」

「そうだね……。どこ行ったんだろう」


 頷くと、奏斗は口ごもる。そのまま、歩き始めた。


「なに? どうしたの」

 その後を追って尋ねると、奏斗は、がりがりと首の後ろを掻いた。


「いや……。みんな、本家だな、とおもって」

「なにが」


 きょとんと目を丸くすると、奏斗は指をさす。

 方角は、村の北東。竹林が目立つ山際だ。


「斜面を滑って竹で怪我した羽村のおっさん。そんで」


 次に北へと指先を移動させる。

 示すのは、同じく村の際で、檜林が並ぶ山裾。


「軽トラで転倒した安室のじじい。それから」


 ぐるり、と身体をねじる。

 次に奏斗の視線がとらえたのは、ドクターヘリが降り立った南西の放棄田。

 こちらも直ぐ側にあるのは、岩場の目立つ山肌だ。


「加賀家の当主も昏倒してドクヘリ。おまけに……」


 さらに身体を回す。

 東南を指した。藤蔓の絡まる低木が広がる山。


「佐々木家もこうやって行方不明」


 羽村、安室、加賀、佐々木。

 奇しくも、〝厨子の祝祭〟を取り仕切る六家のうちの四家だ。


 奏斗の言う通り、いずれも、本家。

 六家は、村を取り囲む山の裾に点在し、村の住人は、この六家のいずれかの分家だ。


 ぞ、っと背筋に冷たいものが走った。


 思わず、村の南を見る。

 そこにあるのは、祖母の家。


 七塚家も、六家のひとつだ。


 自分にも。

 何か起こるのではないのか。


「変じゃないか? やっぱりこれ……」

「お厨子が……。関係してる?」


 志摩は呟く。


 六家を巡る厨子。

 それは現在。

 歩みを止め、七塚の家にある。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ