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厨子の祝宴  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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19/38

18話 写真

「あなた、七塚のお嬢さんだねぇ」

 しわがれた声に、志摩は老婆に顔を向けた。


「〝厨子の祝宴〟、お疲れさまでした。いいお参りでした」

 頭を下げられるので、志摩も慌てて返礼をする。


「こちらこそ、至りませんで……」

「いいえ。さすが七塚。他の当番家とは、やっぱりねぇ。雰囲気が違いますよ」


 ふるふると首を横に振る。


「女人塚を守っておられる家はやっぱりね。お厨子さまも落ち着いておられるというか」


「にょにん、つか」

 志摩はオウム返しに繰り返した。


「今からお参りですか? 塚守つかもり、大変ですねぇ」

「ねー」


 幼女が大声で言い、奏斗が「ねー」と合わせて見せると、さらに大声で笑った。


「あの……、塚の意味って、なんでしょう」

 志摩は腰を屈め、老女に目を合わせる。


「あの塚には、いったい……」

「あら」


 老婆は頬かむりの向こうから目をすがめる。


「おばあさんから、聞いておられない?」

「……ええ」


 じじ、とすぐ側で蝉が鳴き、志摩は肩を竦めた。こちらに飛んできそうな気配があったが勘違いだったらしい。


「祖母は……。まだ、意識が戻らなくて」

「そうですかね……」


 老婆はもう一度背中を揺すって幼女を抱えなおすと、頬かむりの向こうから志摩を見た。


「可哀そうな女の人たちの塚ですよ。大事にしてあげてくださいな。では」


 奏斗と志摩に頭を下げると、老婆はなにやら歌を歌いながら、幼女を背負って墓場を後にした。


「可哀そうな、女の人……?」

「なんだろうな。七塚のばあちゃんは知ってるそぶりだな」


「うん……。だったら、お母さんが、なんか聞いてる可能性あるよね」


 ワイドパンツのポケットからスマホを取り出し、志摩はLINENアプリを起動させる。奏斗が先に立って歩きだし、志摩はその後を、ビニール袋を肘にかけて続いた。


『お母さん。七塚のお墓の裏にあるにょにん塚って知ってる?』

 見てないだろうと思っていたのに、既読はすぐについた。


『知ってる。あの、土が盛られたやつでしょ?』

『由来は?』


『知らない。なんか、おばあちゃんが、代々うちは祀ってるとかなんとか。その程度』


(祀る、ってことは……。いいもの、ってこと?)


 志摩はメッセージを見つめる。


 さっきの老婆は、『可哀そうな女の人たちを大事に』と言っていた。

 もっと詳しいことを母に聞こうと思ったら、すぐに次のメッセージが来る。


『それより、天候は? 大丈夫?』

 まだ悪天候が続いていると思っているのかもしれない。


『平気だよ。いい天気。今、お墓参りに来ています』


 志摩は七塚の墓の前で立ち止まる奏斗と並び、カメラを立ち上げる。


「墓場で撮るのか?」


 奏斗は苦笑いするが、昨日と同じように顔を近づけてくる。志摩も、昨日よりは抵抗なく写真を撮り、送信した。


「お母さん、知ってるみたい。なんかね、長年祀ってるらしいのよ。だけど由来は知らないみたい」


 ポケットにスマホをしまい、奏斗に告げる。彼は、というとすでに墓の裏を見ていた。志摩も倣う。


 あった。

 夢の、いや、記憶のとおりだ。


 土が盛られ、その一番上には丸石が置かれている。


「へえ、本当にあった。碑文とか、そんなのはなさそうだな」


 奏斗はきょろきょろと周囲に視線を走らせていた。


 七塚の墓は墓地の最奥だ。

 斜め前に、安室家や加賀家の墓が見える。


「……今、気づいたけど、このあたり厨子の当番家の墓ばっかりだな」


 奏斗が順に指をさす。


「安室、加賀、佐々木……。あっちは、田淵、羽村……」


 確かに、七塚の墓を中心に半円形にそれらの墓は並んでいる。


 そして。

 一番奥にあるのが。


 塚。


「そう、だね」


 訝かしく思いながら返事をする。その関連性についてはまったくなにもわからない。志摩は手に提げていたビニール袋から紙皿を取り出した。


 祖母は素焼きの皿を使っていたが、家のどこにあるのかわからない。奏斗に相談したら、『ばあちゃん世代は素焼きだろうけど……。あれだって、使った後、割って捨てるだろ? 現代は紙皿だ』胸を張って答えられたので、紙皿にしてみた。


 塚の前に置き、菓子を並べてみる。できるだけ見栄えよく盛ろうと思うのに、奏斗が羊羹を立ててみたり、まんじゅうを縦に積んだり、と邪魔ばかりをする。


「もう、おもちゃじゃないんだから。やめて!」


 志摩が小突くと、奏斗は笑って手を止めた。

 そのとき、ポケットに入れたスマホが通知音を鳴らす。


「あ。お母さんからかな」


 ひょっとしたら何かを思い出したのかも、と立ち上がり、スマホを取り出した。画面をタップする。


『それ、なに』


 真っ先に目に入ったのは、母からのメッセージだ。


(それ、なに……?)


 なんのことだろうと、スマホを持ったまま首を傾げる。


「どうした?」

 奏斗が近寄り、画面をのぞき込む。


「なに、って……?」

 彼も訝かし気だ。


「わかんない」 

 首を横に振った時、ぴろん、とまた通知音が鳴る。今度は泉水だ。


『やだあ。心霊写真!?』

 そして、いくつものスタンプが続く。


「え。写真……?」

「さっき、撮ったやつか?」


 額を突き合わせ、志摩は画面をスクロールした。


 泉水のスタンプ連打で、だいぶん画面が進んでしまった。さっき、奏斗と映した写真まで戻していく。


「あった」


 人差し指を画面で固定させる。


 そこには、奏斗と志摩が顔を並べて映っていた。若干、焦点が合っていない。

 奏斗は、画面に対して斜交いにしているため、眩しそうに目を細めており、志摩は、カメラに向かって生真面目な表情を作っていた。


「お前、手ぶれひどいな……」

「……なんていうの? いっつも躍動感あふれるの、私の撮った写真って」


 奏斗と言いあいながらも、この写真の何が変なのか、と視線を上げていき。


 身体が、強張る。


 ぴこん、ぴこん、と通知音が続く。画面上部に出てくるメッセージが煩わしい。いずれも泉水だ。からかっているのだろうが、しつこい。


「……お前が見てる幽霊って、これか……?」


 奏斗が尋ねる。

 志摩と奏斗が並んで映った写真。


 その背後に。

 伸びあがるように、異常に長身な真っ黒な影が映っていた。


 いや、影じゃない。


 長い髪を振り乱し、

 眼窩に闇を宿した女が。


 志摩と奏斗を見下ろして立っていた。


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