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黒鳥〜カラス

こちらは、私が以前から投稿していた「黒鳥奇譚」の再編集版、修正版です

皆さんはカラスといえば何を思い浮かべるだろうか。

 不吉な鳥、とか、ゴミを食い漁るイメージを持つ人もいるだろう。どれも間違いではないだろう。

 これはそんな[カラスを操る能力]を持ち、大いなる運命を背負った一人の少年の物語である。

        【黒鳥奇譚(こくちょうきたん)

 郊外にそびえる森。その森を隠すような分厚い霧の壁。

 これは僕が5歳の時の、そして最もはっきりと憶えている記憶だ。


「はぁはぁ、ねぇここどこ!?」

 泣きそうな声で叫んでも、答えは返って来ず、声は深い森の静寂に吸い込まれる。

 湿った草木を踏み、いつもだったら拾っているどんぐりや剣みたいな形の木の枝も、この時はいっさい目もくれずに歩き続けた。

 

 この日も僕は、いつもみたいに友達と一緒に遊んでいた。

 自分が住んでいるところから少し離れた、遊具が何もない公園で。

 そしたら、たくさんのカラスが急に飛んできて、“ついてこい”と言わんばかりに周辺を飛び回ったり、僕の服を引っ張った。

 友達は気味悪がって「帰ろうよ」と言ってくるが、僕にはなぜか、そうしてはいけない気がしてならなかった。


 そしてついて行った結果が、このザマだ。

 この不気味な森を歩きまわって、すでに1時間ほどたって、少し開けたところに出た。

 その真ん中にとても大きな木がたっていた。神社とかで、縄が巻かれていそうなほど大きかった。その周りには青白く光ってる、彼岸花みたいな花が大量に咲いていた。

「こんな花、見たことない」もっと近くで見てみよう、と思って足を前に出すと、たまたまそこにあった木の枝を踏んでしまい、パキッと枝が折れる音が響いた。

 その音を聞いて驚いたのか、バサバサバサ、と木に大量に止まっていたカラスが一斉に飛び立った。

 それは“カラスの大群”と言うより、まるで一匹の真っ黒な怪物が這い出てきたようで、僕の視界を黒く染めた。

 その光景に恐怖を感じた僕は、大きな声で泣いた。迷子になり“もう家に帰れないでは”、“自分はもう死ぬんだ”という不安を抱いていた5歳の子供の涙腺を壊すなど、とても容易いことだ。

 周りの葉を揺らすかのように泣き叫んだ。

 しかし、僕のSOSに、誰も応えないのと同じく、何も動きはしない。まるでこの森が棺桶の中だとでも言うように。

 泣いている僕の目の前には、抜け落ちた黒い羽根が風に吹かれ、ゆらゆらと宙にとどまっている。

 しかし、僕が欲していた自分以外の音は、最悪の形で現れる。沈黙していたはずの森が、突然、微かに息を吸い込むような気配を帯びた。

「ガルルル」

 僕の泣き声を聞きつけ、この闇の底からオオカミが現れた。

 いや、違う。あれはオオカミの形をしているがオオカミでない。耳まで裂けた口、右目だけ赤く、ところどころの骨があらわになった異形の"化け物“。

テレビで観た、「アオォーーン!」みたいな遠吠えではなく、まるで悪魔に取り憑かれているかのように、低く霞んだ「グゥオアー!」と精神の底から不安を煽ってくるような鳴き声。

 恐怖はさらに大きくなり、脚がすくんで地面に膝をついた。逃げようとする頭と、逃げようとしないで石のように動かない身体。

(殺される…いやだ)

 僕の体がバラバラになるところは見たくないから目を瞑った。諦め、諦め、諦めても、まだ“生きたい”と心の底から渇望した。

 目を閉じているからわからないが、ガサッと地面を蹴る音がしたから、飛びかかってくるのがわかった。

 怖い、見たくないと思ってたのに、なぜか目を開いてしまった。身体の奥底の“生きたい”と言う渇望が駆け巡り、カラスが現れた。

 あれは決して見間違いじゃない。僕をここに導いてきたやつとか、普段街を飛んでいるやつじゃない。僕の内側から現れてきた、謎の存在だ。

カラスが間に現れ、くるっとその場で回って勢いをつけ、オオカミに体当たりを喰らわせた。

 カラスの体当たりでオオカミが吹っ飛ぶ。

 常識的に考えて、この体格差なら決して有り得ない。

 飛ばされたオオカミは一旦地面でバウンドしてから、頭から尻にかけて段々と上がるようにして、再び構えてくる。

 体当たりされた箇所からは血が出ている。

奴の標的は既に僕ではなく、謎の黒い鳥に移り変わっている。

 オオカミが1、2回呼吸をする度に、カラスもそれに応じて羽を1、2回震わせる。その間、緊張の糸がギリギリまで張り詰め、決着の瞬間が迫った。

「咬まれる!」と思ったが、それをカラスがオオカミの両顎を掴み、動きを止めた。

 そのままクチバシをオオカミの喉元に突き刺すと、噴水のように血が吹き出し、地面に落とされても、何の動きもしなくなった。

「すごい」僕はポロッと言葉を漏らす。普通に生活していたなら、絶対に有り得ないこの状況に、少しグロい状況に、さっきまで流していた涙を乾かして、楽しんでいる自分がいる。

 カラスはとどめを刺すために、皮の禿げた所から肉をえぐり、大きな肉の塊、多分心臓を食い破った。

 その後はカラスについていくと、森の外に出ることができた。

 はっきりと憶えているのはここまでで、それ以降のことは、全くと言っていいほど、覚えていない。

 唯一覚えいるのは、このことを友達に言っても、誰も信じてくれなかったことだけである。


「あぁ〜ーぁあ、つまんな」

 僕は体育館のパイプ椅子を“ギシ”と鳴らし、そう心の声を不意に漏らした。

 流石にまずい、と思い急いで口に手を当てるが遅かったようだ、隣の女子が流れている涙を拭うのをやめ、僕を睨んでくるのがわかった。いや、僕以外のほとんどの人が泣いてるし、僕を睨んでいる。

 まぁ、当たり前か。中学校の卒業式の、これからお別れだっていうのに泣きもせず、愚痴をこぼしているのだから。言ってるんだから。「雰囲気を守れこのバカ!」と言わんばかりの視線が刺さって痛い。

 幸い校長が話してる時だったから僕のクラスの範囲にしか聞こえてないようだ。

 

 仕方がないだろ、特に悲しくもなんともないんだから。

 部活、勉強、学校行事、特に思い入れがない。ぼっちだったわけじゃない、普通に友達はいたし、女友達もいる(彼女はいないけど)。

 勉強もまぁまぁだったから、進路は[滑り止めの粘着力が低すぎた時ようの、滑り止めの高校]に受かったて感じ。

 ただいまひとつ本気になれない自分がいる。

 そんな微妙な生活を送ったこの場所(中学校)の卒業式など、面白くもなんともない。

(なんでヒーターが教師の席と来賓席にしかないんだよ…主役はこっちだ)

 考えれば考えるほど嫌味しか出てこない。(ハゲ校長、話長い、早く終われ)

 あまりに暇すぎて足を組んで、腕を後ろにまわしてリラックスすると、とうとう担任の視線までもが参戦してきた。流石にこれはまずいな。


(にしても…(れん)、アイツが居たらもう少し本気になれて、泣けたのかな…)

 中学2年の夏、誰にも言わず転校して行った。噂によると両親が事故死したらしい。

 でも遺体がないだとか、何者かが家を襲撃したとか、一時期そんなウワサが絶えなかった。

 それでも一週間程度でもすれば、誰も話さなくなった。もう一度会いたい。

 

 そんな思い出にふけっていると、トントン、と肩を叩かれる。

(チッ誰だよ、うるさいな)

「何?」と顔を上げると、隣に座っていた女子が、呆れた顔で卒業証書を見せてきて、今度は舞台の方を指差す。

 その先に立っている校長の顔も同じく呆れている。

「あぁー!やばい!」自分の番に気が付かなかった。舞台まで走り、階段を上がって息を整える。

 クスクス、と笑う友人の声より、やれやれといった感じの、小さいため息がより大きく聞こえる。

 最悪だ、本当に。でも、まぁ、こんな最後もありと言えば…アリなんだろうか。

 うだうだ言ってもしょうがない。

 卒業ソングにありがちな歌詞だけど、僕は、未来に向かって歩き出さねばならないのだ。

玲渡 廻(れいら めぐる)」「ハイ」

 ここの返事でふざける動画が頭によぎり、一瞬心が揺れたが…思い出し笑いで留め、普通に返事をする。

 

 5歳のときの、あの森での出来事以来、なぜか僕の周りにはカラスが飛んでいるようになった。

 そして、またいつか、あの日みたいに超面白いことに、僕を巻き込んでくれるのではないか。そう期待してる僕がいる。

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