36.【完結】木漏れ日の中で
ーーーあの後、私は驚きの連続だった。
ミッシェルが、負債を抱えて売却されたお父様の店、「オーロール」を買い取っていたというのだ。
さらには、今住んでいるあの家も、お父様から権利を買い取ったとのだと言う。
しかもミッシェルは、お父様達が踏み倒した借金をすべて返済し、ルフェーブル子爵家の権利を買い取って、立ち直らせたというのだ。
それからルフェーブル子爵家で昔から働いていた使用人達を、ほとんど解雇したらしい。
理由は、私やお母様を虐めていたからだと。
子爵家には新しく、誠実そうな使用人を雇ったという。
「元々は君が嫡子だ。当然の権利だよ。」
つまりルフェーブル家は私に委ねると、ミッシェルはあっさりと笑った。
夜逃げしたお父様やミランダ、ジェシカの行方はまだ分かっていない。
もしかしてあの雪の日の三人組がそうだったんじゃかいかと思う事もある。
あの後三人は、どこに行ったのだろうか?
虐げられてきた分、簡単に許す事はできないけれど、どこかで無事でいてくれたらと願う。
年が明け、冬の木漏れ日が降り注ぐ中、今日は私とミッシェルの結婚式ーーー。
「わあ、すごく綺麗だね。アンジェラ。」
「ふふ、そう?ミッシェルもすごく、新郎服がお似合いよ。」
純白の私のドレスと、お揃いの新郎服を着たミッシェル。
綺麗な金髪が後ろ側に流すように整えられ、神秘的な紫瞳は今日も変わらず素敵だった。
優しい目元や上品な立ち振る舞いは、完全に王子様。
白い正装着がよく似合い、気品がある。
「僕はともかく、君のドレスは、belleで特別に作らせたものだからね。
君の美しい肩、細い腕、引き締まった腰のラインを重点的に目立たせるように、設計させたんだ。」
「おい!俺だってアンジェラのために、一役買ったんだ!
ミッシェルだけの手柄じゃないぞ?」
ひょこっと、ミッシェルの背後から現れたのはトリスタン様だった。さらにはガスパルまで。
二人とも黒の紳士服に身を包んでいて、普段よりももっと輝いている。
「俺もいるぞ!アンジェラ、本当に綺麗だ!
ミッシェルにやるのがもったいないくらい!」
「ちょっと、ガスパルさん!」
三人組が集まると、その場所はいつだって賑やだ。
その時、ふとミッシェルが服のポケットから何かを取り出した。
「忘れてた。これ、アンジェラ。」
「それは……!」
「そうだよ。君のペンダントだ。結婚式に渡そうと思っていたんだ。」
それはハート型の飾りがついた、あの時売ってしまったペンダント。
まさか見つけて、買い戻してくれたの?
「これのお陰で君の居場所が分かった。」
「ミッシェル…!あなたって人は…本当に。」
「アンジェラ?泣かないで。今日は笑顔になる日だよ…」
「「あーあ、新婦を泣かせて。」」
嬉し涙を流す私を、オロオロと見つめるミッシェル。
背後からそれを冷やかす二人。
だけど泣かないなんて無理だ。
こうやって何度も、ミッシェルの愛の深さに驚かされるから。
私達は神と神父様の前で愛を誓い合って、指輪の交換をし、キスを交わした。
まさかこの日を本当に迎える事ができるなんて、本当に夢のようだ。
「おめでとうー!」
「アンジェラ、ミッシェル!結婚おめでとう!」
チャペルの前で鳴り止まない拍手。
式を終えて私達を出迎えてくれたのは、ラポルトさん夫妻にコリンヌさん、ジャノさん、ヨランドさん達。
子爵家の使用人達に、オーロールの従業員。
belle商会の関係者に、かつて侯爵家で一緒に働いていた使用人達。
終末にボランティアで訪れていた教会の牧師様に、シスター、子供達。
結婚式に招待された人数は、庭園に入りきらないほどだった。
皆の歓声に、私とミッシェルは笑顔で手を振った。
その日、両親のいない私やミッシェルに、両親のように接してくれたのは、トリスタン様のご両親、つまり旦那様と奥様だった。
「おめでとう、アンジェラ。それに、ミッシェルくん。」
「アンジェラ。良かったわね。幸せにね。」
情に熱いお二人は、やはりトリスタン様にそっくりだった。
あの時、幼い私をこの二人が受け入れてくださらなければ、私はもっと早くに飢えや違う理由で死んでいたかもしれない。
ミッシェルが言った通り、これまでの出会いは運命ではなく、私自身が引き寄せたものだったのかもしれない。
数少ない善良な人々に出会い、それを手繰り寄せた、わずかな奇跡。
もしそうなのだとしたら、私は私の掴んだ幸運を大事にしよう。
それに私、亡くなったお母様に愛されていた事が分かったから。
前日ーーー偶然、あの家で見つけたお母様の手紙。
『アンジェラ。私の愛おしい天使。
この世に産まれてきてくれて、本当にありがとう。』
お母様は確かに私の誕生を喜び、私を愛してくれていた。
一方で、お父様の裏切りを予想していた。
引き出しの奥に隠されていた手紙の束の中に、二人の仲違いの真相や、それでも捨てきれない愛を綴った言葉が並べられていた。
『アンジェラ。あなたのお父さんは、私にずっと不満を抱いているみたい。
子爵家の娘だから、君には平民の私の気持ちは分からないと…何もうまくいかないのは、私のせいだと……』
『弱い人なの。私が守ってあげなくちゃ。
だけどアンジェラ。
もしもお父さんがあなたを見捨てるような真似をしたり、私があなたを守ってやれない時は……
あなたはあなたの好きに生きるのよ。
その時は、ごめんね、アンジェラ。
弱い母だと、許してね。
けれど、これだけは忘れないで。
私はあなたを心から愛しているわ。』
この家で暮らしていたお母様は、すでにお父様とは不仲だったのだろう。
だからお父様は、自分を理解してくれる平民のミランダに愛を求めたのかもしれない。
「お母様。私はもう大丈夫よ。
奇跡が起きたの。
死ぬはずだった私を、ミッシェルが助けてくれたの。
本当にすごい人なのよ。だからもう、私は大丈夫よ。幸せになるわ。安心して…………」




