表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/53

34.誰も知らなかった結末


 ✁┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 数ヶ月後——。

 その日私は、ピクニック用のランチボックスに、手作りのサンドイッチを詰め込んだ。


 今日は朝から、ラポルトさん夫妻とコリンヌさんが我が家に訪問し、お互いに手作りした料理を交換をした。

 私は床にしゃがんで、コリンヌさんにおすそ分けのサンドイッチを手渡し、彼女の髪を撫でる。


 「コリンヌさん。今日は家族で、ボートに乗りに行くんだってね。楽しみだね。」


 三人には、あの日以降もすっかりお世話になっている。優しい隣人に、常に感謝する日々。


 「ええ!本当に楽しみよ。

 ねえアンジェラ!ところで、ハムカツサンドは入ってる?」


 「ふふ、もちろんよ、コリンヌさんの大好物だもの。」


 「わーい、やったあ!アンジェラ大好き!」


 大喜びで私に飛びついてくるコリンヌさん。

 私にも娘が生まれたら、こんな感じなのかしら。

 こんな風に可愛くて愛おしい、存在になるのね。きっと。

 

 「ありがとう、アンジェラ。あ、そういえば、この前のリボン、補修ありがとう!

 縫い目も丁寧で、どこが解れていたかも分からないくらい、完璧だったわ。

 あれからコリンヌが、喜んでちっとも手放さないのよ。また何かあったら、お願いするわね。」


 「こちらこそ。いつも店をご利用頂き、ありがとうございます。」


 「あ、そうだ!アンジェラ。

 今度、ヨランドさんの出演する、大きな舞台が決まったらしいんだ。

 良かったらジャノさんも誘って皆で行こうよ。」


 ラポルトさんが嬉しそうに言う。


 「そうですね。ジャノさんが来れば、ヨランドさんも絶対に喜びますよね。」

 

 「ねえ。あの人ってば、いつになったらヨランドさんの気持ちが分かるのかしら。」


 ニナさんが冷やかすように言い、私は見守るしかないですね、と微笑んだ。


 穏やかな春の午後———

 澄んだ青空と、白く薄く、どこまでも続く雲。

 渡り鳥が戻ってきて、春の喜びを告げるように鳴く。

 新芽が芽吹く。視界に映る眩しい世界。

 暖かな陽射し。ジャノさんの店から香る、コーヒーの匂い。彼の店のコーヒーは、本当に味も香りも美味だ。

 肌に感じる、暖かさと少しの肌寒さ。

 世界の美しさに私はいつも感動する。

 見るもの、聞こえる音、香り、美味しいものを食べた時の食感や、匂い、味。

 生きるということは、感動の連続だ。

 私は今日も自分が生きていることに感謝している。


 いつもより少しお洒落をして、馬車に乗り込んだ。

 待ち合わせの時間までには、まだ早いくらい。

 久しぶりに遠回りして、とある場所に足を運ぶ。

 次第に、大きな看板のかかった店が見えてきた。


 《オーロール》。ーー紳士服、帽子、リボン、ボタンなどございます。

 また、お洋服・小物の破れ、解れなど丁寧に修復、修繕いたします。

 お値段もリーズナブル。ご用命は当店までー。


 「あ、アンジェラさん、おはようございます!」


 「おはよう。皆さん。サンドイッチを持ってきたの。良かったら食べてね。」


 立ち寄った店。そこはかつて、私の父が経営していた店だ。

 従業員達が私の訪問を喜び、店内は客で賑わっている。


 一度は売却されてしまったが、再び買い戻し、改装した。

 かつて、祖父達が大事にしていた経営方針で商売を始めたところ、大ヒット。

 特に、服や装飾品の補修、修繕が喜ばれた。

 皆、大事な服や小物は壊れても使いたいものなのだ。

 愛着のあるものは、簡単には捨てられない。

 あの家もそうだし、ここだって同じ。


 「お時間ですよ。」


 「ありがとう。」


 私は御者に促され、再び馬車へと乗り込んだ。


 サワサワと吹く風で、私の銀髪が揺れる。着ているのは淡いピンク色のワンピース。

 あの後、初めて購入した思い出の一着。

 ここは『彼』との思い出の場所。

 また今年も見事な桜が咲いていた。


 私は馬車から降りて、一人で公園の芝生の上にシートを敷いた。

 持ってきたバケットを置き、腰を据えると。


 『な〜!アンジェラ!聞いてくれよー!』


 変な通信具がジリジリと鳴り、慌ててポケットから取り出し、耳元に寄せた。

 

 「どうしたの?ガスパル、そんな声を出して。」


 『それがさ、今、あいつが来てるんだよ。

 魔法使いコスチュームとやらを、魔法の売買店を通して、魔法神聖国に売り出したいらしいんだけど!」


 「あいつって、まさかトリスタン様?」


 「よ!アンジェラ!元気か?」


 通信具の向こう側は、二人の声で賑わっている。私は微笑し、どうしたのかを尋ねる。


 「だから、アンジェラ。そのコスチュームが、ダサいんだ!物凄くダサいの!」


 「だ〜か〜ら〜。マニアにはこれでいいんだよ。何度言ったら分かるんだよ、ガスパル。」


 「駄目だ、駄目ダメ!魔法使いの俺がいうんだから間違いないって!」


 この二人、あれ以降、本当に仲良しになった。

 二人のやり取りを聞きながら、私は今日も自分が生きている事に感謝する。

 魔法使いの、ガスパル。彼に出会わなければ今の私は、ここにはいない。

 そのガスパルに、あの後言われた事がある。

 昔私と、私の母に会った事があるとーーー。


 『俺も、お前や、お前の母親に救われた事があるんだ。

 だからこの出会いは、偶然ではなく必然。

 こちらで言うところの「神」が用意した「奇跡」とやらなんだろう。」



 今もまだ、あの日の夢を見る。

 「マイケル」だ。マイケルが私を献身的に支えてくれた、あの時の夢を。

 死にゆくはずだった私が、あんな風に幸せに過ごせたのも、幸せだったのも。

 全部懐かしい記憶。

 こんなにも全てを覚えてる。鮮明に。


 「ありがとう。マイケル。いえ、ミッシェル。」


 ポツリと呟いた言葉が風に乗って、春の空へと消えていく。

 人を愛するという事が、今もまだこんなにも切なく、胸を締め付ける。

 あの人は今———。



 「アンジェラ。お待たせ。」


 不意に現れた人物に、私は胸の鼓動を早めた。

 いつ見ても彼は本当に素敵だ。

 誰よりも輝く私の——————



 「————ミッシェル……!」



 その名前を口にし、私は彼の腕の中へと飛び込んだ。

 

 あの時起きた奇跡を、何と言えばいいのだろう?

 神様の気まぐれ?

 それともミッシェルの幸運?

 私達が二人とも生き残るようにと、うまく采配してくれたに違いない。

 今だにそう、私は思っている。

 

 私を診た医者は興奮気味に言った。


 『信じられない…!五感喪失病が、完治しています!』と。

 一方で、ミッシェルは疲労による発熱だったとも。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ