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34.誰も知らなかった結末



 ———『売った』と、ガスパルは答えた。


 目を覚ました私と入れ違うように、ミッシェルが謎の高熱で倒れてしまった。

 私とトリスタン様、それに気まずそうにするガスパルの三人で、ミッシェルの看病をしていた。

 私のために集まってくれていた、ラポルトさん、夫妻やコリンヌさん達には帰ってもらうように頼んだ。

 

 残されたガスパルが、ミッシェルがこうなってしまった直接的な原因について白状した。


 「売ったって……」


 私の声が震えていた。

 いや…心が切り刻まれているよう。

 なぜそんな事をしたのかと、ミッシェルを問い詰めたくても、今はそれができなくて。

 

 「私の病気を治すために、ミッシェルが?

 その「神」とらやらに……?」

 

 「うん…許してくれ、アンジェラ。これはミッシェルの固い意志だったんだ。」

 

 暗い表情をするガスパルの背後で、トリスタン様の表情も曇っていた。うつむいて、ずっと何かを考えていらっしゃる。


 「トリスタン様も知っていたんですか?」

 

 「ああ…だけど俺は何度も止めたんだ。

 アンジェラはそんな事しても喜ばないって!」

 

 だからずっと、トリスタン様は「ミッシェル」に対して腹を立てていたんだと、今になって分かる。


 「ずっとミッシェルは言うなって言っていたけど、アンジェラは納得しないだろう?

 ミッシェルがこうなった今、全て白状するよ。」


 そう呟いたガスパルの声も表情も暗く沈んでいた。責任を感じているのだろう。

 ガスパルは重ねてこう言った。


 「ミッシェルは、自分の『寿命』を売ったんだ。

 アンジェラの寿命を引き延ばすために。」

 

 『寿命』を売った……………?



 ミッシェルが、私のために自分の寿命を。

 


 それが一体どういう理屈で、どういう原理なのか、私にはさっぱり分からない。

 分かるのは、私の体が突然、健康だった頃の状態に戻り、代わりにミッシェルが熱で苦しんでいるという事だけ。

 何度聞いても受け入れ難い言葉。目の前が真っ暗になる。

 そんな事ってないわ………!ミッシェル!


 「だから、彼はこうして苦しんでるの?

 寿命を売ったという事は、ミッシェルの寿命が短くなったという事よね?

 分からないわ、ガスパル……!

 それなら私が助かり、ミッシェルが早くに死を迎えるという事?そういう事なの!?」


 「アンジェラ…正確には俺も分からないんだ。

 ミッシェルが一体何年の寿命を売って、アンジェラの命の対価としたのかは。

 「神」と、ミッシェルだけが知って……」


 「……どうして、こんな!ミッシェル!」

 

 私はミッシェルが寝ている、ベッドの端をつい揺さぶった。分かってる。

 こんな事をしたって何も変わらない。

 だけどそれなら、このぶつけようのない感情はどうしたらいいの?

 もしかして私の代わりにミッシェルが死ぬの?

 そんなの、絶対にいや!!!


 「ミッシェル……!

 どうして……っ、どうして私なんかの為に貴重な『寿命』を売ったりしたの……!

 どうしてっ……!うっ、ひくっ…!どうして!どうしてよ、ミッシェル……………!!」


 まさかそんな事をしてまで、ミッシェルが私を助けようとしていたなんて。

 私は何も、彼の命を削ってまで生きようとは思っていなかった。

 ただ、こんな風にそばに居てくれた事。

 私を愛して、私に秘密でずっと世話を焼いてくれていた事が何より嬉しかった。

 ただ、それだけで幸せだったのに。


 早い吐息を吐くミッシェルの側で、私は泣きじゃくった。

 何も知らなくて。ずっと呑気に、彼を「マイケル」だと思っていた自分に腹が立った。

 気づいていれば、止めたのに。

 いつもそうだ。ミッシェルは私に対して嘘つきだ。

 高名な家門の出自。

 本来なら私が近寄れもしない伯爵令息なのに、身分など関係なく私を愛してくれた。

 幼い頃に、大切な弟さんを亡くしたという話をしてくれた。

 愛情深い一方で……彼は思った以上に、不器用で、そして臆病だった。

 だからこそ、いつもミッシェルの優しい嘘が、私には愛おしかった。

 誰よりも情に熱く、人間らしい人だった。


 「私、私には何もないのよ、ミッシェル。

 子爵家を去った身だし…

 あなたにあげられるものは、何一つ持ってないの。

 こんな私に、どうして……………?」


 この数ヶ月、あなたは「マイケル」として、私を献身的に支えてくれた。

 ずっと、あなただと気づかなかった愚かな私の側にいてくれた。

 ずっと、ずっと……………

 最初から最後まで、あなたは優しい「契約者」だった。

 あなたは出会った時から、ずっと変わらない…


 だから、本当は分かっているわ。ミッシェル。


 「愛してくれていたのね。ずっと。私を。

 あなたがこんな事した理由も、今こうなっている理由も、全て私のために。でも………!

 この嘘が一番…嫌いよ、ミッシェル。」


 やり場のない感情が、大粒の涙となる。

 泣いたところで何も変わらないのに。


 でもね、ミッシェル。同じなの。


 私も同じよ。あなたには、私のことは忘れて、幸せになって欲しかったの。

 だって、こんなにも愛しているのだから……





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