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33.✴︎大切な二人の親友(トリスタン)


 それは、幼い頃は全く問題ないと思っていたものだった。


 しかし大人になるにつれ、俺の周りの友人は、急に自分達は偉いと主張をはじめる。


 同じ貴族の子息達は、平民の子供達との間に見えない線を引くようになっていった。

 俺はトリスタン。侯爵家の跡取り。

 確かに貴族社会のしがらみはうざったいし、「貴族とは高貴だから、貴族」というのは確かに、昔から社会に根付いた考えだ。


 でも、だからといって、ただ高貴な身分に生まれただけの俺達が、そんなに偉いのか?

 平民と遊んだらダメなんて、一体いつ誰が決めたんだろう。

 どいつもコイツもアホだな。難しく考えず、ただ楽しんだらいのにさ!


 そう言えば、俺が平民だろうが、身分が低かろうが、偏見を持たずにいたのはあの子がきっかけなんだと思う。


 隣の領地からなぜか働きに来る、少女。

 名前はアンジェラ。


 「トリスタン。アンジェラは可哀想な子よ。

 どうか面倒を見てあげてね。」

 

 家の親も、俺ほどではないけれど、お人よしだったと思う。そんな両親の元で働く使用人達もまたお人よしだったし、アンジェラは幼いながらも皆に好かれるタイプだった。


 ただアンジェラは毎日疲れていた。

 聞いたら、帰りの馬車もウトウト眠るほど。

 両親はアンジェラのその「可哀想」な理由を話してはくれなかったけれど…


 なんで、使用人達全員に好かれるような少女が、我が家に働きに来ているんだ?

 なんで?子爵家という、自分の家があるのに……変な子だ。


 だが、いくら両親に頼まれたとは言え、アンジェラとはあまり接触する機会がなくて、そんなに仲良い程ではなかった。



 その頃の俺は、領地の平民の子供達、ジェイクやエマ達と、侯爵家の裏庭の木に登ったり、リンゴを齧ったりするのが好きだった。

 けれど、貴族の友達が俺達を冷かしに来た。


 「トリスタン、お前、なんで平民なんかと遊ぶんだよ?頭がおかしいのか?」


 「お前、侯爵家の跡取りだろ?いい加減、貧乏くさい平民と付き合うのはやめろよ。」


 当然、俺は頭にきて反論。


 「うるさい!友達と遊んで、何が悪いんだよ!」

 

 だが……引き留めるよう、エマに袖を掴まれる。


 「もう、いいよ…トリスタン。」

 

 悲しそうにうつむくエマを見て、俺の心臓がぎゅっとなった。

 何で身分が違うと駄目なんだ!

 平民と遊んだら、いけないのか?

 俺は、何か間違ってるのか?

 

 結局皆帰ってしまい、そこには俺だけが取り残された。

 納得がいかず、地面に転がったりんごを、俺はぼんやりと眺めていた。


 「トリスタン様…」


 普段はあまり話さないアンジェラが、その場にひょっこりと現れた。

 りんごを取ってくるよう頼まれたのか?

 

 「なんだよ、アンジェラか。」


 「ごめんなさい。さっきの話聞いてしまって」


 アンジェラは気まずそうに口を開いた。


 俺は少しムッとする。

 アンジェラも一応、子爵令嬢っぽいし、何か文句でも言われるんじゃないかと。


 「なんだよ、見てたのか?」


 「はい。それで…ただ私がお伝えしたかったのは、トリスタン様はすごいなと。」


 「…!??すごい?俺が?」

 

 普段アンジェラとはそれほど語ったこともない。

 ただ、無口そうに見えるアンジェラが、この時はやたらと生き生きと輝いて見えた。

 

 「はい。すごいなと。私は身分関係なくあんなに楽しそうに遊ぶトリスタン様を見ていて、気持ちいいものだなと感じておりました。」


 「お前が?それはお前じゃないのか?

 身分関係なく、うちの使用人たちにも優しく接して、誰からも好かれてるだろう。」


 「それは…トリスタン様を見ていたからです。

 侯爵家の奥様や旦那様、トリスタン様は私の憧れなんです。

 こんな訳ありな私を雇ってくださっているし、親切にしてくださいます。

 それにトリスタン様もそうです。優しくて、思いやりがある。

 だから、私の見本はトリスタン様、あなたなのです。」


 常に働いてるイメージで、いつか倒れるんじゃないかと心配していたアンジェラ。

 だがその時のアンジェラの眼差しは熱く、口調は強く、真っ直ぐに俺を見つめていた。

 この少女、見た目とは違って強いな。


 「何だよ、お前…見る目があるな〜!」


 「??」


 久しぶりに人に褒められて気分が良かった。

 アンジェラにこう言われて。

 俺は自分が俺のままでいいのだと肯定されているようで、嬉しかった。

 その日からアンジェラに対する見る目が変わってーー。



 「なあ、トリスタン。

 あの子に近付くには一体どうすればいいと思う?」


 16歳の春。俺はもう一人の親友、ミッシェルにとある相談を持ち掛けられた。

 やっぱりそうかと。


 ミッシェルとは、貴族同士の交流会で偶然、出会った。

 あの冷徹と名高い家門、ロイベルク伯爵家の令息。初めは嫌なやつかと思ったが…


 「僕は、貴族が嫌いなんだ。

 できればそれをやめて、自分でお金を稼いで生きていきたい。」


 「お前…本当にあのロイベルクの人間か?

 けど。あははは!お前、面白いな、ミッシェル。俺と友達になろう!」

 

 俺はこうしてミッシェルと意気投合し、友達になった。

 ミッシェルは、同じ貴族だからこそ、誰よりも俺を理解してくれた。

 ミッシェルの意思は、ノブレス・オブリージュよりも遥かに崇高な…

 その親友が、俺の友達でもあるアンジェラに気がある。

 

 いいね!この二人、絶対お似合いだし。

 そうやって、俺は二人の親友の恋を応援し始めた。

 二人といると(あるいは邪魔すると)毎日が楽しくて、死ぬほど笑い合った。

 

 ミッシェルはその年から俺と服飾事業を立ち上げ、商材の頭角を表し始める。

 やっぱりこいつ、見た目では分からないが、すごい男だな!

 

 「アンジェラのために…頑張りたいんだ。」

 

 「分かってるよ、応援してる。」


 驚くほど無垢で、奥手で、だけど芯が熱い男。

 一方で、(子爵家でのアンジェラを調査済み)継母や、異母妹、実の父親に虐待されながらも折れない、アンジェラ。

 この二人の幸せをずっと見守っていたいと思った。

 だからこそ、どちから一方が死ぬなんて嫌だ。


 なぜ二人一緒に幸せになれない?

 神様どうか二人をお救い下さい。

 二人とも、俺の大切な親友です。どうか. . .



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