32✴︎あの子だったんだ(ガスパル)
あの子だったんだ————。
あの子はあの人の……あの時の————
俺はガスパル。魔法使いで、時間売買魔法店を経営してる。
魔法神聖国で、親に捨てられた子供、それが俺だった。
俺が住むこの国、魔法使いの世界にもカースト制度が存在した。
しかも、神聖国にはトップに君臨する「神」という存在がいる。
それは明確には何だとは言い難いが、確かにそれは神であり、創造主であり、天であり、雷だった。彼に逆らう者はいなかったし、そういうレベルの話しではなかった。
とにかくこの国には魔法使いがたくさんいて、地位や身分というランクがあった。
魔法の種類も無数に存在し、細かく分類され、同じようにランク分けされた。
例えばAのような魔法を使う時は、身分が高い奴、あるいは魔法使いとしての地位が上位(この場合:強さ)の奴とかが例外なく使えたりした。
それ以外は、特殊な申請が必要だとか…
しかし、Bのような魔法なら申請なしでも使用かのだとか。
Gのような魔法なら、俺みたいな三流の魔法使いでも回数制限付きで、使用できるとか。
…とにかく、細かすぎるルールが幾つも存在すていた!
つまり、いくら魔法使いだからって、使える魔法は限られていた。
「ガスパル!家の店の前に座り込むんじゃないよ!しかも裸足で!これだから孤児の魔法使いは!」
「うるせー、クソジジイ!金がないんだ!仕方ないだろ!
だったら、あんたが何とかしてくれんのかよ?」
「は!誰がお前なんか、薄汚いガキに!
例え魔法で靴を作れたって、お断りだね!」
「べー!分かってるよ、どうせお前らは俺みたいな奴が嫌いなんだろ!魔法使いなんてクズばっかりだ!」
ちょっと店先で休んでいただけなのに。
俺にはお前らみたいに住む家なんてないんだ。
孤児だからなんだ。俺だって魔法使いだぞ。
ただ親がいないだけで、なんで差別されなきゃいけないんだ?
「俺は、親の顔も知らないんだ。
俺だって…たまには誰かに優しくされたいよ。」
理不尽な国に嫌気が差して、俺はついに神聖国を飛び出し、「人間の住む国」に次元異動した。
今思えばあれ、誰にでも使える魔法じゃなかったみたいだ。
俺、魔法使いの才能があったみたい。
けれど、「法」を破った俺に即座にペナルティが下った。
「神」が怒ったらしく、次元異動も複雑な魔法も使用を制限されてしまった。
人間の世界は、雪がチラチラと降っていた。
あ、マズイ熱がある…俺はドサッと真っ白な雪の上に倒れた。
深刻な生命の危機だと分かる。
知り合いもいないし、ろくな魔法も使えないんじゃ、どうすることもできない。
魔法使いだって不死身じゃないんだ、死ぬ時は死ぬ。
それに人間達も冷たかった。雪の上に倒れた俺を迷惑そうに見ながら通り過ぎる。
なんだ、結局どこに行っても同じなんだ。
このまま、本当に俺は死ぬのか。
一人、虚しく。
死が…
誰でもいいから、俺にも優しくしてくれないか。
一度でいい。たった一人でいいんだ。
誰か俺に、死ぬ前に優しくしてくれ。
「あなた、大丈夫?」
それは本当に美しい人だった。人間か?と疑うくらい。
綺麗で長い銀髪に、穏やかな瞳。背は高く、それでいて華奢。
平民の服を着ていたが、気品が滲み出ていた。
まさに理想の母親像をした人。
「坊や。私と一緒に行きましょう。」
「なんだ、その変なのは!」
なんだ?コイツ。この人の夫?
ムカつくオヤジだな。
彼女が住んでいたのは、一階建ての青い屋根と白い壁の、小さくて古い家だった。
少し小太りのあの男。
ベッドで看病される俺を見て、不愉快そうに彼女を叱った。
「ごめんなさい。でもあなた。この子は死にかけて……」
「俺達の生活だって大変だと言うのに!?なぜそんなガキを見てやる必要があるんだ!ふん!」
夫は彼女と違って、心が狭く、無愛想。
なぜこんなのと結婚したんだ。
俺が看病されてるのを見て、不満げに扉を開いて出て行った。嫌な感じ…
「悪い人じゃないのよ。」
熱があり、意識が朦朧としていたせいで記憶が朧げだが———彼女の琥珀色の瞳が綺麗だった。
本当に夫のことを愛しているようだった。
そのうち、彼女の優しい手がそっと俺の額を撫でる。
なんて気持ちいいんだろう。こんな風に誰かに頭を撫でられるのは初めてだ。
「こんなに小さいのに。苦しいわね。」
残念だったな。俺は魔法使いだから、見た目とは違って年寄りなんだ。
「死んじゃダメよ。私の子も、あなたに早く元気になれって言ってるわ。」
「あぶー。」
何を喋っているか分からない、彼女の幼い娘が僕に手を伸ばした。
彼女と同じ瞳の色に、まるで空を映したような銀髪。彼女にそっくりの美人。
「あぶー、あーぶー。」
「なんだ、このチビ……俺にがんばれって、言ってんのか?」
温かい子供の眼差しに、なぜか心の奥がギュッとなる。
まだガキのくせに。このガスパル様を励まそうだなんて。
くそ……ガキの手が温かい。温かすぎて、勝手に涙が出てくるぜ。
人間も…悪くはないんだな。
数日後。すっかり熱が下がった。
彼女はあの夫に文句を言われながらも、生死の境を彷徨っていた俺を献身的に支えてくれた。
あの子は別れ際に無邪気に笑っていた。
「困ったときは、またいつでもいらっしゃい。」
優しさが溢れていて、人間ができた人。
あの夫には勿体無い、慈悲深い人。
彼女こそがアンジェラの母親で——————
そして、あの子がアンジェラ。お前だったんだ。
俺に無垢な優しさを与えてくれた、小さくて大きな存在。
この親子がきっかけとなり、俺は困っている人間を助けようと心に決めた。
今の魔法売買店は、それを軸に成り立っている。
初め、アンジェラが尋ねてきた時は分からなかったんだ。
「魔法店?」
「そぉ、魔法店。俺、魔法使いなんで」
「ま、間違えたみたいです……」
けれど彼女の実家の話や、住み始めた家、名前を聞いて確信した。
残念だったのは———優しいあの人が亡くなってしまったこと。
アンジェラ。あの時、俺はお前と彼女に助けられた。
だから、今度は俺がお前を助けたい。
お前が俺に、「生きろ」と励ましてくれた、あの時のように。




