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3.ミッシェルとの出会い


 14才の春。

 ミッシェルとは、週末にボランティアに行っていた孤児院で出会った。


 それまで何とか生き延びていた私は、相変わらず子爵家の仕事をしながら、侯爵家で周4〜5日働き、週末にはボランティアで孤児院に通っていた。

 

 まるで王族のように華やかな金髪に、神秘的な紫瞳しどうを持つミッシェルは、どことなく中性的な顔立ちをしていた。

 そして何より微笑んだ時の表情が、とても温かく感じられる人だった。一歳年上の彼……


 たいていは白いチェニックの上着に、品のあるボトムス、革製のロングブーツを履いていた。

 背は同じ年の大きな人と小さな人の中間くらい。

 仕草はゆったりとしていながら優美で、話し方は気品があった。


 「初めまして。僕はミッシェル。

 君はアンジェラだよね。」


 「ええ。私はアンジェラだけれど、どうして知ってるの?」


 「うんっと…

 実は僕もあの侯爵家で働いてるんだよ。

 君もそうなんだよね?

 侯爵令息のトリスタン様とは同い年で、君の話を聞いたことがあったんだ。

 偶然顔も見た事があって……

 まさかこんな所で会うなんて奇遇だね。」


 それからはなぜか、ミッシェルが毎週同じ日になるとボランティアに現れるようになり、一緒に子供達の面倒を見るようになった。


 ミッシェルは同じ年頃の意地悪な男の子達とは違い、普段からとても親切で、丁寧で、優しかった。

 またその所作も美しく……

 何でも詳しくて、とても教養がある人だった。


 「私は字が書けないの。」


 ある日露見した恥ずかしい事実。

 子爵家の嫡子でありながら、私はろくな教育も受けられなかった。

 それを恥だと思っていると、さっきまで黙って聞いていたミッシェルが言った。

 その頃にはなぜか侯爵令息のトリスタン様までボランティア活動に参加し、一緒に行動していた。


 「アンジェラは家庭教師がついてないのか。

 ひどい…家だな。

 ……あ!じゃあ、僕が字を教えるよ。

 君さえ良かったら他にも、たくさん!

 数学とか歴史はどうかな?」


 「えー!ミッシェルが教えるんなら、俺もアンジェラに何か教えてやろ〜っと!」


 「っ、ゴホンッ、トリスタン様〜?

 貴方こそ今、お勉強の時間だったのでは?

 もしかして家庭教師の授業を抜け出して来たんですか?」


 「えー、やだよ。俺は勉強したくないけど、アンジェラには教えてやりたいの!」


 「は、はははっ。もう、全く。冗談はよしてトリスタン様はさっさと帰って下さいよ。

 奥様に言いつけますよ?」


 「お前…ミッシェル。友達を裏切るタイプだったんだな。」


 「ええ、そうです。今頃知ったんですか。」


 「酷いやつだ!俺はお前を可愛がってやっているのに!このっ、この〜っ!」


 彼らは平民と貴族という立場だったのに、なぜかとても仲良しだった。

 それからミッシェルは、本当に私に勉強を教えてくれるようになった。

 根気強く丁寧に。何度でも。優しく。

 学のない私にも分かった。ミッシェルの知性は並外れていると。



 また、侯爵家でも時々廊下などで出会うようになり、よく会話を交わすようになった。

 普段ミッシェルが何の仕事をしているのかよく分からなかったけれど。


 廊下ですれ違うたびにミッシェルは、「手伝うよ」と言って、私の持っていた荷物を軽々と持ってくれた。

 庭先で出会えば、隣で箒を持って庭を掃いてくれたし、花壇の手入れをしていたら一緒に花の苗を植えてくれたりもした。

 ただその時ばかりは珍しく、不器用な手つきだったけれど。


 休憩時間は偶然出会って、侯爵家の庭園で空を見ながら一緒にお昼を食べた。

 そこで、疑問を思い切ってぶつけてみた。


 「僕?そうだね、僕はトリスタン様のお世話がかり……ってところかな」

 

 「ところ?曖昧なのね、変な人。ふふ。」


 「変…だよね。うん。分かってる。

 だけど引かないでくれると嬉しいかな。」


 誤魔化したいことでもあるのだろうと思ったが、必死に取り繕うとする姿がなぜか愛らしく思えた。

 思わず私が笑うと、ミッシェルも笑顔を浮かべていた。


 

 週末。子供達が昼寝をしている間に、私は相変わらずミッシェルに勉強を教わっていた。

 そこにはやはりトリスタン様の姿も。


 「聞いてよ、アンジェラ〜!

 俺だってアンジェラに色々と教えたいのに、ミッシェルが意地悪するんだ〜!」


 「トリスタン様。毎回言ってますが、あなたはご自分のお勉強があるでしょう?

 また成績落ちますよ。」


 お世話になっている侯爵家のトリスタン様の行動には毎回驚かされたが、それよりもミッシェルが私のために懸命に勉強を教えてくれる姿に胸が高鳴るようになった。


 もしかして私……ミッシェルを?

 

 自分が誰かに恋をした事が信じられなかったが、同時に嬉しかった。

 自分は誰からも愛される価値などないと思っていたのに、ずっと愛など知らずに生きてきたのに、それでもミッシェルを好きになる事ができたから。


 「君が好きだ。アンジェラ。」

 

 ある日ミッシェルから夢のような告白をされた。

 それを聞き、私もまたミッシェルのことが好きだとハッキリと気がついた。

 これまで自分の気持ちに向き合うことさえなかった………けれど。

 この時ばかりは、自分の気持ちに素直になろうと決めた。


 「ありがとう、ミッシェル。私も…

 あなたが好きよ。」


 「本当に……?嬉しいよ……アンジェラ!」


 いつもより倍も高い声で叫んだミッシェルが、私を優しく抱きしめてくれた。

 その時のミッシェルの、無邪気で嬉しそうな顔と温かさは、今でも忘れられない。

 初めて感じる、幸せを噛み締めた。

 こうして私とミッシェルはお互いの気持ちを確認し合って、交際をスタートさせたのだ。




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