27✴︎守るための選択
後日、ガスパルと相談して、アンジェラの誕生日にサプラスイズプレゼントをしようという事になった。特注品の車椅子を送り———
当日にトリスタンを呼んで、アンジェラを驚かせた。
アンジェラはもう目が見えず、人の声すら判別が難しくなってきているようだったけれど、誕生パーティーでは子供のように無邪気で、本当に楽しそうだった。
こんな事ならもっと、アンジェラと付き合っているうちに色々としてあげれば良かった。
宝石のついた髪飾りや、豪華で贅沢なドレス。
シンデレラが履くようなガラスの靴。
特大の誕生日ケーキに、豪勢な食事。
一生使いきれないたくさんのプレゼントを、アンジェラに贈れば良かった。
アンジェラが好きな孤児院の子供達を呼んで、僕とトリスタンと一緒に、盛大にお祝いしてやれば良かった。
その日ひどく酔ったトリスタンは『僕』について愚痴をこぼし、お前は馬鹿だ、と目で訴えてきていた。
知ってるよ。だけどこれが僕なんだ。
冬が濃くなっていき、アンジェラの病もまた深刻になっていった。
彼女が苦しんでいる姿を見るたびに僕の心臓は抉れそうになったが、唇を噛みしめ、何とか平気なフリをした。僕はヨランドさんもビックリの役者になれるだろう。
アンジェラにふと、誕生日を尋ねられたけど、僕は答えられなかった。
この期に及んで、アンジェラに自分の正体が知られるのが怖くなってしまった。
もう、この平穏な生活を壊したくなかった。
ある冷え切った夜、アンジェラが車椅子に乗り損ねて、床に倒れた事があった。
とっさに僕が駆け寄ると———彼女は辛そうに僕の手を払いのけてしまった。
「今は、放っておいて欲しい。……マイケル。
惨めな姿をこれ以上、あなたに見られたくないわ。」
悲痛なその叫びが僕の心臓を深く突き刺す。
代わりたい。できるなら、今すぐにでも。
だけどまだそれができないから、僕も苦しいんじゃないか。
「アンジェラ——————君は決して、惨めなんかじゃない………!
僕は君を惨めだなんて思った事は一度もない!
頼むから、そんな風に、悲しい事を言わないで。」
思わず大声をだして、アンジェラを驚かせてしまった。結局泣いてることもバレてしまって…情けないのは僕の方。
だけど悲しいことを言わないで欲しかった。
僕がアンジェラを嫌いになるわけ、ないだろう?
例え君がどんな姿になったって。
最後まで君の側にいる。マイケルとして。
そう約束したじゃないか。
それに僕達が結婚したら、きっとそういう夫婦になっていたはずだ。
“病める時も側にいますか?”——パートナーが苦しい時にこそ、側にいるのは当たり前だろう。
「気は確かか?本当にいいのかよ?
アンジェラの、祖父母の代から引き継いだ事業じゃないのか?」
ある夜、アンジェラが眠った後でガスパルが我が家にやってきた。
アンジェラの実家の事業が潰れそうで、それに僕が関与してるのを知っていた。
トリスタンと話したのか…
どうやらガスパルは、アンジェラが悲しむのが嫌だったようだ。彼は本当にアンジェラを人間として好きみたいだった。傷つけたくなかったんだろう。
が、僕は冷淡に答える。
「いいんだ。————すでに僕は何度も、アンジェラを泣かせてきたんだから。」
僕はガスパルとは違う。優しさの裏にいつも狂気を隠してる。
愛する人を傷つけた子爵家を、僕は絶対に許さない。




