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27✴︎守るための選択


 この、ジャノさんとヨランドさんは、一体どういった関係なんだろうか。

 そんな事がふと気になったけれど。


 「ヨランド。分かってないな、君は。

 愛と恐怖は表裏一体なんだよ。」


 「何カッコつけてるのよ。要するにヘタレって事でしょ?」


 なるほど、この二人そうなんだとピンとくる。鈍いジャノさんに、ヨランドさんの気持ちが伝わるのは一体いつ頃なんだろう。

 そんな事を想像し、僕は苦笑いを浮かべた。


 「とにかく。僕の正体は、アンジェラには秘密でお願いします。」

 

 ヨランドさんが言った通り、僕はただの臆病者でしかない。

 また、心優しきアンジェラの隣人達は、子爵家での彼女の辛い日々を知って綺麗な涙を流した。


 「それならせめて、私達でパーティーを開いてあげましょう。アンジェラに良い思い出ができるように。」


 僕達は全く赤の他人のふりをし、無事にアンジェラをパーティーに誘うことに成功した。

 彼女が初めて経験する、アットホームなパーティー。

 嬉しそうな彼女を見ると、僕もまた嬉しかった。

 だが、病魔は容赦なくアンジェラのあらゆる感覚を奪っていった………


 パーティーが終わってすぐの事だ。

 アンジェラが部屋で眠ったのを確認したあと、僕は隣の部屋でトリスタンに手紙を書いていた。


 『トリスタン、無事にアンジェラを見つけたよ。色々協力してくれて、本当にありがとう。

 僕の身勝手で、商会を留守にし、お前にばかり負担をかけてすまない。

 だけど、なるべくアンジェラの側にいてやりたいんだ。お前ならきっと分かってくれるはず。

 近いうちにまた会おう。ミッシェルより。』

 

 トリスタン宛に書いた手紙を、机の引き出しにしまう。その時———隣から悲鳴が聞こえた。


 「……マイケル、マイケル!

 怖い、怖いわ…!見えない、どうしよう、何も見えないわ……!」


 「アンジェラ、落ち着いて…!」


 ついに、アンジェラの目が完全に見えなくなってしまったのだ。

 ベッドの上でアンジェラは、パニックになりベッドからずり落ちそうになっていた。

 その様子があまりにも痛々しく、僕の喉の奥が焼ける。

 アンジェラ————。

 どうして君ばかりが、こんな目に合うんだ?

 

 混乱して泣き続けるアンジェラの両手を、僕は力強く握りしめた。

 気丈な声を発し、とにかくアンジェラを不安がらせないように努めた。


 「アンジェラ。君はちゃんとここにいる。

 ちゃんと生きてるよ。

 ほら、僕の手の感触が分かる?

 温かいでしょ?そう感じられるのは、アンジェラが確かに生きてる証拠だからね。」


 アンジェラは僕の言葉に安心したように笑う。


 その無垢な笑顔に、必死で感情を押し殺すが、それでも勝手に涙が溢れてくる。

 片手で彼女の手を握り、もう片方の手で背中を摩りながら———。


 アンジェラ。もう。僕が泣いていることさえ、分からないんだね。

 こんなに苦しそうな君を見るくらいなら、いっそ僕が、代わってあげたい。


 落ち着きを取り戻したアンジェラに厚い服を着せ、椅子を持ってきて、ベッドの側に腰掛けた。

 明け方に近い時間。火を起こした暖炉がパチパチと音を奏でる。


 アンジェラは、普段は滅多に語ってくれない『好きな人』の話をしてくれた。

 それが一体だれを示すのか———馬鹿じゃない限り分かる。グッと心臓を鷲掴みされたような気分だった。


 「愛しているわ。今も。

 だけど彼の幸せを考えれば、側にいる事はできなかったわ。」


 そうか、アンジェラ。君は僕のために———

 自ら消えたのか。

 やっぱり考えが君らしくて、また涙が溢れる。


 「……僕も……愛して…る……」


 小さく呟いた言葉は、アンジェラには届かなかった。


 馬鹿だよ、アンジェラ。僕がジェシカと結婚するわけないだろう。愛してもないのに。

 僕が愛しているのは、君なのに。

 だけど、完全に僕とジェシカの事を誤解しているアンジェラに、つい意地悪を言ってしまった。

 困らせるつもりはなかったのに。


 「君が苦しんでいるのに、その人だけが幸せになっていると思う?」


 君の余命宣告を知って、簡単に捨てるような、そんな男だと思ってたの?アンジェラ。

 僕のこと、分かってないんだね。

 確かに僕は、君に自分の正体さえ打ち明けられない臆病者だけど、愛する人を見捨てるような人間ではないよ。むしろその逆だ。

 君のためなら何だって. . . . . . . . . . . . . . . .





 「——————何《﹅》をする、だって?」

 

 アンジェラを無事発見した事を心から喜んでくれたトリスタンに、今後の僕の計画を打ち明けると——。トリスタンは血相を変え、僕の胸ぐらを掴んで飛びかかった。


 「まだ、計画段階でしか無いから、そんなに怒るなよ、トリスタン。」


 アンジェラに内緒で、トリスタンとは馬車の中で話し合った。やはり雪がシンシンと降り注ぐ夜だった。外では聖歌隊が、アンジェラの好きな讃美歌を歌っていた。


 「お前……本気か、ミッシェル…!!

 いや…分かってる。

 お前がどれだけアンジェラを愛しているかって事くらいは…でも、だけど!!

 本当にそんな契約《﹅﹅》を、魔法使いと結んだ、だと!?」


 「繰り返すようだけど、まだあの魔法使いからの返事はないし、彼からも難しいケースだから、実現するかどうかは分からないと」


 「もし実現したら、一体どうなるんだよ!?

 正直俺だって、魔法なんか信じてないけど、それでも本当に実現したら!?

 お前は………どうなる!?それに、アンジェラは!?」


 次第にトリスタンの手がブルブルと震え、初めて僕に涙をみせた。彼がこんな風に怒るのも分かる。本当にいい奴だ。

 だから万が一の時のために、トリスタンにだけは話しておきたかった。長い付き合いだ。

 誰よりも、いやむしろ家族以上に信頼している。


 「……ごめん。トリスタン。その時は商会の全てをお前に譲るよ。

 あと、アンジェラのために準備した店舗も、お前に任せたい。」


 「勝手に任せるなよ…!!今のbelleだけでも、手一杯だ!!お前がやれよ!!責任持って!!

 そもそもアンジェラと、幸せになるために始めたんだろ!?

 それに……もし、お前がそんな事になるなんてアンジェラが知ったらどうするんだよ!!」


 「……うまく、誤魔化してくれたら。」


 ふと、トリスタンならきっと俺の願いを叶えてくれる。そう思って苦笑いを浮かべた。


 「……アホ……!!ミッシェルの、アホ!!

 俺だってアンジェラが好きだし、助かってほしいけどさ……!!

 クソっ!何か他に、方法がないのかよ!!」


 「ないから、これが最後の希望だ。」


 「ミッシェル。お前は……本気でアンジェラを愛しているんだな。…っ、知ってたけど。」


 トリスタンは掴んだシャツを離し、鼻を啜って、座席に戻った。

 僕の意思を汲み取り、冷静になろうとしてくれていた。

 だから僕はトリスタンが好きなんだ。こいつと親友になれて、本当に良かった。


 「お前達二人が幸せになれないと、俺は辛いよ…………」


 顔を塞いだトリスタンの声が、淡く、雪の夜に消えていった——————。




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