26✴︎契約者のマイケルとして
売買店に訪れたアンジェラの目的は、自分を看取ってくれる契約者探しだった。
それをガスパルに聞かされた僕は、躊躇わず名乗りを上げた。
「お願いです、ガスパルさん。
アンジェラの契約者として、彼女に僕を紹介してくれませんか?
アンジェラが見ず知らずの他人と一緒に暮らし、看取られなんて、そんなの嫌なんです。」
「ふん。お前の度胸は認めてやるけどなあ。
ミッシェル。
何で!自分だって名乗らないんだよ?
やましい事なんか、ないんだろう?」
「———怖いんです。
あの日アンジェラに嫌われたんじゃないかって……
それにまた彼女に逃げられたらと思うと、怖くて。
だけど…彼女の世話は僕がしたいんです!
他の奴になんて、任せられない!!」
「ふん!本当に面倒くさい男だな、お前は!
自分はミッシェルじゃないと、嘘をつくんだろう?なら結局アンジェラに嫌われて、泣かれると思うぞ?」
「分かっています。僕は面倒くさい奴なんです。
臆病で……
それでも———アンジェラの側にいたい気持ちは本物なんです。」
「……ったく、お前は本当に変な貴族だな。
ていうか、本当に貴族か?変わってる奴だ!」
そういうガスパルも……だが、信じるしかなかった。
「———それに。あの話《﹅》も、しっかりお願いしますね。ガスパルさん。」
「ああ、分かってるよ!だけど言った通り。
あれを申請するには時間がかかる。
しばらく大人しく、待つ以外ないんだ。」
————何と、魔法使いには魔法使いが暮らす、神聖魔法国という異次元の国が存在するらしい。
そこには魔法使いというより、魔法に関する神のような存在がいるらしくて。
その神からの許可が降りない限り、魔法に関する事柄を行使できないという。
どうやら魔法を使うのも、一筋縄ではいかないようだ。
だがそれを待つ間も、少しでもアンジェラの負担を減らしてあげたかった。
だから僕は、契約者としてアンジェラの前に連れて行くよう、ガスパルに頼み込んだんだ。
「何で、銀髪のウィッグなんか。
空色のカラコンまで?何かの趣味?」
変装用のウィッグと、作ってもらったカラーコンタクトの色に疑問を持つガスパル。
「アンジェラの、髪色と同じなんです。
穏やかな春の、淡くて優しい、空のような色。僕の大好きな色なんです。」
「……やっぱり、拗らせてるな〜!!
あ〜〜面倒くさい!!
人間ってやつは本当に面倒くさいよ!!」
「はは。だけどそれでも、ガスパルさんも付き合ってくれるんですよね?」
「ーー!!当たり前だろ!!
アンジェラの運命を最期まで、見届けたいからな!!」
こうして僕は愛しい彼女、アンジェラの前に、契約者のマイケルとして現れた。
ミッシェルの別名、《マイケル》を名乗って。
やっと会えた。愛する、アンジェラに…!!
僕の外見はウィッグと瞳の色を変えただけ。
もしかして案外すぐに気づかれるんじゃないかと、ビクビクしていたが……
「初めまして。もうすぐ死んでしまいますが、どうぞ最後まで宜しくお願い致します。」
久しぶりにアンジェラの笑顔を見る事ができて、思わず涙が出そうだったけど……
僕の事が分からないほど、アンジェラの病はすでに進行していた。
僕の差し出した手さえ、彼女の目には映っていなかった。
その事実が僕の胸を突き刺し————。
「一人にさせてごめん。一人で苦しませてごめん。」
そう言って、目の前で痛々しく笑うアンジェラをすぐ抱き締めたかったけれど……
臆病な僕は、自分がミッシェルだと名乗る事ができなかった。
このまま正体を明かさず、マイケルとしてアンジェラの世話をした方が…彼女にとっても穏やかな余生を過ごせるのかもしれないと。
確かにガスパルの言う通り、僕は面倒くさい人間だ。




