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24.✴︎見つけたペンダント


 ————アンジェラがいなくなった。

 僕のこの世で一番大切な宝物が。

 


 「アンジェラが……出て行った?」


 アンジェラを見失ったあの日以降。

 彼女からの連絡が途絶え、再び子爵家を訪れると、アンジェラの姿はどこにもなかった。

 彼女の部屋はもぬけの殻だった。

 そもそもアンジェラの部屋は、物置部屋だったと聞いている。

 僕が伯爵令息だと分かった途端に、体裁だけでも整えた部屋を見せたのだろう。

 

 だがその部屋にも、物置部屋にもアンジェラの荷物はなかった。

 長い間アンジェラを虐げてきたミランダが、わざとらしく涙を拭う。


 「はい。ミッシェル様。

 アンジェラは自分の病気が分かると……

 誰にも迷惑をかけたくないから、家を出て行くと……自分で。

 ミッシェル様がジェシカと抱き合っていたのが、相当ショックだったらしく…」


 やはりあの時の現場を誤解されていた……!

 僕がアンジェラを傷つけてしまったんだ!

 あの時、僕がもっとしっかりしていれば!


 だが、余命宣告を受けた体で一体どこへ?

 ふと感じた疑問と違和感。

 ミランダ夫人に疑いの視線を傾けた。


 「アンジェラが病気だというのに、あなた方は引き止めなかったんですか?」


 ミランダ夫人はギクっという顔をする。


 「彼女に一体何を言ったんです?

 どこに行ったか、ご存知なのですよね?

 全て正直に話して下さいますか。ミランダ夫人。」 

 

 「わ、分かりません。アンジェラは行き先を告げずに出ていきましたの!」


 「病人が家を出たのに?しかも、行き先を知らない?

 そんな馬鹿な話があるのですか。いや…あるのですね。いいですか、ミランダ夫人。

 さっさとアンジェラの居場所を吐いて下さい。

 もうあなたのような女性には、うんざりです。」


 「知りません!私は何も。

 あの子が勝手に出て行くと言ったんです!

 私は悪くありませんわ!」


 あくまで、シラを切るミランダ夫人。ジェシカや使用人達までも口裏を合わせたかのように固く口を閉ざした。

 どうしてもっと早く、気づく事ができなかったんだ。

 腐れた家の腐れた家族は、やはり腐れたままだったというのに。

 

 調べると、ミランダ夫人どころか、子爵としたあの約束すらも果たされていなかった。

 結局、子爵はアンジェラに一度もお金を渡していなかったのだ。

 帳簿は延々と嘘が綴られていた。

 大部分は事業拡大と、贅沢好きなミランダとジェシカの為に使われていたのだ。


 人の善意を、一度ならず二度までも。

 腹立たしくてどうにかなりそうだった。


 さらに子爵はどこまでも傲慢で、妙な策略まで練っていたのだ。

 ジェシカが僕に結婚を迫ったのも、あんな風に引き止めたのも全部、子爵の指示だったというのだから驚きだ。

 あの時僕を無理やり引き止めたジェシカを問い詰めた。


 「許して下さい!ミッシェル様!

 私達が結婚すれば、この先も事業提携が揺らぐ事はないと……

 それにお姉様は、もうどうせ死ぬじゃないですか!!」


 「呆れたな。

 アンジェラ以外、本当にこの一家は、卑しい者達の集まりだ。」


 「ミッシェル様、どうか行かないで!」

 

 「あなたのお父上にお伝え下さい。ジェシカ嬢。

 商会は事業提携を破棄すると。

 今後一切、僕の前に姿を見せるなと。

 アンジェラがいなくなった今、あなた方の家が今後どうなろうが、知った事ではない。」 


 必死に縋るジェシカの腕を、僕は冷たく振り払った。


 僕は急いで自分の従者にアンジェラを探すように指示を出し、人探しの探偵も雇った。

 トリスタンにも協力して貰い、あちこち探して貰った。

 しかし、以前としてアンジェラの消息は分からなかった。


 余命宣告を受けたアンジェラが、一番苦しんでいるはずだ。

 こんな時こそ側に寄り添い、力になりたいのにそれができない。

 歯痒くて堪らなかった。アンジェラの居所が分からないだけで、僕の方が死にそうだった。

 胸が抉れる。アンジェラを傷つけた罪悪感が消えない。許さなくてもいい。


 だけど、一体どこにいるんだ?

 アンジェラ。僕の事が嫌いになったら、なったで構わない。

 だけど君が心配なんだ。心配で心配で堪らない。

 

 一人で苦しんでいるんじゃないか?

 泣いているんじゃないか?

 君は案外、泣き虫だったから。

 

 アンジェラ。どうか一人で寂しく逝ってしまわないで。

 愛しているんだ。愛してる。

 君がいないと僕の方が駄目になってしまう。

 出てきてよ。

 そうしたら絶対君を一人になんか、させないから。

 誰よりも君は報われてもいいはずだ!

 

 アンジェラを探す傍、僕は五感喪失病について、あらゆる医学書を読み漁った。

 有名な医者にも数十名に渡って面会し、治療薬の開発にも乗り出した。

 だけど、アンジェラの病を治す方法は、やはりどこにもなくて。



 ————あれから、無駄に二か月も過ぎてしまった。

 彼女の消息がわからず、次第に僕は無気力に日々を過ごすようになる。

 だが、ここで僕が諦めてどうする!そんな思いが僕を奮い立たせた。

 余命宣告は約半年。アンジェラの安否が気にかかる。どうか、頼む。

 アンジェラ。死なないで。生きていて。

 例えどんなに絶望的だとしても必ず———

 必ず君を病から救ってみせる。


 秋が深まったある日、ついに探偵が有力な目撃情報を掴んできてくれた。

 ここから五つも町を隔てた、小麦畑が広がる田舎町に、彼女に似た人がいると。

 すぐに僕は馬車に飛び乗った。


 「このペンダントだよ。若くて礼儀正しい娘だったなあ。

 ああ、でも、右目が不自由みたいで。」


 老舗の店主が、奥のガラスケースから取り出したのは、見覚えのある飾りがついたペンダントだった。


 「アンジェラ……っ!」


 しっかりしたプラチナのチェーンに、真ん中にハート型の宝石がついている。

 間違いなく、僕がアンジェラに送ったもの。

 オーダーメイド品で、この世にたった一つだけのペンダント。

 泣きそうになるのを堪えて、僕は店主に尋ねた。

 

 「これを売った娘が、どこにいるかご存知ですか?」



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