23.✴︎卑しい家族
アンジェラとの結婚が決まると、僕は彼女の家族に挨拶をするため子爵家を訪れた。
もちろん僕の家族も激しく反対したが、僕の籍をロイベルク家から抜いても構わないと宣言すると、すっかり大人しくなってしまった。
受けた恩を忘れ、アンジェラやアンジェラの母親を虐げた、元は平民出身の卑しいアンジェラの父親。
天使のようなアンジェラには似ても似つかない。
元々学のない男。
近年事業が傾きかけているのは知っている。
幼い頃からアンジェラを邪魔者扱いしてきた子爵夫人のミランダと、アンジェラを見下し意地悪をしてきた異母妹ジェシカ。
本当は嫌だったけれど、それでもアンジェラの家族だからと。
……彼らは実に面白かった。
「まさか、あなたがあの有名なロイベルク伯爵家のご子息様だったとは……!」
僕の正体を明かした途端に手のひらを返す、子爵。
「まあ……!私達何も知らずに……!
ミッシェル様。知っていれば私達は厚くおもてなししましたのに…!」
それまで僕の事を平民の卑しい子だと思っていたミランダは、以前子爵家を訪れた時、あからさまに見下したような態度を取っていた。
僕が伯爵家の令息だと知ると目の色と態度を180度変えた。
それはジェシカも同じで。
「私はずっと、ミッシェル様はどこか平民とは違うと勘づいておりました!」
嘘をつけ。散々「平民のあんたはアンジェラにお似合いだわ」と言っていたくせに。
僕は皮肉を込めて笑う。
「いえ…いいんです。黙っていた僕も悪いですから。
とにかく僕はアンジェラと結婚します。
だから子爵家の皆様の事は家族と思っても、よろしいでしょうか?」
社交辞令もよいところだ。
だが相手を不快にさせないよう品良く振る舞う。瞬時に、打算的に物事を考える。
こういう所はやはり自分がいかにロイベルク家の血筋であるかが分かる。
その後アンジェラ達は一度退席した。
子爵と二人きりになった時、僕は子爵にとある提案を持ち掛けた。
「子爵。『belle』商会をご存知ですか?」
「もちろんです…!belle商会は、子爵家の傾きかけた事業を救ってくださった。それが…
どうされたんですか?」
「商会のオーナーの顔を、ご存知で?」
「実はお恥ずかしい話し、オーナーの顔は知りません。
ですが、彼には随分とお世話になっているのですよ!」
そのオーナーが二人いる事も知らないのか。
本当に無知な男だな。
「その、商会のオーナーの一人が、実は僕だと言ったらどうしますか。」
「え?」
「子爵。なぜ僕が、あなたに事業提携を持ち掛けたのか分かりますか?」
僕はまるで探偵のように、アンジェラの父親を問い詰めた。
だが子爵は、何も分からないと言った、困惑の表情を浮かべる。僕はため息を一つ。
「以前から、僕はアンジェラに収益の半分を与えるようにと、言っておきましたよね。
ですが…僕が見る限りアンジェラは相変わらず、新しい物は何も持っていないようでした。
きれいな服も、髪留めの一つさえも。」
「そ、それは…!!」
「分かっています。結局アンジェラにそのお金が、渡っていないのでしょう?」
少なくともアンジェラは、金銭的援助の話があった事すら知らされてないようだった。
いつ見てもアンジェラはいつも質素だった。
それでも彼女が素敵な事には変わりなかったけれど……。
まずい、といった表情を浮かべる子爵。
まともに嘘がつけないなら、初めから嘘などつくなと言いたくなる。
自身はブクブクと腹を弛ませ、高級な紳士服に身を包む。
アンジェラには長年、何一つ与えないくせに、後妻の下品なミランダや、その娘ジェシカには惜しみなく金を使う。
いい加減にしてほしい。
なぜこんな下等な男とその家族が、子爵家の正当な後継者であるアンジェラに、そこまでの仕打ちができるのか。
今誰のお陰でその贅沢ができているのかを、足りない頭でしっかりと考えてほしい。
僕はまた長い溜息を吐き、子爵を冷淡に眺めた。
「一体僕が何のために、あなたと事業を提携したと思っているのですか。アンジェラです。
ここが彼女の実家だからですよ。
それなのにあなたは、僕との約束すら守れない方だったのですね。
ふう。どうしたものか。」
「す!すみませんでした!ミッシェル様!
わざとではないのです!!
本当に信じて下さい!!
これからは必ずアンジェラにお金を渡すと約束します!!
だから、どうか許してください!!この通りです……!!」
頭の下げ方一つ、下品な男。だが、許そう。
表面上だけは。
「本当はかなり頭にきていたのですが、今回に限り許します。
なぜならあなたが、アンジェラの実の父親だからです。」
アンジェラの実の父親。その父親がこれまで、亡くなったアンジェラの母や、アンジェラに一体何をしてきたのか。
それを思い出すだけでも、虫唾が走る。
「ありがとうございます!ありがとうございます!あなたはまるで、神の使者のようだ!」
あれだけ必死に許しを乞い、約束をしたはずだった。
それなのにあの男は。あの家族は……




