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22.✴︎結婚しよう


 アンジェラとの交際は順調で、穏やかで、とても幸せだった。

 彼女は僕を平民だと思っていたから、なるべく僕にお金を使わないようにと口を酸っぱくして言っていた。

 プレゼントも、少しの贅沢も私には必要ないと。


 「二人で一緒にきれいな景色を見たり、公園を散歩するだけでいいの。

 手作りのサンドイッチを持って、公園の芝生の上にシートを敷いて、他愛もないお喋りをするの。

 それだけで、ミッシェル、私は幸せよ。」


 「うん。……そうだね。アンジェラ。

 僕も君といれば、何をしていても幸せだ。」


 僕達は公園でデートしながら、互いに手を繋いで、見つめ合った。

 穏やかで、満たされた日々。

 いくつもの季節をアンジェラと一緒に過ごした。

 そうして僕はついに———。



 「アンジェラ。どうか僕と結婚して欲しい。」


 一世一代のプロポーズ大作戦を決行。


 面白い事に、なぜだかトリスタンが、その場に劇団員を呼んでいた。

 街中のカフェで僕がアンジェラに指輪を渡した直後に、周囲にいた客達が突然椅子から立ち上がり、華麗なダンスを繰り広げるという。

 やっぱりトリスタンはトリスタンだな。

 半ば呆れながらも、意外にもアンジェラが大喜びしていたから、許してやろうと思った。


 「うそ……ミッシェル。

 本当に嬉しい……!

 私もあなたと結婚して、ずっと一緒にいたいと思っていたの……!」


 アンジェラは両手で口元を抑え、涙目になって喜んでくれた。

 僕は、こんなにも幸福があるのかという程の幸せを噛み締める。

 しかし同時に僕は、自分の犯した罪を告白しなければならなかった。

 

 「ただ……ごめん!アンジェラ! 

 君に嘘をついていた事があって……

 僕はその、ロイベルク伯爵家の息子なんだ。」

 

 嬉しさと驚愕。

 どうやらその二つを僕はアンジェラに与えてしまったらしい。


 「あなたが……ロイベルクの……?」


 「うん。」


 「そんな皇位貴族の、立派な家門のご令息だったなんて。

 …こんな私ではきっと、伯爵様やご家族が、お許しにならないでしょう?」


 「うーん。それは大丈夫だと思う。

 だって僕……もうすぐあの家を出るつもりだから。

 実は数年前からトリスタンと、貴族用の装飾品の共同事業を始めてね。

 それが一部貴族に受けて、今や収入が凄いんだよ。

 その収益で僕は僕だけの個人店を開く。

 勿論トリスタンも応援してくれてる。

 だからその。結婚して君と一緒に商売ができたらなあ、なんて……」


 意を決して僕の思っていた事全てを曝け出すと、アンジェラがさらに涙を流した。


 「……こんな私で……いいの?

 私には何もないわ。あなたにしてあげられる事がなにもないのよ?ミッシェル。

 家の支援も……財産も。

 それなのに……?」


 「そんなもの要らないよ。

 お金なら僕が一生懸命稼ぐから、ただアンジェラは側にいてくれればいいんだよ。

 それに僕はアンジェラだからいいんだ。

 アンジェラだから一緒にいたいんだ。

 むしろ君じゃなきゃ駄目なんだよ。

 僕がこの世で幸せにしたいのは、アンジェラ、君なんだ。」


 「っ、ミッシェル………」

 「アンジェラ、好きだよ。君を心から愛してる。」


 顔を上気させて、言葉に詰まってボロボロと涙を流すアンジェラを、僕はこれでもかと言わんばかりに引き寄せ、抱きしめた。


 「こんな私でもいいの……?」


 「こんなだなんて言わないでよ。

 僕にとってアンジェラは、世界一素敵な女性なんだ。むしろ、こんな僕で君こそいいの?」


 「ミッシェル……は素敵な人よ。

 ずっとそうだったわ。出会った時から。

 だから………」


 涙が落ちついてきた頃、ついに僕の腕の中でアンジェラはプロポーズの返事をくれた。


 「ミッシェル。あなたさえ良ければ……

 私をあなたのお嫁さんにして。」


 「勿論だよ、アンジェラ………!!」


 それがあまりにも嬉しくて、僕はアンジェラをさらに深く抱き締めた。


 ああ。何この幸せ。

 彼女は普段こんなに感情を昂らせる事なんてないのに、今は号泣している。

 本当に愛おしい。

 大好きだ。

 愛してる。アンジェラに出会えた事が僕の一生分の幸運だ。


 僕がハーシェルに与えてやれなかった沢山の愛を、これからは惜しみななくアンジェラに捧げたい。


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