2.何も持たない私は
しかしいくら我が家が子爵家とは言え、何も食事に困窮するほど貧乏だった訳ではない。
寧ろ父の事業が軌道に乗っており、他の同等の爵位を持つ貴族と比べたら裕福な方だったと思う。
だが私は皆の邪魔者だったので、与えられないものは全て自分で用意するしかなかった。
食事も……服も。
仕事に必要な髪留めも。
ただ擦り切れた靴は、勿体無いからずっと同じものを使っていた。
一番奥にある狭い物置に部屋を移され、誕生日もいつも一人だった。
それまでは何とか耐えたが、私の11歳の誕生日の日、お父様とミランダ、ジェシカが家のメインホールで豪華なパーティーを開いていた時だけは違った。
いつものように家の仕事を全て終え、お腹を空かせながらこっそり廊下を歩いていると。
ふとホールの方から優美な音楽と、ジェシカ達の楽しそうな笑い声が聞こえてきて思わず足を止めた。
「さすがは私の娘だ、ジェシカは本当に可愛いな。」
「ふふふ!こんなに可愛いドレスとお人形をありがとう!大好きよ、お父さま。」
「良かったわね。ジェシカ。
お父様は本当にあなたを愛しているのよ。
邪魔者のあの子とは違って。」
「もう、お母さまったら!
あれでも彼女は私の姉さんよ?なーんてね、あははは!」
「ジェシカ。あれを憐れむ必要はない。
あれは我が家の邪魔者なんだ。」
お父様の冷たい声を聞いた瞬間、心臓を引き裂かれたような気がした。
あまりの辛さと疲れが重なり、その場で息を殺して蹲ってしまう。
「邪魔者………」
毎日の仕事ですっかり汚れた灰色のワンピースの膝上に、ぽたり、ぽたりと涙が落ち、黒に染めた。
お母様が死んで以来、私はこの家で誰からも誕生日をお祝いしてもらったことがなかった。
私は家族の誰にも愛されていない。
痛いほどそれを実感した。
自分がどれだけ惨めな存在かを知って、この世界から消えたくなった。
それらの全てが遠い過去のようで、でも全てがつい昨日のことのようでもある。
今、私は馬車の前でわずかな荷物を抱えている。
全部自分で稼いで買った数少ない私物を。
「一体どうやって稼いだのかは知らないけれど。きっと汚いお金なんでしょうね。」
長い事お金の出所を、ミランダ達は私がそこら辺の男達に密かに体を売って得たものだと考えていたらしい。
そもそも家の仕事さえきちんとやっていたら、幼い頃から私がどこで何をしているのか興味すら持たない人達だった。
どこかで野垂れ死んでくれたらと、期待すら抱いていたのかもしれない。
蔑むような瞳をしたミランダとジェシカ。
二人は本当に外見も性格も良く似ていた。
「とにかく邪魔者が消えてくれて良かったわ。」
これまで心底願っていたようにミランダは私にそう吐き捨てた。前妻の子供など邪魔でしかなかったのだ。
「さあ、これから楽しいお茶会が始まるわ。
家に戻りましょう、ジェシカ。」
「は〜い、お母様っ。」
誰も邪魔者の私が死んでも困らない。
それが全ての答えだった。
元からこの家で何も持っていなかった私は、余命宣告を受けた翌日、自分で買った物だけを持って子爵家をひっそりと去った。
死に場所に向かうために………




