19.✴︎美しい彼女
「なあ、トリスタン。
あの子に近付くには一体どうすればいいと思う?」
15歳。春。僕に気になる人ができた。
名前はアンジェラ。
子爵家の娘でありながら、なぜか侯爵家に働きに来ている少女だ。歳は一つ違い。
トリスタンに理由を尋ねるが、「人のプライベートは勝手に話せない」と、頑として教えてくれなかった。
こういう所は、融通が効かない性格だ。
アンジェラは仕事熱心で、努力家で、誰に対しても親切だった。
しかし———。いつも和やかに笑うアンジェラの顔が時々、無理に取り繕って笑っていた、ハーシェルの顔と重なって見えた。
侯爵家の子息で、社交界の場を通じて友達となったトリスタンに真剣に相談したところ、妙案が返された。
「は〜ん?恋か!
う〜ん、ならあれだ!平民を装って近付いてみたら?
あの娘なら何でも日曜はよく、孤児院でボランティアをしてるらしいよ。」
「いや、恋じゃないからっ…!」
「ほ〜ん?じゃ、何?」
「………はあ。もう、何だっていいや。」
トリスタンはよく頭の働く男だったが、僕と同じで「貴族至上主義は意味分からん〜」とか言って、何でも予想外の考えをする奴だった。
しかも領民の友達も多くて、誰にでも同じ態度で接する、ちょっと変わった奴。
貴族でもこんな奴がいるんだと嬉しかった。
弟ハーシェルの死後、僕の考えは180度変わった。
この世界に存在する全ての人々は、上だの下だのという優劣で価値を決めることはできない。
誰もが同じように愛される権利があるし、全ての人の命は同じように尊いし、誰もが平等だ。
そんな僕の心に留まったアンジェラは、ボランティアに行く日曜日、孤児院に着く前に、ある一人の老女を救った。
僕は馬車で、その様子をたまたま目撃し……
目が見えず、ボロ切れを纏った老女が道端の石につまずいて倒れた。
誰もがそんな老女を怪訝そうに眺めて、足早に通り過ぎる。
でも、だった一人だけ。
「大丈夫ですか?おばあさん。
お怪我はありませんか?」
アンジェラはごく当たり前のように老女に手を差し伸べて、眩しいほど温かい笑顔を向け、老女を支えた。
杖を渡し、老女が礼をして去るのを手を振って見送った。
胸を雷に打たれたような衝撃が走った。
「……すごい。あんな風に躊躇いもなく、身分も関係なく、人に親切にできるなんて。」
アンジェラは、いつどこにいても変わらなかった。
誰に対しても親切で、優しくて、思いやりがあった。
子爵令嬢なのだから、本来は貴族のはずなのに。
彼女は孤児院の子供達にも、絶え間なく愛情を注げる人だった。子供達も彼女が大好きだった。
何で?どうしてそんな風に人に優しくできるんだ?
何でそんな君が、侯爵家で働いてるんだ?
アンジェラは、僕が初めて出会う、心の美しい少女だった。
他の貴族令嬢なんか、着飾る事と、僕の家の肩書きしか見ていないというのに。
内面が、心が、魂が美しい。まるで天使。
「知りたい。アンジェラの事をもっと…。」
いつしか僕はトリスタンの家に行くたびに、アンジェラを目で追うようになっていた。
胸のときめきが抑えられず、アンジェラの笑顔をいつまでも見ていたいと思った。
人が人を好きになるのに複雑な理由などいらない。
僕はごく自然と、心の美しいアンジェラに恋をした。




