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17.✴︎僕の弟


 今の僕をつくったのは弟のハーシェルだ。


 ロイベルク伯爵家は、長く優雅な歴史を持つ高名な家門で、とても裕福だが、冷酷なことでも有名だった。

 家の者達は誰もが極度の貴族至上主義で、貧乏な平民達を蔑んでいるような人種だった。


 そんな家の三男として生まれた僕には、ハーシェルという弟がいた。

 ただしハーシェルは、父が遊びで領民の娘に手を出してできた異母弟だった。



 父は母にこっぴどく叱られたにも関わらず、まだその娘と関係を持とうとして————

 勘のいい母はそれが許せず、娘を脅し、領地から追い出してしまった。


 だがハーシェルは父の血を継いでおり、追い出すわけにはいかなかった。

 父はハーシェルを渋々引き取ったが、籍は入れず、私生児として扱った。


 家に引き取られたハーシェルは、当然のように母から虐げられるようになった。

 勿論、僕を除く、伯爵家の人間と使用人全員にも。


 まだ幼いハーシェルは朝から晩まで奴隷のようにこき使われて、ひどい時は食事さえ与えられなかった。部屋も、狭くて暗い、物置きだったところ。


 そんなハーシェルを哀れに思った僕は、こっそり彼に余ったパンやスープを届けるようになる。


 「負けるなよ、ハーシェル。大きくなるんだぞ。」


 「兄さま。いつも、ありがとうございます。えへへ……。」


 年の割に体が異様に小さくて、力なく無理に作り笑顔を浮かべるハーシェル。

 そんなハーシェルには頼る人が僕しかいなかったのだろう。

 きっと愛想を振り撒けば、愛してもらえると幼いながら学んでいたのだ。

 彼の笑顔はとても痛々しかった。


 どうして同じ血を分けた兄弟なのに、彼だけがこんな風に虐げられるのか。

 悪いのは父であって、ハーシェルに罪があるとは思えない。


 だいたいハーシェルは、夢中で食事を頬張る事が多かった。よほどお腹が空いているのだろう。

 ろくに食事も与えないなんて。

 母は、この家の者達は、ハーシェルを餓死させる気なのか?

 僕はそんな彼の隣に寄り添い、哀れみの目で彼を見つめた。


 「ハーシェル。お前は大きくなったら、何になりたい?」


 「僕ですか?そうですね。……あ!

 僕は将来、兄さまの役にたつ人になりたいです…!えへへ。」


 「僕の?いや、そうじゃなくて…

 ハーシェル自身の夢はないのか?何かこう、やりたい事とか、欲しいものとか…」


 「僕の夢…。やりたいこと……

 やっぱり兄さまのお役にたつことです!

 だって兄さまは、こんな僕にもお優しくして下さるのですから…。えへへ。

 兄さまのためなら、僕はなんだってやります!」

  

 「はあ。…まあ、そうか。うん。ありがとう。

 けれどハーシェル。いつかは自分だけの夢を持って、今よりもっと楽しく生きるんだぞ。

 分かったか?」


 「……はい!兄さま!えへへっ」


 弱々しい彼の笑顔が、僕の胸に深く突き刺さった。

 だが、大人になればきっと…

 ハーシェルだって、ロイベルクの人間としてもっと丁寧な扱いを受けるようになるはずだ。

 まだ未熟者だった僕もまた、彼の将来を楽観視していた。


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