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15.あなたは誰?


 「いいか?アンジェラ。言いたいことも、聞きたいことも、我慢せずに全部言え!!

 あのバカに————っ、あの、バカに、俺がバカって言ってたって、伝えてくれ!!」


 いくら親友だとしても、トリスタン様がここまでミッシェルを酷く非難することなんてなかったのに。

 一体二人の間に、何があったの?ミッシェルに何があったの?


 今、この場に一番いておかしくない人物《﹅﹅》もいない。

 私はあの日眠りに落ちて、確かにあの人が呟いた誕生日の日付けを知った。

 彼は答えてくれないのではなく、答えられなかったのだろう。


 隣にいたガスパルが、控えめに言った。


 「アンジェラ。———驚くなよ。

 あと、嘘をついた事、あんまり恨まないでやってくれ。」


 ガスパルに目配せをしたトリスタン様が、扉の横に立ち、向こう側に声をかけた。

 キイッと古びた扉が内側に開いた。全てが鮮明に見える。

 ベッドの上から私は、ひと時も目を逸さなかった。

 扉前に立ち、ゆっくりと部屋に入ってくるその人の姿を。


 ねえ。マイケル。

 ————あなたは. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .



 初めから分かっていた、とは言わない。

 むしろ分からなかった自分に腹が立つ。


 だけど少しだけなら言わせて欲しい。


 穏やかな春の、淡くて優しい、空のような色をした銀髪だった。

 その容姿を、最初に会った時に微かに見てしまったせいで、ずっと勘違いしていたのだ。

 髪の色や、平民だという情報から、可能性を除外してしまった。


 目の色も淡くて柔らかい空の色。

 ————だって、あの人は珍しい紫瞳だったから。

 

 「ガスパル。あなた、彼の外見を変えるような魔法でも、かけたの?」


 ぼそっと呟くと、ガスパルがそれを全力で否定した。


 「違う……!俺は決して、そんな安っぽい魔法は使ってないぞ、アンジェラ!奴は………」



 「アンジェラ。僕は何度君に嘘をつくんだろうね。

 ほんと、自分自身にも愛想が尽きてしまう。」



 「だって声だって、違ったわ。」


 あの人と視線が重なる。誰と再会した時よりも、一番緊張する相手が目の前にいる。


 「契約者として君の前に立った時。

 すでに病気は進んでいて、君は僕を認識できなくなっていたんだ。」


 ゆっくり、一歩ずつ彼は私に近づく。

 上品に。神秘的に。今は上下とも、見慣れた服を着ている。

 気品のあるこの人物を、私は誰よりも知っている。

 ベッドの私のすぐ隣に立つ彼を、私は恐る恐る見上げた。

 優しい眼差しをして微笑している彼は、ゆっくりと自身の髪に手をかけた。


 「まさか、…その髪、ウィッグ?」


 こくっと、イタズラがバレて観念した、子供のような頷き方をする。


 「また君に逃げられるのが怖くて。」


 途方に暮れたように苦笑いした彼の、本物の髪が現れた。

 まるで王族のように華やかな金髪が———


 「だって瞳の色だって。」


 「カラーコンタクトと、いうんだそうだ。

 ガスパルさんに特別に作って貰った。」

 

 確かにガスパルのお店には、色々と不思議なものが置いてあったけれど。

 

 「————あの日、ジェシカと抱き合っていたでしょう?

 心変わりしたのではなかったの?」


 声が震え、心も震えてる。涙で視界がぼやけてくる。ああでも、また涙を流すことができるなんて。


 「家族としてのハグだったんだ。

 ———君の病気のことがショックだから、慰めてくれと、君の異母妹に頼まれたんだ。

 確かにあの時は、君の病気の事を聞いた直後で。僕もひどくショックを受けていて……

 悲しかったんだ。

 でも、それだけだった。ジェシカに対するあの時の感情は、それ以外になかった。」


 あなたの気持ちを知るのが怖くて、私は逃げてしまったのに。


 「でも、あれを見た君がショックを受けたのは分かったんだ。

 あのあと君を探し回ったけど、見つからなくて……

 アンジェラ————傷つけてごめん。」


 もう一度会えるなんて思ってなかった。

 顔を見れるなんて、声を聞けるなんて。

 まさかあなたがずっと、私の側にいてくれたなんて。契約者は、あなただった。



 「ミッシェル———————。」



 マイケルの正体は、ミッシェルだった。



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