15.あなたは誰?
『あと一年したら、僕は完全にロイベルク家から独立する。
トリスタンと共同経営してるbelle商会とは別に、僕は僕だけの店を持つことにしたんだ。
そうしたら、あの家とは関係なく、君を食べさせていけるようになる。
そのタイミングで、結婚式を挙げよう。
君を子爵家の娘だと差別するような、貴族至上主義の僕の家族とは離れて暮らせるようになるから、安心して。
貴族?嫌いだね。僕はね、アンジェラ。
心が綺麗な君や、貴族なのに貴族らしくない、トリスタンが好きなんだ。』
————ミッシェル。あなただって高位貴族なのに。
本当にあなたも変わっていて、それでいて愛情に満ち溢れた人だったわね。
その日は、物々しい雰囲気だった。
夢なのか、現実なのか朧げだった。今や触覚のみが私に許された特権。
それなのに、どうして部屋が眩しいの?
見えないはずの皆の顔が、見えるの?
『アンジェラ………!!アンジェラ!!しっかりしろ!!まだ早いだろ!!
早いんだってば!!あいつが待ってるんだから、まだ歯を食いしばって、踏ん張れ!!」
………誰?———ガスパル…………?
「おい!魔法使い!!本当に魔法がかかったんだろうな!?嘘言ったらただじゃおかないからな!!
アンジェラ、しっかりしろよ!!
まだウェディングドレスも着てないのに、勝手にいなくなるなんて許さないからな!!その時は、くそ、死神に文句言ってやる!!」
「トリスタン……様?」
二人の姿がぼんやりと見えたあと、薄っすらと眩しい光が目に飛び込んできた。
あれは白いカーテンだ。窓辺に花が飾ってある。雪が降ってる?暖炉に火が…
………私、どうして目が見えるの?
体を起こすと、まだ少しクラクラとした。
久しぶりに感じる妙に生々しい感触に、あらゆる刺激。
目に見えるもの、聞こえる音、手に触れるシーツや服の色や素材が、はっきりと分かる。
感覚が研ぎ澄まされている。確かに、生きているという感覚だ。
「アンジェラ!!」「良かった!!復活したんだな!!本当に〜〜〜心配したんだぞ!」
泣き喚いてるトリスタン様と、初めてはっきりと顔を見る、ガスパルの姿が目に飛び込んできた。
あのベビーピンク色の髪や、セクシーな黒子。
胡散臭さ満載の、ローブ姿は間違いなくガスパルよね。なぜか、泣いて喚いてるけど。
「私、なんで目が…?いいえ、それだけじゃないわ。
耳まで聞こえる。二人の声がはっきりと。」
「〜〜〜!!それは、後々説明するけどな、アンジェラ。
とにかく、良かった。お前今、死にかけてたんだぞ!危篤だったんだ!もう、無理かと思った……」
「ほら見ろ!どうだ!トリスタン!これで俺が魔法使いだって信じただろう!」
久しぶりに見る、茶色で癖っ毛のトリスタン様は、立派なスーツを着ていて、まさに紳士という風貌だった。
だけど髪はぐちゃぐちゃで……目は真っ赤に泣き腫らしていた。
ガスパルも似たような感じだったけど、少し得意げにしていた。
「私が、危篤?でも今、はっきりと二人の顔が見えるし、耳も聞こえるわ。
どうして?こんな奇跡みたいなことが」
「アンジェラ————約束通り、あいつを連れてきた。
いま、この部屋の扉前にいる。
ミッシェルだ。————あのバカと、会ってやって。それで、なっが〜〜〜い説教でもしてやってくれ!!」
ドクンと心臓がひと鳴りした。この扉の向こ側に、ミッシェルがいる?
あの日子爵家で姿を見たのが最後だった。
もう二度と、生きて会えるなんて思っていなかった。




