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13.子爵家の破滅


 人には誰しも、一つや二つ秘密がある。


 マイケルの正体に疑問を抱きながらも、日に日に私は死に向かって突き進んでいた。

 ついに全ての聴力を失ってしまったのだ。


 視界は真っ暗で、何も見えず、もう何も聞こえない。

 私は虚無だ——————

 それでもマイケルは、変わらずに献身的に側にいてくれた。

 あんな会話などまるでなかったかのように、穏やかに世話を焼いてくれた。

 

 音を聞くことができなくなった今、私達が取れるコミュニケーションの方法は『手のひらに文字を書くこと』。

 触覚が生きている限り、これは有効な方法だった。

 それに、耳は聞こえなくても思考はしっかりしていたし、声帯は損なわれていなかった。

 音が分からないから、そのうち喋り方すら忘れてしまうかもしれないけれど、まだ自分の意思をマイケルに伝える事ができた。

 それだけでも神様に感謝しないと。


 どんな状況になっても、虚しく、死んだようには生きない。

 決して。マイケルとそう約束したから。


 『アンジェラ、今日はラポルトさん夫妻が、お見舞いにきてくれたよ。

 コリンヌさんも、犬もいる。みんな君に元気か、と手を振ってる。

 ニナさんが、君の大好きなビーフシチューをつくってきてくれたよ。あとで一緒に食べよう。』


 『ジャノさんと、ヨランドさんも来たよ。

 美味しいコーヒーを淹れてあげるねって。』


 ————みんな大好き。大好きよ。

 

 もっと早くこの家に来れれば良かった。

 そうしたら、もっとたくさん良い思い出ができたのに。本当に悔しいわ。

 私。まだもっと、生きていたいわ。

 

 「マイケル、あの——————」


 そう言いかけた時、また来客があったらしい。

 マイケルに車椅子に乗せられ、私はリビングに。来たのはトリスタン様だと言う。

 もう私の耳が聞こえないと知って、ひどくショックを受けていると。


 だが、トリスタン様が約束もせず急にここを訪れたのには理由があると言う。

 彼の言葉をマイケルが、車椅子の隣に片膝をつき、私の手のひらに伝えてくれる。

 

 『アンジェラ————いいか、落ち着いて聞くんだ。』


 切羽詰まっている様子だと。


 『君の実家———の事業が、潰れたそうだ。

 ついに、オーロールがなくなってしまった。

 ずっと経営難で……破産したと。」


 「お父様の事業が………?」


 あの日マイケル達が話していた通りだったから、それほどひどいショックは受けなかった。


 『あと、これはお前に打ち明けるかどうか迷ったけれど…

 子爵家の事業が潰れるのに追い打ちをかけたのは、他でもない。

 俺たちの商会、『belle(ベル)』が手を引いたことも関係してる。』


 belle(ベル)————確か、ミッシェルとトリスタン様が共同経営している、商会名だ。


 「手を引いた……?」


 『済まない。アンジェラ。お前には本当にいつも…いっつも!

 隠し事ばかり!一にも二にも隠し事!

 それがカッコいいとか思ってる、あいつが!

 アイツが本当に馬鹿だから……っ、ミッシェルが。』


 手のひらに文字を書く、マイケルの力が少し強まった。


 「ミッシェルが……?」


 『お前の実家に、つまり経営難に陥っていたオーロールに長いこと支援していたのは、俺たち『belle』商会だったんだ。

 その商会が手を引いたから、潰れたと言っても、過言じゃないかも。』


 知らないことだらけだ。あれだけ分かっていたはずの、ミッシェルのことも。

 これまでミッシェル達が、傾きかけていた事業に手を貸していた?

 それを撤退したから、お父様の店は潰れてしまったの?


 「どうして、そんなことが…

 いいえ、それならお父様や継母様、ジェシカ達はどうなったのでしょうか。」



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