10.驚くべき誕生日プレゼント
あれから私達は、マイケルが作ってくれたという豪華なご馳走を食べ、会話を弾ませた。
久しぶりに会うトリスタン様も相変わらずで、ご自身の経営するブティックや商会の事を自慢げに話されていた。
お世話になった侯爵様や夫人、使用人達が私の安否を気にしていたとも。
あの家は、皆優しい方々ばかりだったから。
誰に対しても気さくなトリスタン様は、マイケルやガスパルともすぐに打ち解けたようだ。
「ほら、アンジェラここ。
ここに息を吐いて。火を消すんだ。」
誘導されつつ、マイケルが作ってくれたホールケーキの蝋燭の火を吹き消した。
「おめでとうアンジェラ!!」
「21歳の誕生日おめでとう!」
「おめでとさん!」
「ありがとう。マイケル。ガスパル。それにトリスタン様。」
もう二度と見えない目を覆うと、マイケルがそっと背中を摩ってくれた。
あの日のパーティーといい、今日といい、本当に心から楽しかった。
目が見えなくても伝わる。マイケルにガスパル、そしてトリスタン様の気遣いが。
もう思い残す事はないくらいの、幸福。
やがてお酒が入ったトリスタン様が、愚痴をこぼし始めた。
「あいつは————バカな奴だよ。本当に。」
それが誰を指すのか、私には分かる気がする。
「その…トリスタン様。こんな事聞いていいかは分かりませんが。
ミッシェルは無事に、ジェシカと結婚したのでしょうか?」
恐る恐る尋ねると、しばらく沈黙が流れた。
「……いいや。あいつは誰とも結婚してないよ。」
「結婚、してない?でも。」
あの日ミッシェルは、確かにジェシカと抱擁し合っていた。
邪魔者の私が消えたのだから、すでに結婚していてもおかしくはないのに。
何か問題があったのだろうか。
確かに、私達の結婚にはそれほど費用をかけないと決めていたから、贅沢が好きなジェシカが我儘を言った可能性もある。
「なぜでしょう…?」
「それを俺に聞くのか?アンジェラ。
ただ、お前がいなくなってからのあいつは——やっぱりバカだったよ!!」
酔っ払って、こんな風にくだを巻くトリスタン様を初めて見た気がする。
ミッシェルに何かあったのだろうか?
「彼は、元気ですか?」
「……そんなの俺に聞くなよ。
自分で直接会って、確かめればいい。」
少し意地悪そうに、トリスタン様は呟いた。
誰よりも酔い潰れたガスパルは家に泊らせる事になったが、トリスタン様は仕事があるので帰るという。
別れ際に私の手をギュッと握り、トリスタン様は仰った。
「アンジェラ。どうか、ミッシェルの事をもう一度よく考えてみてくれ。
あいつは———ああ見えて、本当に………
バカで不器用な奴なんだ。」
「トリスタン様?」
「何でもない、じゃあな!とにかく、また来る!ひつこく来るからな!」
子供のようにそう叫ばれたトリスタン様は、馬車に乗り込み、颯爽と去って行ってしまわれた。
「アンジェラ、ここは寒いよ。部屋に戻ろう。」
背後にいたマイケルに腕を引かれて、部屋に戻る。
だけど胸の中に、さっきのトリスタン様の言葉が引っかかっていた。
トリスタン様に、もう一度会えた事は嬉しかったけれど………
ミッシェルがジェシカと結婚してない?
——————どうして?
すぐにでも結婚しそうな程、熱く抱き合っていたのに。
邪魔者は消えたのに?
あなたが幸せでないと、安心してあの世に逝けないわ。




