10.驚くべき誕生日プレゼント
暖炉の薪が燃える暖かいリビングで、私は椅子に座るよう誘導された。
思えば朝からずっと、キッチンが賑やかだった気がする。
良い匂いがするのはいつもの事だけれど。
マイケルは私が目覚める前に、色々と準備をしてくれていたんだわ。
「アンジェラ〜、待ってろ〜!
めちゃくちゃ美味しい料理が出てくるぞ!」
「ガスパルさん、サボってないで早く魔法で運んで下さい。」
「おま、マイケル〜!だから魔法使い様をこき使うなって!」
賑やかな二人の声。テンポや感覚で分かる。楽しそう。
便利な魔法を使ったらしく、マイケルの作ってくれた誕生日用の豪華な料理がテーブルにズラッと並べられた、らしい。
「アンジェラ、それと……」
言葉を濁したマイケルの声と共に、玄関の呼び鈴が鳴った。
「サプライズプレゼントだ、アンジェラ。
君に会いたがっている人を呼んだ。」
「————アンジェラ!おい!!俺だよ、俺!!分かるか!?まさか俺のこと、忘れてないよな!?」
暗闇の中で、聞き覚えのある声がした。この独特なイントネーション。話し方は。
「…まさか、トリスタン様?」
「〜〜〜そうだよ!!元気だったか!?
アンジェラ!!」
まさか。なぜここにトリスタン様が?
驚いたのと同時に、懐かしい方との再会に、思わず涙ぐんでしまった。
まさか死の間際に、もう一度トリスタン様に会えるなんて。
感動的な再会を喜んだのも束の間。
「アンジェラ…………この、バカッ!!
何で何も言わずにいなくなったんだよ!!
俺達《﹅﹅》がどれほど心配したと…!!」
真正面からトリスタン様の怒声が飛んだ。
その言い方からすると、トリスタン様だけでなく、きっと彼も………。
「おっと!こんなめでたい日にレディーを怒鳴りつけるなんて、俺も紳士失格だな。
改めて、アンジェラ。久しぶり。
もう一度お前に会えて良かった。
誕生日、おめでとう。
またお前の誕生日を祝えて良かったよ。」
トリスタン様の声は涙声だった気がした。
「トリスタン様……」
「ごめん、アンジェラ。驚かせたくて。」
車椅子の隣に、マイケルがしゃがんだ気配がする。
「マイケル。トリスタン様とは、知り合いだったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
「いや、アンジェラ。俺がずっとお前を探していたんだ。その時、目撃情報のあった町で、たまたま噂を聞いて。
それで店主に…魔法使い?に無理やり迫ったんだよ。
アンジェラの居場所を。」
「うちの店に来たんだ。こいつ・トリスタンがな!!
しつこいから仕方なく。
重ね重ね本当にすまないな、アンジェラ。」
トリスタン様に続き、ガスパルまで謝罪してくる。
「悪いとは思ってないわ。
びっくりしただけ。ありがとうガスパル。
……トリスタン様。私を探してくれていたのですね。ご心配をおかけしました。」
「だから〜〜!アンジェラ!水臭いんだよ!
俺達、友達だっただろ?」
そうだった。
トリスタン様はいくら私がミッシェルと縁を切ったからって、そっぽを向くような人ではなかった。
貴族だの、平民だのという垣根を、簡単に超えてこられる方だった。
どことなく私が、負い目を感じないように気遣ってくれていた。
あれだけ散々お世話になったのに、何も言わずに消えたんだもの。
心配されて怒られても、当然だわ。
「よーーーし!
みんな揃った所で、さっそくアンジェラの誕生日パーティーをやろう!!」
「賛成だ!!」
威勢のよいガスパルの声に、マイケルとトリスタン様は息ぴったりに叫び声を上げた。
トリスタン様は、乗ってきた馬車いっぱいにプレゼントを用意されていた。
暖かそうな服にブランケット、踵の低い靴。
保存食のハムやベーコン、栄養価の高い蜂蜜、果物。体に良いとされる数種類の薬草。
なぜか大きな、クマのぬいぐるみまで?
私が不自由ないように、素敵な刻印が入った杖も。
まるでサンタクロースのような方ね。
思い返してみれば、トリスタン様はいつも奇想天外な発想で私を驚かせたり、喜ばせてくれたわ。
懐かしい。
トリスタン様がここにいるという事は。
……彼は、元気だろうか?




