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8.優しい彼との暮らし


 ✁┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 後日改めて開かれた歓迎パーティー。

 私とマイケルは、目と鼻の先にあるラポルトさん夫妻の自宅へと招かれていた。

 丁寧にマイケルに手を引かれて、彼らの家へと辿り着くと……

 

 「いらっしゃい、アンジェラ!マイケル!」


 扉を開けるなり、待ち構えていた夫妻が元気よく私達を出迎えてくれた。

 残念ながら表情はよく分からなかったけれど、それでも心から出迎えてくれているのは、声の強弱や、雰囲気で分かる。

 誰かから歓迎されるという事が、どうしようもなく嬉しくなった。


 「手土産に、マイケルと二人でクッキーと、タルトを焼いたんです。

 良かったら皆さんで食べて下さい。」


 「まあ、わざわざありがとう。

 う〜〜ん!すっごく美味しそう。それなら食後のデザートに出すわね。」


 「アンジェラ、マイケル!ほら、二人とも早く座って」


 「やあ、こんばんは。アンジェラ、マイケル。」


 「こんばんは、ジャノさん。ヨランドさん。」

 「ワン!ワンワン!」

 

 暖かい彼らの自宅にはコリンヌさんと、おそらく大きな飼い犬がいて、ジャノさん達も招かれていた。

 暖炉のそばにはおそらくツリーがあり、イルミネーションがキラキラと点滅している、のだと思った。


 「それでは改めて〜ようこそ、アンジェラ!マイケル!私達の街へ!」


 「と言っても、こんな片田舎だけどな。」


 「馬鹿ね、それがいいんじゃない。」


 「ねえちょっと、先にこっち料理運ぶの手伝って」


 私とマイケルはお客様だからといって、早々に椅子に座らされた。

 皆まだパーティーの準備に忙しそう。

 それぞれの髪の色、背丈、声の雰囲気といったもので何とか判別できる。

 相変わらず音は聞き取りづらいが、皆の楽しげな笑い声は分かる。

 フサフサとした犬の毛の感触。威勢のよい鳴き声。

 ガチャガチャと食器を運ぶ音。 

 多分あれは、コリンヌさんが楽しそうに部屋の中を走り回る音。

 こんなに人がたくさんいて、賑やかな空間にいるのは本当に久しぶり。


 部屋中にビーフシチューのような良い香りが漂ってる。

 どうしよう。私。すでにちょっとワクワクしてる。

 

 「ふふ。アンジェラ。楽しいね。」


 自然と片足でリズムを取っていると、隣に座っていたマイケルがそっと耳打ちする。

 少し恥ずかしかったけれど、マイケルには本心を隠さなくてもいい気がした。


 「ええ。とっても。」


 「さあ、食べて食べて!」


 「アンジェラ。私達に遠慮はいらないからね。

 何か見えにくいものがあれば、いくらだって聞いていいし、聞こえづらければ、聞こえないとハッキリ言ってくれていいのよ。」


 全ての準備を終えたラポルトさん夫妻と、コリンヌさん、ヨランドさん達が席についた。

 皆でお祈りして、一斉に食事を始めた。

 目の前の料理から、最高に美味しそうな匂いが漂ってくる。

 確かに見た目はぼんやりしてしまうが、この匂いだけは誤魔化せない。


 「これはローストチキンだよ。アンジェラ。

 ニナ夫人は本当に料理が上手だ。今、皿に取り分けるから待ってね。」


 「いい匂いだわ。美味しそう…!

 ありがとう、マイケル。いつも助かるわ。」


 手慣れた様子でマイケルが、私に食事を切り分け、皿に盛ってくれた。


 「あら〜うふふ!マイケルさんたら、アンジェラには本当に優しいのね!」


 向かい側に座るヨランドさんが、茶化すように言った。上機嫌なのは、お酒を飲んでいるせいもあるのかも。

 

 「ヨランド。彼はアンジェラの契約者だよ?

 仕事として真面目にやってるんだよ。」


 叱るようにジャノさんが言うが、ヨランドさんには全く通じてないみたいだった。


 「そうかしら〜?私にはそれだけとは思えないけれど〜?うふふ!」


 「仕事とはいえ…アンジェラには誠心誠意尽くすつもりですよ。だってアンジェラは凄く素敵な女性ですから」


 「きゃ〜!ジャノさん聞いた?今の何?

 愛の告白みたい!」


 「全く、君って人は」


 何だか恥ずかしかったが、隣で機嫌が良さそうにマイケルが笑っていて、私も嬉しかった。

 胸がポカポカと温かくなる。

 食後私はコリンヌさんに手を引かれて、歌を聞いてほしいとお願いされた。

 横に大きな犬がやってきて、私達を見守るようにその場に座った。

 

 「聞いてアンジェラ、私歌を覚えたのよ。」


 「わあ。ぜひ、聞きたいわ。」


 彼女が口ずさんだのは、私も大好きな教会の讃美歌だった。

 そのうちマイケルやラポルトさん夫妻、ジャノさん達も全員集合して、皆で讃美歌を歌いはじめた。

 讃美歌はやがて大合唱になり、声が重なり合う美しいハーモニーになった。

 ……きっとそうだろう。


 「マイケルもこの讃美歌を知っているの?」


 「ああ。……彼女が好きな歌だった。」


 マイケルの声はどこか少し寂しそうに聞こえた。



 楽しい時間はすぐに終わってしまうものだ。


 「今日は本当にありがとうございました。

 私、実はホームパーティーというものは初めてで。」


 帰り際にラポルトさん夫妻に改めてお礼を言うと、ニナさんが私をぎゅと抱き締めてくれた。


 「またいつでも遊びに来ていいのよ。

 それに困った事があればいつでも相談して。

 アンジェラ。私達はあなたの事が大好きだから!」


 お土産だって貰ったのに、申し訳ない思いでいっぱいだ。人の温もりに涙する。


 「またきてね、アンジェラ!」

 「今度は僕の店でやりましょう!」

 「いいわねー、それ賛成!」


 コリンヌさんにジャノさん、ヨランドさんと続いた。

 嬉しくて、どこかくすぐったい。

 だけど、知らなかった。まさかパーティーが終わると、こんなにも寂しくなるだなんて。

 贅沢な悩みなのだろうか。


 「はい。また来ます。また、パーティーやりましょう。」


 「ふふ。じゃあ、帰ろうか。アンジェラ。」


 「ええ。マイケル。」


 皆に手を握って、私を導いてくれるマイケルにも、何度もお礼を言った。

 かつて子爵家で盗み見た光景。

 一度でいいからと、憧れを抱いていた。

 ミッシェルと別れ、余命わずかな私には一生縁のないものだと思って諦めていた。

 全てが視界に入らなくても、耳がぼんやりとしか聞こえなくても、人生初の素晴らしいパーティーだった。凄く楽しかった。

 凄く、心から幸せだった。




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