8.優しい彼との暮らし
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後日改めて開かれた歓迎パーティー。
私とマイケルは、目と鼻の先にあるラポルトさん夫妻の自宅へと招かれていた。
丁寧にマイケルに手を引かれて、彼らの家へと辿り着くと……
「いらっしゃい、アンジェラ!マイケル!」
扉を開けるなり、待ち構えていた夫妻が元気よく私達を出迎えてくれた。
残念ながら表情はよく分からなかったけれど、それでも心から出迎えてくれているのは、声の強弱や、雰囲気で分かる。
誰かから歓迎されるという事が、どうしようもなく嬉しくなった。
「手土産に、マイケルと二人でクッキーと、タルトを焼いたんです。
良かったら皆さんで食べて下さい。」
「まあ、わざわざありがとう。
う〜〜ん!すっごく美味しそう。それなら食後のデザートに出すわね。」
「アンジェラ、マイケル!ほら、二人とも早く座って」
「やあ、こんばんは。アンジェラ、マイケル。」
「こんばんは、ジャノさん。ヨランドさん。」
「ワン!ワンワン!」
暖かい彼らの自宅にはコリンヌさんと、おそらく大きな飼い犬がいて、ジャノさん達も招かれていた。
暖炉のそばにはおそらくツリーがあり、イルミネーションがキラキラと点滅している、のだと思った。
「それでは改めて〜ようこそ、アンジェラ!マイケル!私達の街へ!」
「と言っても、こんな片田舎だけどな。」
「馬鹿ね、それがいいんじゃない。」
「ねえちょっと、先にこっち料理運ぶの手伝って」
私とマイケルはお客様だからといって、早々に椅子に座らされた。
皆まだパーティーの準備に忙しそう。
それぞれの髪の色、背丈、声の雰囲気といったもので何とか判別できる。
相変わらず音は聞き取りづらいが、皆の楽しげな笑い声は分かる。
フサフサとした犬の毛の感触。威勢のよい鳴き声。
ガチャガチャと食器を運ぶ音。
多分あれは、コリンヌさんが楽しそうに部屋の中を走り回る音。
こんなに人がたくさんいて、賑やかな空間にいるのは本当に久しぶり。
部屋中にビーフシチューのような良い香りが漂ってる。
どうしよう。私。すでにちょっとワクワクしてる。
「ふふ。アンジェラ。楽しいね。」
自然と片足でリズムを取っていると、隣に座っていたマイケルがそっと耳打ちする。
少し恥ずかしかったけれど、マイケルには本心を隠さなくてもいい気がした。
「ええ。とっても。」
「さあ、食べて食べて!」
「アンジェラ。私達に遠慮はいらないからね。
何か見えにくいものがあれば、いくらだって聞いていいし、聞こえづらければ、聞こえないとハッキリ言ってくれていいのよ。」
全ての準備を終えたラポルトさん夫妻と、コリンヌさん、ヨランドさん達が席についた。
皆でお祈りして、一斉に食事を始めた。
目の前の料理から、最高に美味しそうな匂いが漂ってくる。
確かに見た目はぼんやりしてしまうが、この匂いだけは誤魔化せない。
「これはローストチキンだよ。アンジェラ。
ニナ夫人は本当に料理が上手だ。今、皿に取り分けるから待ってね。」
「いい匂いだわ。美味しそう…!
ありがとう、マイケル。いつも助かるわ。」
手慣れた様子でマイケルが、私に食事を切り分け、皿に盛ってくれた。
「あら〜うふふ!マイケルさんたら、アンジェラには本当に優しいのね!」
向かい側に座るヨランドさんが、茶化すように言った。上機嫌なのは、お酒を飲んでいるせいもあるのかも。
「ヨランド。彼はアンジェラの契約者だよ?
仕事として真面目にやってるんだよ。」
叱るようにジャノさんが言うが、ヨランドさんには全く通じてないみたいだった。
「そうかしら〜?私にはそれだけとは思えないけれど〜?うふふ!」
「仕事とはいえ…アンジェラには誠心誠意尽くすつもりですよ。だってアンジェラは凄く素敵な女性ですから」
「きゃ〜!ジャノさん聞いた?今の何?
愛の告白みたい!」
「全く、君って人は」
何だか恥ずかしかったが、隣で機嫌が良さそうにマイケルが笑っていて、私も嬉しかった。
胸がポカポカと温かくなる。
食後私はコリンヌさんに手を引かれて、歌を聞いてほしいとお願いされた。
横に大きな犬がやってきて、私達を見守るようにその場に座った。
「聞いてアンジェラ、私歌を覚えたのよ。」
「わあ。ぜひ、聞きたいわ。」
彼女が口ずさんだのは、私も大好きな教会の讃美歌だった。
そのうちマイケルやラポルトさん夫妻、ジャノさん達も全員集合して、皆で讃美歌を歌いはじめた。
讃美歌はやがて大合唱になり、声が重なり合う美しいハーモニーになった。
……きっとそうだろう。
「マイケルもこの讃美歌を知っているの?」
「ああ。……彼女が好きな歌だった。」
マイケルの声はどこか少し寂しそうに聞こえた。
楽しい時間はすぐに終わってしまうものだ。
「今日は本当にありがとうございました。
私、実はホームパーティーというものは初めてで。」
帰り際にラポルトさん夫妻に改めてお礼を言うと、ニナさんが私をぎゅと抱き締めてくれた。
「またいつでも遊びに来ていいのよ。
それに困った事があればいつでも相談して。
アンジェラ。私達はあなたの事が大好きだから!」
お土産だって貰ったのに、申し訳ない思いでいっぱいだ。人の温もりに涙する。
「またきてね、アンジェラ!」
「今度は僕の店でやりましょう!」
「いいわねー、それ賛成!」
コリンヌさんにジャノさん、ヨランドさんと続いた。
嬉しくて、どこかくすぐったい。
だけど、知らなかった。まさかパーティーが終わると、こんなにも寂しくなるだなんて。
贅沢な悩みなのだろうか。
「はい。また来ます。また、パーティーやりましょう。」
「ふふ。じゃあ、帰ろうか。アンジェラ。」
「ええ。マイケル。」
皆に手を握って、私を導いてくれるマイケルにも、何度もお礼を言った。
かつて子爵家で盗み見た光景。
一度でいいからと、憧れを抱いていた。
ミッシェルと別れ、余命わずかな私には一生縁のないものだと思って諦めていた。
全てが視界に入らなくても、耳がぼんやりとしか聞こえなくても、人生初の素晴らしいパーティーだった。凄く楽しかった。
凄く、心から幸せだった。




