夢
奥道は学校での一日を終えて家への道をとぼとぼと歩いていた。
今日一日かけても奥道の中で明理に告白するか否かが決まることはなかった。授業、昼休み、掃除の時間全てを費やしたがダメだった。
失敗したときのリスク、今までの関係が崩壊する可能性が脳裏をよぎり続けてしまう。
そもそも成功する可能性があるのかも怪しい。だってお隣さんで幼馴染み、さらにこっちは片思いしているのだ。もしあちらにもその気があるなら気づけると思うのだ。
だからやっぱり告白はやめておいたほうがいいのでは……。
だがそれでどこぞの誰とも知らなかったイケメンの先輩にとられるのも絶対に嫌だ……。
そんな思考を歩きながら繰り返す奥道。
そして目的地、つまりは自宅へと帰ってきた。
いつもと変わらないの自分の家を奥道は見上げる。
本当にいつも通りだ。今日学校へ行く前と全く変わらない。
家主の心境とは大違いだ。そんなことを考えてしまいため息がでる。
鍵を開け、家に入る。
そのまま二階の自室へ入り、着替えもせずにベッドへダイブする奥道。
「はぁ……」
きょう何度目かもわからぬため息が出てくる。
本当にどうしようか。
下校時と全く同じ思考の沼にはまり、そこから抜け出せなくなる。
延々と、ぐるぐると繰返し考え続けた。
「明理、好きだ」
正面から明理をみてはっきりと自分の気持ちを伝える奥道。
唐突に告白された明理は目を見開くほど驚いている。言葉がすぐにはでてこない。
明理から目をそらさず、じっと彼女からの返答を奥道は待つ。
明理の表情から驚きがなくなっていき、決心したものになる。
「ごめん」
簡潔な返答が奥道にとどく。
それによって奥道の心の中に広がる絶望。
「サッカー部のイケメン先輩に告白されたの。顔が好みだったからOKしちゃった」
奥道にさらなる追い打ち。
「彼氏ができたから、これからはあんたに構ってもられないから。」
三度目の追撃。
「学校とかで気安く話しかけないでね」
四度目。
「あんたも彼女つくりなさいよ」
五度目。
「あとそれから……」
「うるさい! もういいよ!」
腹のそこから声が出た。
目に映ったのは明理ではなく見慣れた自分の部屋の天井だった。一瞬、奥道は自分の状況が分からない。寝てしまっていたようだ、とすぐに理解した。
さっきのは夢か、と気づき脱力感が身体全体に広がる。
「びっくりした」
すぐ横から声がした。夢の中で絶望感を与えた声、そして片思いの相手の声。
奥道は横を見る。
そこにいたのは予想通り、明理だった。いきなり大声をあげたことに驚いたのか上体が少し後ろに反れている。
「どうしたの、いきなり大声だして」
「いや、なんでもないよ」
奥道はベッドから起き出しつつ、返事をする。
「あっそう、あんまり変な夢ばっかりみてるんじゃないわよ」
「うっせ」
あらぬ誤解を生んでいる気がするが本当のことをいうこともできない。
「まあ、いいわ。じゃあ、私は夕ご飯つくり始めるから」
「もう? 早くないか」
「今何時か分かってる? もう七時になるわよ」
スマホを取り出して時刻を確認する。
明理のいうとおり、あと数分で七時になる。だいぶ寝過ごしたようだ。
「寝ぼけてるなら顔洗ってきなさい。そしたらたまには手伝ってね」
「はいはい」
生返事で返すと明理は顔をしかめつつ部屋を出て行った。
「私、今日は考えたいことがあるからあんまり手間かけさせないでよね」
と言い残して。
部屋に残された奥道はぽかんとしながら明理の出て行った部屋のドアをみている。
明理が今日考えること、それはつまり告白の返事ではないのか。やはり今回は今までと違い、すぐに断っていないということだ。
「やっぱり……」
無意識に奥道は声が出てしまう。
これも夢だったら、と思わずにはいられなかった。
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