01告白
興味をもってくれてありがとうございます。
「お前のお姫様が昨日また告白されたらしいぜ」
休み明けの登校早々、仲のいいクラスメイトからそんな知らせを受けたのは松永奥道、平凡で気弱な男子高校生である。
「え、また」
かすかな驚きをもちつつ返事をする、と同時に内心少し呆れてしまってもいる。
二人の会話でお姫様と言われている女子生徒の名前は前崎明理。奥道の隣に済む幼馴染みにして絶賛片思い中の女の子である。
中学生に間違われそうなほどの小さな身体、鼻先がスッと通ったアイドルのような造形をした顔、肩の高さまで伸びた艶を帯びた黒髪。文句なしの美少女である。
それゆえ入学してから今に至るまでの約半年で告白された回数はすでに二桁を超えている。そしてそれを全てその場で断っている。
だからこそ意中の明理が告白されたと聞いても奥道は落ち着いていた。
どうせまた振るんだろう、なんだったらもうその場で振ってしまったか。
思考が顔に出ていたのか、クラスメイトが
「今回は油断しているばあいじゃないぜ、なんたって…」
そこに。
「何の話?」
会話に混ざろうとする声が聞こえた。毎日聞いているのにその声を聞いただけで緊張する、凛としていて耳に確実に届く声。
奥道達がそちらを振り向く。
噂の人、奥道の幼馴染みで片思い相手である、前崎明理であった。
「どうしたの、急に黙って」
お前がまた告られた話をしてたんだよ、とは言えないので二人は黙りこくってしまう。
怪しむ明理。
「変なの」
「あははは……」
適当に誤魔化すクラスメイト。
ふうん、と勝手になにかを納得したようなしてないような反応。
「ま、いいわ。それから奥道」
二人に向かっていた明理が全身を奥道に向けてくる。
「何だよ」
「今日の夕飯何がいい?おばさんにあんたの夕ご飯頼まれちゃって」
母親が今日の夜は両親揃って出かけると言っていたことを思い出す。で、隣の家の明理に夕ご飯を頼んだと。
明理の手料理。今までも何回も食べてはいるがやっぱり嬉しい。なにより今日はわざわざ俺のためにつくってくれるんだ。
密かにテンションが上がる、そしてそれを必死に顔に出さないようにする奥道。
「なんでもいいよ、明理が食べたいので」
「あっそ、じゃあそうする」
そう言って明理は自分の席のほうに向かっていった。
「良かったじゃねえか、料理してもらえて。この幸運やろーが」
声が届かないほど充分距離が離れてから明理が来る前の二人での会話が再開する。
「別に今までも食べたことあるし」
素っ気なく返す。
「その今までも食べていることも含めて幸運なんだよ」
気持ち強めに背中を叩かれる。
「ただの幼馴染みだよ」
「ただの幼馴染みの飯じゃ人間そんなにはニヤケ顔にはならねえ」
言葉に詰まる奥道。全く表情を繕えていない。
「お前は告らないのか」
ぐふっ
意表をつかれさらに咳き込む奥道。
「いきなり何言ってんだよ、するわけないだろ。あいつはただの幼馴染みなんだから」
「お前、そんなこと言ってると本当に先越されちまうぞ」
あきれ顔を向けられる。
「俺には関係ないって。それにあいつに限って恋愛なんてないだろ。今日だって告られて振ったんだろ?」
「いや振ってないぜ」
否定されて奥道の頭上に?が浮かぶ。
「いやさっき告白されたって言ってたじゃん」
「言ったな」
「じゃあ、あってるじゃん」
「確かに告られたらしいよ。けど、今回はすくに断りはせずに保留したんだってさ」
「え?」
変な音を生む奥道。
そんな奥道の様子を面白がりつつ話を続けるクラスメイト。
「相手はバスケ部の二年だって。イケメンで好青年って校内では有名な人」
言葉が何も出ないし身体も固まってしまう奥道。
「ま、今までの相手とは違うしお姫様でも悩んじゃうよな。もしかしたらOKするかも」
かわらず顔、姿勢の奥道少年。
「もし手遅れが嫌ならお前も告るのも手だと俺は思う」
クラスメイトのニヤニヤは止まらない。
そして奥道は動けない。
最後まで読んでくれてありがとうございました。