幻の楽団
勿論フィクションです。
ちょっと思いついて書いてみました。
さて、何の楽団でしょう?
スーパーで買い物した帰り、掲示板に張ってあるポスターのてっぺんを見て、私は我が目を疑った。何度か見直して本当だとわかった時、こんなこと本当にやるの? …と思った。
『楽団員募集。音楽に関わっていない未経験者でも才能があれば採用します。楽譜が読めなくても大丈夫。下記の条件にあてはまる方は是非オーディションへお越しください』
一番下に会場の場所が書いてある。この近くの公民館を借りてやるらしい。
文章を読んで、私はもう一度目線をポスターの一番上に向けてしばらく眺めた後、目線を下げて条件の所を読んだ。一番上の条件は必須として、次は?
『年齢制限なし』
だろうね。コツさえつかめば小さい子から年配の人まで誰でもできるだろう。
『肺活量が○○ある方(当日測定します)』
なるほど、確かにそれは必要だ。調節するけど肺活量が少なすぎたら息が切れる。
『煙草を吸わない方』『歯周病ではない方(治療している方は可)』
……うん、まあわからないでもない。煙草は中に染付いて取れないからな~。
『ネギ・ニラ・ニンニクなど匂いのキツイ物を常食されない方(滋養強壮の錠剤・ドリンクも同じ扱い)』
『口臭予防食品などにアレルギーの無い方』
あ~、これは確かに必要だわ。どれだけの時間をどれだけの人数で演奏するか知らないけど、音は意外と遠くまでよく通るからな。
『髪は短くカットするかまとめるかすること』
うんうん、髪の毛一本でも邪魔するとできないからね~。
後はコンサート時の服装規定と練習のこと、全員参加で練習する時とコンサート当日に休日を取ることが可能であること、と書いてある。
練習は昼と夜の二部門で、どちらかに出てもいいし両方出てもいいようだ。練習時間もそんなに長くない。全員参加になるのは一週間前からか。そうね、あんまり練習しすぎると神経痛になるかもね。
私は更に下を見た。そこには待遇が書いてある。
手当は………まあ、仕事休んでたまに出るくらいならこんなもんだろう。交通費は出ないか。名誉・名声のためにやるようなもんだしね。
当日弁当支給。練習中の保湿剤支給。
あぁ、保湿剤は重要だね。乾いたら出ないし。
………う~ん、どうしよう? やってみようかな?
一応自分も応募資格に当てはまるんだけどプロほど上手いわけでもないし、世の中にどれだけ出来る人がいるか知らんけど、私の周りにはいないんだよな~。
考えた挙句、やはり私は挑戦することにした。
こんな機会は滅多にない。これまで生きて来て大舞台で脚光を浴びるなんてことは一度も無かった。このままイチ主婦で終わりたくない。落ちて元々、やるだけやってみよう!
そう決めてさっそく電話を掛けた(メールもラインも出来ないガラケーだから)。
◇◆◇◆◇
当日、私はオーディション会場に向かった。
が、なんと小さいホールは人が溢れるほどだった。
こんなにたくさんの人から選ばれるなんて無理だぁ! …などと思っていたが、肺活量の測定や条件などで半数以上が落とされた。中には粘って実演した人がいたけど(上手いが煙草を吸う人だった)ダメだと追い返された。
最終的にオーディションに残ったのは十八名。
私はその中の一人に入った。
初めて人のいる前で長々と披露したが、緊張して上手くいかずに落選してしまった。舞台ではこれ以上の人の前で披露するのだ。こんなことで緊張していては務まらないだろう。
他の地域でもオーディションが行われているらしい。もともと大勢で演奏するものではないので想像もつかないが、世間の話題になることは間違いないだろう。
しかし、世の中、上には上がいる。
受かった人達のなんと上手いこと!
私なんてまだまだだったわ…。
落ち込んだけど、このコンサートには絶対に行こうと決めた。だって今まで聞いたことがないくらい珍しいんだもの!
会場を去る時、チケットがいつ頃売り出されるかを聞いて家に帰った。発売されたらすぐに買うつもりでいたから。
――しかし、結局コンサートは行われなかった。
それは当時の流行病によるもの。普通のコンサートでも無理なのに、今回のコンサートなんてもっと無理だった。
何しろ全員『口笛』のみで演奏するのだから…。
こうして、口笛楽団は幻に終わった。
でも、今年はマスクの規制も無くなったし、もしかしたらまた『団員募集』のポスターが貼られるかもしれない。
今度オーディションが行われた時は、必ずや勝ち取ってみせる!
エイプリルフールに投稿した方がよかったかな?
何度も言いますがフィクションですよ。
本当にあったら行ってみたいけど、やらないでしょうね~。
お読みいただきありがとうございました。