第八十四話『ホアイダと五人の勇者』前編
ふわふわしていた。
何だか、夢を見ている気分だった。
「ヴェンディ?」
死んだはずのヴェンディが隣に居る。
私の片手を握り、微笑んでいる。
「俺は地獄行きだった。けど、ホアイダは天国に行くだろうな。ホアイダは優しいし、罪を自覚して力を正しいことに使える素晴らしい人間だ。だから、間違っても俺の元には来ないでくれ」
ヴェンディはそう言って、地獄の悪魔達に引きずり込まれる。
私が手を伸ばしても、ヴェンディには触れられず、離れていく一方だった。
「ヴェンディ!待って下さい!置いてかないで!!ああぁぁぁ!」
ヴェンディが悪魔達に連れ去られるのを見て、私は必死に手を伸ばして叫んだ。
「うああぁぁ!はぁはぁ、ゆっ、夢?はぁぁ」
どうやら夢だったらしい。
朝目覚めると、隣にはポム吉が居た。
笑顔で私のことを見ている。
「そうでした。今日は大事な日でした」
私はネットでベゼを倒す仲間を集めた。
それも、強力でベゼを倒す強い新念がある者達だ。
警察の中には、ベゼに恐れて戦う気もない者が何人も居るし、世界中の皆がベゼに屈していた。
しかし、まだ私と同じ気持ちの者は居るらしい。
待ち合わせ場所はこのホテル。
尾行など用心するように伝えてあるし、時間をずらして部屋に入るよう説明したから大丈夫だろう。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます」
集まったのは五人の男性だった。
若い人も居れば、おじさんも居る。
全員軽く紹介しよう。
イワン、24歳の軍人。
見える範囲で、物や人の位置を入れ変える能力。
ヴォルフ、31歳の教師、Sランク冒険者。
触れた物を液体にする能力。
フロール、40歳の近衛兵。
結界を作る能力。
アムレート、52歳の警察官、元Sランク冒険者。
あらゆる物を透明にする能力。
ヘルヴォル、88歳の老人、元Sランク冒険者。
記憶を操る能力。
ベゼに殺される覚悟……いや、死より恐ろしい結末を覚悟した五人の勇者だ。
「君が、探偵ルーチェ?思っていたより若いし、女の子だったなんて……」
全員が椅子に座り、内股で座る私の方に目を向けた。
皆、私が若い女性だったことに、驚いてるようだった。
「念押ししますが、ベゼに殺されても誰かのせいに出来ませんからね」
「分かってる。俺だけじゃない、ここに居る者全員、ベゼに屈することが一番悲惨なことだと理解している。俺は何だってする」
「そうだ。それより、作戦ってのを話してくれ」
男達の目は、肝が座っていた。
私なんかよりずっと覚悟が決まっていて、闘志に燃えている。
「私はホアイダ、隣のクマちゃんはポム吉です。皆さん、お互いの能力は把握しましたね?」
「あぁ、名前も能力も覚えた」
「では、これからベゼの性格やベゼがどういう存在が熟知して貰います。私はベゼの正体だったマレフィクスと六年間友達でしたから」
男達の目が変わった。
しかし、何か聞いてくることはなく、黙って私が作った資料に目を通した。
ベゼの性格、やりそうなこと、仲間、国の構造、能力、全てを載せた資料だ。
今までセイヴァーや警察によって得た情報を、男達に知ってもらう。
「こんなこと言って悪いんだが、ヘルヴォルの爺さん?あんた足でまといになるんじゃねぇの?流石に歳すぎる」
イワンがヘルヴォルを横目で見て、心配そうに言った。
確かに、ヘルヴォルは元気そうには見えないし、背中も曲がりきっている。
どう見ても戦える年齢ではないし、見た目を見れば不安しかないのは分からなくもない。
「大丈夫ですよ。ヘルヴォルさんは元々Sランク冒険者、それに彼の能力がなければベゼを倒すのは難しいと……」
「記憶を操る能力か?」
「そうです。ベゼは相手の記憶を見る能力を持っています。触られれば作戦がバレてしまう。この戦いのキーパーソンはヘルヴォルさんです」
「……分かったよ」
作戦は全員に伝わった。
「では、明日の朝の二時に神聖ベゼ帝国に潜入します」
* * *
朝二時、外はまだまだ暗い。
しかし、ベゼの国は明かりが付いてるお店や家がたくさんある。
それでも、昼間よりは人は居ないし、ほとんどの人が眠っている。
街のあちこちに魔物も居るが、アムレートの能力で透明になっていた為、襲われずに済んだ。
マレフィクスは一度見たら忘れない程の記憶力があった。
つまり、ベゼの能力で創られたこの魔物達は、私達がこの国の者ではないことが分かってしまうだろう。
バレてはいけない。
「イワンさん、頼みます」
「あぁ」
イワンの能力で、屋上に向けて放った弾丸と我々六人の位置を入れ替える。
一瞬にして城の屋根に移動した私達は、窓をヴォルフの能力で液体にし、そこから潜入する。
城の大きな部屋で、マレフィクスがベットの上で眠っていた。
「こいつが、ベゼ」
「どうする?今なら殺れるぞ」
アムレートの意思で、お互いを見えるようにしていたが、周りからは見えない。
マレフィクスは寝ている。
正直今なら殺れる。
「首を液体にして下さい。それで死にます」
「あぁ」
あまりにも呆気ない。
事が上手く行き過ぎて怖いくらいだ。
ヴォルフがマレフィクスの首を触り、首を液体にすれば首がなくなって死ぬ。
だが、マレフィクスはそう簡単に行く相手ではなかった。
ヴォルフがマレフィクスの首に触ろうとした瞬間、マレフィクスの顔がベゼの顔に変わり、一瞬にして姿を消した。
この間僅か一秒もない一瞬の出来事だった。
「バカな!?俺は瞬き一つしていなかったんだぞ!?」
「だとしてもなぜ気付かれた!?奴は寝ていた!気配に敏感過ぎる!」
「フロールさん!」
すぐに、フロールが部屋全体に結界を張り、我々六人をもう一つの結界で防御した。
マレフィクスがベゼの顔に変わり、姿を消した今、我々は困惑していた。
「ホアイダとその一行様、ようこそ我がお城へ」
私の背後で、マレフィクス――ベゼが囁くようにそう言った。
ニヤッと笑い、服を白い羽根に変えて広げる。
ベゼは何故か、透明の私達の位置がハッキリと分かっている。
「こいつ!?」
「いつの間に!」
「なぜバレてる!?」
皆、咄嗟に持っていた武器をベゼに向けて振るった。
だが、ベゼは華麗に避けてベットの上に立つ。
「これは!?ベゼ様が!」
「侵入者か!?」
ベゼの部下が、部屋のドアを開けてやって来た。
だが、部屋には結界が張られている為、入ることは出来ない。
「何でもないから去れ。侵入者は僕が始末するか、気にしないで」
「ベゼ様がそう言うなら……」
ベゼの部下は、ベゼの命令によってその場を去っていった。
やはり、ベゼは戦闘やスリルを楽しむタイプ……部下に手伝ってもらうことはしないと踏んでいた。
「ホアイダ、仲間を連れてヴェンディの敵討ちに来たね。ちなみにさ、今僕は時を止めて君の背後に回ったの……ウルティマから奪った魔法さ」
ベゼは得意げにネタをばらし、ニコッと笑う。
「能力だけじゃなかったのか!?魔法も奪えるのかあいつ!?」
「それに時間を止めてその中を動けるらしい……ヤバすぎるな」
「なぜ我々が見えてる?」
部屋はかなり広い。
だが、ちょうど良い広さで、ベゼが暴れ回るような場所ではない。
どちらかと言うと、私達へに都合のいい場所だ。
結界が張られているから、お互いに逃げることは出来ない。
「まだ戦う意志のある者が居たとは、感動的だね。けどね、君らにとって無駄そのものだ」
「感動的だと?そうだな、お前を殺せるなんて感動的だ」
「死ぬのは君らだ。来い、魔王に立ち向かう勇者達よ……全力で生きて無意味に死ね」
近くの影が独りでに動き、ベゼの体を包み込む。
影がベゼの体を覆い、不気味に動き出す。
一気に五人も新キャラ出してすみません。私自身、よく分からないぽっと出のキャラを出すのは好きではありませんが、物語に必要なことをご了承ください(*´ー`*人)
五人の能力や名前を無理に覚えようとしないで、気軽に読んで下さいね( ¨̮ )




