第七十八話『卒業式』
*(ホアイダ視点)*
三月になり、卒業式の日になった。
ヴェンディも私も18歳になり、すっかり大人になってしまった。
私は医者を目指して勉強中、ヴェンディは死ぬまでニートする予定だ。
付き合ってからは何回か体を重ねた……だが、唇と唇のキスは一度もしていない。
「今日だな」
「恐らく」
「もしものことがあったらすぐ行く」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
卒業式の日、私は恐怖に苛まれながらも家を出た。
恐怖はあるが、ヴェンディの優しい笑顔を見ると、勇気が湧いてくる。
「卒業生代表、マレフィクス.ベゼ.ラズル」
六年間生活したエトワール学校との別れの日。
それを締めくくるのはマレフィクスだった。
体育館で大勢の人を前に、ステージに上がる。
マレフィクスの表情は情熱に満ちている。
そして、全校の前で演説を始める。
「ベゼが僕の故郷エアスト村を襲撃したことにより、僕はこの学校に転入することになりました。両親をなくし、故郷をなくし、生きる希望を失っていた僕を生かしてくれたのはこの学校です。辛い事が沢山ありました……ですが友や仲間が居たから今まで生きることが出来ました。感謝の気持ちでいっぱいです――」
マレフィクスは思ってもいない言葉を淡々と並べ、全校生徒の心を掴んだ。
「それと同じくらい今はワクワクが止まりません。思い出だらけのこの学校を壊すことが出来るワクワクで……」
その発言で、全校生徒がザワついた。
そして、マレフィクスの顔がベゼの顔に変わると、もっとザワつく。
「初めまして愚民共、マレフィクス.ベゼ.ラズル、我こそがベゼだ。それでは始めよう!大量虐殺を!」
マレフィクスがとうとう本性を出した。
しかし、この日に正体を現すことはこちらからしたら想定内。
保護者や外部の人間に化けていた警官隊が、全校生徒を囲んでいる。
その警官隊が範囲魔法を広げ、全校生徒や保護者と共に転移した。
勿論、そこに居た私も。
*(マレフィクス視点)*
――なんてこった。
せっかくマレフィクスの演説からのベゼの登場で盛り上げようと考えていたのに、観客が皆消えちゃった。
さっきまで居た全校生徒や先生達、全ての人が光と共に体育館から消えた。
どうやら、大人数で使う転移魔法で逃げたらしい。
つまり、僕が暴れることがバレていた。
「え〜、誰だよこんなの対策してた奴。一番有りうるのはヴェンディだな。僕のやりそうなことを分かってやったのかな?」
ガッカリしながら、ベゼの顔のままステージを降りようとする。
しかし、その瞬間扉から出てきた警官隊に銃弾を撃たれた。
「がはぁ!?」
「撃てー!!」
僕の体に、銃弾の雨が放たれる。
僕は銃弾を食らってその場に倒れる。
「撃ちながら近付け!」
警官隊は、倒れる僕の体に銃弾を放ちながら、ゆっくりと距離を縮める。
しかし、警官隊は僕の体に銃弾が通ってないことに気付く。
体に当たった弾丸は、全て弾かれている。
「貫いていないぞ!?」
僕はボロボロになった制服を白い羽根に変えて、ぐったりしたまま宙に浮く。
「能力番号47『音に合わせて弾く能力』。僕の体に銃弾が当たる音に合わせ、全て弾いてやった」
僕がそう言って、先頭の警官隊を睨むと、警官隊は一歩後ろに引いた。
「音のない魔法に切り替えろ!!」
そして、音に合わせて弾かれないような魔法をたくさん放ってきた。
「大バカ野郎共は愉快で楽しい奴らだ」
――能力番号30『他者の目と視界を共有する能力』。
今、前方に居る者全てに、僕の視界を共有させた。
つまり、今彼らが見ているのは僕の視界。
今僕の視界は、避けきれない速度で来る魔法の嵐だ。
よって、奴らはびっくりしてしまうのは当然。
「うわぁ!?」
「いつの間に!?こんな量の魔法を!?」
「おい!お前達何やってる!落ち着け!」
先頭の者は、周りの人の位置が分かっていない。
魔法を避けようと、周りの人間とぶつかり皆の足を引っ張る形になる。
「あはは!本当にバカだね」
勿論、僕本人は白い羽根で全身を覆い、魔法を守る。
――能力番号46『骨を操る能力』。
僕の体から、皮膚から突き抜けた骨が出て、化け物のような見た目になる。
そして、周りの人間を体から出ている骨で突き刺す。
「うげぇ!?」
「がはぁ!!」
死んだ人間の骨を操り、僕の骨と融合させて、骨だけで強力な兵器を作り上げる。
僕の体全体を覆える骨が、自由自在に動き、周りの人間達を次々と串刺しにする。
「うあああ!!」
「恐れることはないのだよ」
――能力番号5『相手から恐怖を無くす能力』。
これで、この体育館に居る警官隊から恐怖が一切無くなった。
叫ぶ者も、逃げる者も誰も居ない。
「突っ込め!!」
「恐怖が伴わない行動など勇気ではないわ!」
恐怖と共に勇気を失った警官隊を、再びゴミのように始末して行く。
しかし、そこに見覚えのある者が現れた。
白いフード、ハーフマスク、輝く剣――セイヴァーだ。
セイヴァーが僕の操る骨を断ち切り、前に出ていた警官隊を次々と紙にして地面の中に避難させた。
「一体一の戦いを挑む」
「良いよ」
セイヴァーが僕を睨み付ける。
すると、恐怖を思い出した警官隊が慌てて体育館から出て行った。
「僕が卒業式と言う晴れ舞台に、暴れることを予想してたのは君だろ?」
「違う……探偵ルーチェだ」
「あぁ、ネットに隠れ回ってる奴が居たね」
「来いよマレフィクス、もうベゼで居ることもないだろ?」
「いや、セイヴァーの前ではベゼで居させて貰うよ」
僕は周りの死体に、体から伸ばした骨を突き刺す。
そして、能力番号44『死体を操る能力』で、死体を動かす。
ゾンビのような動きで立ち上がる死体を前に、セイヴァーは嫌そうな目に変わる。
「大丈夫、もう死んでるから」
「クズめ」
セイヴァーは立ち上がる死体を剣で切りながら、骨を伸ばす僕に向かって来る。
骨を交わし、切り裂き、僕の懐まで辿り着く。
しかし、背中の羽根でセイヴァーを叩き飛ばす。
「くっ!」
吹き飛ぶセイヴァーは、受身と同時に床と自分を紙にして、床の中に逃げる。
僕は耳と感覚を澄まし、次セイヴァーが出てくる時に備えていた。
床からか、壁からか、はたまた天井からか、それは分からないが、出てきた所を叩く。
床がぐわっと動き、そこから何かが出て来た。
僕はすかさず、床から出て来た者を骨で突き刺す。
「バカめ!なっ!?」
しかし、床から出て来たのは警官隊の死体だった。
「手段を選ばないのは本当だったようだね……プライドを捨てたな」
そして、紙になった天井からも死体が落ちてくる。
僕はその死体も骨で突き刺し、周りを見渡す。
「がはぁ!?」
天井から落ちてきた死体の口の中から出た剣が、僕の胸を貫いた。
死体の口の中をよく見ると、体を紙にしてるセイヴァーが居るのが分かった。
「心臓を貫いてやったぞ。ベゼ……貴様の負けだ」
セイヴァーはそう言って、死体の口から飛び出し、僕の前に現れた。
しかし、セイヴァーの剣は僕の胸から抜けない。
「剣が……抜けない……」
「心臓?君が突き刺したのは体内で操った僕の骨だ。心臓は無事だよ」
僕はそう言い、胸から出た骨を手の形にし、骨で剣を持って丁寧にセイヴァーに返す。
「ちっ」
セイヴァーが剣を手に取った瞬間、すかさず骨でセイヴァーの片足を切り飛ばした。
「なっ、なああああぁ!!」
「油断ダメだよ」
セイヴァーは地面に蹲って片足を抑えた。
僕は容赦なく骨を鞭のように操り、セイヴァーに攻撃する。
「あああぁ!ボブ!!」
吹き飛んだセイヴァーは、紙から出て来た鷹に腕を引っ張って貰い、体育館の天井上へと逃げた。
 




